[レビュー]May Result – Tmina (セルビア/シンフォニック・ブラックメタル)
セルビアのベオグラード出身のシンフォニック・ブラックメタルMay Resultの2ndフルアルバム。2001年作品。おそらくセルビアのブラックメタルの中では最も古くから活動をスタートさせているバンドの1つと思われます。
関連情報
本作”Tmina”に関しては、ちょうどリリース後の時期のものと思われるインタビュー記事を発見することが出来たので、その内容もふまえてバンド関連情報を見てみましょう。
バンドの結成は1995年。Kozeljnik氏(ギター・バックヴォーカル)、Ilija氏(ドラムス)、Rastko氏(ベース)の3人が中心となっていたようです。1996年にはデモをレコーディングし、翌97年にはそのデモのリリースと、1stアルバム”Gorgeous Symphonies of Evil”をレコーディングが行われました。
しかし、当初彼らが契約していたレーベルの金銭的問題によってリリースは白紙となってしまいます。1999年末にオーストリアのCCP Recordsと契約を交わし、翌2000年にようやく1stアルバムがリリースされました。
そして2001年夏に2ndアルバムである本作のレコーディングが行われ、同年に同じくCCP Recordsからリリースされています。自分が手に入れたのも、このCCP盤です。
この時のバンドの編成は、結成メンバーのKozeljnik氏、Ilija氏、Rastko氏に加え、後にThe Stone(当時はまだStone To Fleshを名乗っていました。)で活躍するGlad氏(ヴォーカル)、そのStone To Fleshにも在籍していたMilan “Urok” Rakić氏(キーボード)、Dušan氏の6人。
そしてゲストに、これまたStone To Flesh~The StoneのNefas氏(ヴォーカル)も参加していますね。女性ヴォーカルのパートは、今回は無しです。
この頃のStone To Flesh(現The Stone)と、このMay Resultの人脈はかなり入り組んでいて、なかなかややこしい。。。大雑把に言えば、中心になってるメンバーは同じなので、ほとんど兄弟バンドと捉えてもいいのかも知れません。
The Stoneの作品は本ブログでいくつか紹介しています↓
[Review]The Stone – Словенска крв(Slovenska Krv)(セルビア/ブラックメタル)
[Review]The Stone – Закон Велеса(Zakon Velesa) (セルビア/ブラックメタル)
インタビュー記事からその他
彼らのインタビュー記事の中には、他にも興味深い内容がいくつか書かれているので、ここでいくつか取り上げてみます。
最初の数ヶ月はバンド名がなかった
バンドの結成は1995年の6月との事なのですが、インタビューで語られるところによると、同年秋まではバンド名がなかったらしい。May Resultというバンド名はドラマー(ということはおそらくIlija氏)のアイデアだそうですが、なんでも、バンド名はいかにもブラックメタルというネーミングではなくて、「起こりうる終末」とか「その後ここに残るもの」みたいなニュアンスの神秘性と隠された不健全さがある、とのこと。
確かに、解釈によっては上記のようなある種のダブルミーニングのようでもあるし、直接的でない表現なぶんミステリアスでもありますね。
暗黒を表すいにしえの
セルビア語のアルバムタイトルの”Tmina”は英語ではたぶん、GloomとかBlackness、Darknessといった語に相当するようです。彼らの言葉によれば、完全なる暗黒のルーツとして位置づけられる語、だそう。またかなり古い言葉なんだそうで、それはアルバムのエッセンスを効果的に表すのにふさわしい語でもあるとのこと。
Too Old,Too Coldの精神みたいなものでしょうか。
古代の魔術師
Kozeljnikというのは、セルビアの古の魔術師の名前なんだそうで、その魔術師は儀式で動物をいけにえにして、そのはらわたで人々の未来を見ることができたという・・・んだそうです。
余談ですがBURZUMのCount Grishnackhも指輪物語の魔術師か何かの名前でしたね、確か。I Am the Black Wizards!!! 我は黒魔術師なり。
不穏で幽玄、そして甘美。ちょっとペイガン風。東欧の香り
重厚で不穏なイントロから幕を開ける1曲目。そのイントロに続けて、邪悪で荘厳なトレモロリフと背後を覆いつくすキーボードの音色。カバーアートのような邪悪な夜空の下、闇の軍勢が迫る不穏さが満載。キーボードのほわんとした広がり感が、邪悪でありながらなんともいえないエレガントさも醸し出しています。いきなり素敵すぎる展開。。
2曲目でも夜空の下、闇の軍勢は行進を続けます。3連リズム中心のこの曲は、そのリズムと相まってどことなくペイガン風の香りもします。The Stoneの初期作品のように音質は1枚フィルターを通した様な、やや不鮮明な感じで、特にギターは何をやってるのか聴き取りづらいのですが、キーボードの働きもあって、独特の雰囲気を生んでいます。特にそのキーボードの質感は、フィンランドの…And Oceansの初期作品に近いイメージ。
ゆったりしたリフと、美しく広がるキーボードが幽玄な幕開けの3曲目。ギターリフは案外スラッシーに疾走していきますが、キメのパートではやっぱり3連のリズムに切り替えて、めくるめく暗黒のシンフォニーが炸裂します。そして驚きは、中盤に突如切り込んでくる、オペラティックな普通声歌唱。巧いのかはよく分かりませんが、その声質がなんとなくヴァンパイア風。民族調メロディーも素敵。
4曲目は、アコースティックギターを静寂パートで使ったりと、緩急をつけながら進行する1曲。中盤以降のブラストビートに乗せて全パート前回で爆走するあたりは、ちょっとカオティックでありながらも、めくるめくシンフォニック感が非常に強力。
そして再び聴こえる普通声ヴァンパイア歌唱にドキッとさせられる5曲目。このキーボードのメロディ感と空気感は、どこをとっても個人的にツボすぎます。彼らの曲そのものはそれほどキャッチーな部類ではないと思われますが、この雰囲気を味わってるだけで、甘美さでメロメロになりそう><
6曲目の前半は、ゲストのヴァイオリン奏者が奏でる、セピア色のメロディーが物悲しく印象的。そして一転、これまでの幽玄さに加えて、ポロポロと鳴るキーボードの音色がまるで胸を引き裂くかのよう。これは本作の中でも最もドラマティックな曲でしょう。あれこれこの感じを表現する言葉を探してみますが、ちょっと筆舌に尽くしがたい。。。
そしてラストの7曲目。これもやっぱりキーボードの感じが…And Oceans風な気がします。ちょっと”Enthrone Darkness Triumphant”アルバムの頃のDimmu Borgirの様に聴こえる瞬間も。とはいえやっぱり全編に共通しますが、漂うのはたぶん東欧風のペイガンっぽさ?でしょうか。
本当に、困ってしまうくらい表現が難しいのですが、独特のほの暗いミステリアスさというか・・・。例えばキーボードの音色は暗く不吉な空模様、バンドの演奏は邪悪の軍勢の行進、アコースティックギターとヴァイオリンのセピア色の色彩は時おり見せるメランコリー、みたいな構図?。。。
アルバムのシメ、エンディングのパートでは再びヴァイオリンの泣きの旋律が登場。終始暗黒シンフォニック感満載で幕を閉じます。
個人的に超名盤
…And OceansやDimmu Borgirといった例を挙げつつも、全体を通しての印象は、個人的には昔のウクライナ勢の音のイメージと非常に重なります。
特に元Nokturnal MortumのSaturious氏がキーボードで参加した作品群・・・。Nokturnal Mortumの初期作はもちろん、初期Astrofaesや初期Lucifugumの作品がそれ。
あのキーボードの独特のシケ感というかチープさや音質のイマイチさから来るマジカルな響き、リフやリズム使いのやっぱりちょっと異教徒風の香り(?)といい、東の地下世界から勇ましい軍勢がやってくるあの不穏さといい(??)、非常に近いものを感じるのは自分だけでしょうか。
もちろんシケ感やチープさというのは良い意味で、です。最近のはフォローできてませんが、あの頃のウクライナ勢の作品って驚異的な名作ばっかり。そして偶然かは分かりませんが、ちょっと離れたセルビアから現れた本作と、各作品の発表時期もおおよそ重なっているという・・・。
なんだか徐々にコジツケめいてきた気もしますが、ともかく個人的には、本作はあのウクライナの名作たちと比肩しうる名盤だと思ってます。いやあの感じはたぶん、あの頃のウクライナ勢にしかないでしょう。あのマジックというかミラクルというか、本当に大好きなんです自分。
シンフォブラックが好きな方はもちろん、あの頃のウクライナ勢の雰囲気が好きな方にも、きっと受け入れられるんではないかと思う、バルカンはセルビアが生んだ珠玉の1枚。お見事。
Amazon様↓
続く彼らのコンピ盤は↓記事で紹介しています
[レビュー]May Result – У славу рогова наших(U slavu rogova nasih)(セルビア/シンフォニック・ブラックメタル)
参考にした記事
MAY RESULT INTERVIEW – METALKINGS.COM
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