[レビュー]The Stone – Teatar apsurda (セルビア/ブラックメタル)
セルビアのベオグラード出身のベテランブラックメタル、The Stoneの7thフルアルバム。改名前のStone To Fleshから数えると8作目。2017年作品。バンドのブレインであるKozeljnik氏自身が運営するMizantropeon Recordsからのリリースで、自分はレーベルに直接オーダーしてゲットしました。
レーベルにオーダーした時のお話は↓で紹介しています。ご参考に。
[海外通販記]セルビアのMizantropeon RecordsにThe Stoneグッズを注文・編[第2弾]
関連情報
本作のレコーディングの編成は、バンドの中心人物であり、おそらくセルビアのブラックメタル界の最重要人物と思われるKozeljnik氏(ギター)、The Stoneのスタジオフルアルバムの全てに参加しているバンドのキーパーソンNefas氏(ヴォーカル)、本作から新たに加わったVrag氏(ベース)の3人。このVrag氏はバンドの方のKozeljnikやセルビアのベテランデス/スラッシュのInfestにも在籍しています。
前任のベーシストであるDemontras氏は本作には参加していませんが、本作の後にリリースされたEP”Kruna praha”ではギタリストとして参加しているので、完全に脱退したというわけではなさそうです。
加えて、本作でドラムスを担当するのは、彼らと深い親交を持つ、チェコのブラックメタルMaster’s HammerのHonza Kapák氏。ブックレットによると、このHonza氏の所有するHellsound Studioでドラムトラックの録音と、ミックス&マスタリングが行われ、その他のパートはセルビア国内のスタジオ2箇所で録音されたとのことです。
彼らThe Stoneは参加メンバーがいつも大物ぞろいなあたりが、さすが大御所と唸らされます。
彼らの作品は↓記事などなどで紹介しています。”The Stone”タグもよければご活用下さい。
織りなす狂気とオカルトとメランコリー
アルバムごとに結構編成が変わってたりもする彼らですが、彼らの音楽性というか作風は、それでも全くブレないところが凄い。
ドスドスとファストなドラムスのリズムに乗せて、壮大でミステリアスなリフがアルバムの幕開けを告げる1曲目。そこに加わるNefas氏の怨念こもったヴォーカルが邪悪です。これまでの作品はヴォーカルはあまり目立たない配置というか聴こえ方が多かったような気がしますが、本作は結構はっきりと前面に出てきているように思います。
曲中盤ではKozeljnik氏のものと思われるクリーンヴォイスのバックヴォーカルが重なって、これがまた不気味で素敵。それから後半で登場する、ツカツカとした2ビートとスラッシーなギターリフの組み合わせが、意表をついて現れるのが格好良い。
2曲目はトレモロリフがオカルティックに薄気味悪く響く曲で、この妖しい暗さがいかにもThe Stone。途中のうっすらとしたコード感(?)というかメロディ感がブラックメタル的悲哀を感じて素敵です。ドカドカとしたブラストビートの割合が多めなのでそれほど感じませんが、リフの雰囲気にちょっとデプレ系の香りを感じる瞬間もちらほら。
続く3曲目は、風の吹くような疾走感とエピック感が印象的な1曲。2曲目のどろどろした気味悪さから少し雰囲気が変わって、荒涼とした雰囲気が全編を支配します。そして後半には、アコースティックギターの音色を絡めた、ちょっとメランコリックなパートも登場するのですが、いかにも彼ららしいドラマ性です。
冒頭からブラストビートと邪悪なトレモロリフが炸裂する4曲目。本作でもひときわダイレクトに攻撃性を表現してる曲かもしれません。暗黒の炎が燃え盛ります。中盤のじゃらんとした(?)リフ使いも決まってて格好良く、何か得体の知れない強大な力が黒いものを撒き散らしていくかのよう。
そして5曲目は凶暴でありながら、ミステリアスさとドラマティックさが混在した、The Stoneらしい色彩感覚が冴えてる気がする曲。前半でアクセントに使われる高音弦のアルペジオ風トーンが、不思議な輝きを放ってます。
そして中盤でちょっとテンポを落としてツカツカと進行し、コーラス隊の雄叫びのような掛け声が、たまらなく劇的。音楽性を損なわずこういうワザを仕込んでくるのがお見事です。
―ぱっと聴き地味と思われそうな彼らの音楽ですが、印象的な瞬間はまだ続きます。
6曲目では破壊的な狂気と、どうしようもないメランコリックさが交錯する様子にハッとさせられます。本当に、嵐の様なトレモロリフが鳴り響く中、突然狂おしいほどのメロウさを湛えたリフに切り替わる瞬間の表情の移り変わりといったら!何か張り詰めていたものがプツリと切れて、一気に崩れ落ちてしまう様なあの感覚に似てるかも。
ラストの7曲目は冒頭から続くメインリフがストレートにクール。格好良い。本編の最後でも彼らは、自身の暗黒の魔術を放ち続けます。遠くの方でうっすら鳴ってる単音リフ?アルペジオ?が、めまいを起こさせるような呪術感をプラスしてて、音がただ通り過ぎるのを許しません。
中盤ではテンポを落とし、エピックに作品をシメにかかります。そこで聴かれる、ちょっとした勇壮さに心地よくなっていると、再び曲調は一転、高速ブラストビートと邪悪で不穏、気味の悪いリフが再び襲い掛かり、解けることの無い呪いの後味を残して、エンド。
全7曲48分ということで、「曲がコンパクトになった」と紹介した前作からまた、彼ららしい長めの曲で聴かせるスタイルに仕上がってますね。その中に、ここで紹介したようなThe Stoneワールドが詰まってる、という感じです。
こうして聴くと、やはり1つ1つはあまり目立ちにくいながらも、しっかりと多彩な要素が盛り込まれているのに気付きます。流して聴くと結構モノトーンのアルバムに聴こえるのですが、これ書きながら拾うように聴くと、決して退屈している間はないのです。
浮かび上がる独自性
前々作”Golet”~前作”Nekroza”あたりの作品ですでにほぼ完全にThe Stoneの音世界を確立しきっている彼ら。本作は変わらずその延長上にありながらも、よりエピックでベテランにふさわしい、威厳に満ちた貫禄を見せ付けてきてるように感じます。
相変わらず地味といえば地味ですし、その安定感が逆に、本作を含めた上記の作品群のどれを聴いても大して変わらない事になってる、と言われるとそれもまた事実なのですが・・・それでも作品ごとに確実に深化を続けています。
そしてその地味っぽさであまり省みられないような気がしますが、彼らの音楽に似たバンドっているのかを考えた時に、案外思いつかないのが、彼らの独自性を象徴してるような気もします。どう聴いてもブラックメタルだけど、何系とかなんとかのカテゴライズにどうも当てはまらないというか。。
いやでも、これはそろそろ、「地味?The Stone聴いて地味って言うヤツは聴き方が足りねぇよ」と言っても良いかも知れません。実際、色合いは地味でも、曲の展開や構成、メロディーは決して一本調子ではなく、聴き所はあちこちにちりばめられていますから。
Slayerでしたっけ?国内盤CDの帯のジャンル記載が、「スレイヤー」になってたの?God Hates Us AllアルバムだったかDiabolus In Musicaアルバムの頃の遠い記憶です。
そんな感じでときどき、「これはメタルではない。○○(バンド名)だ!」みたいな表現を見かけますが、このThe Stone、本作もそんな表現が似合う作品になっています。
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