[レビュー]Inspell – Arcadian Tales: The Egregore (ブルガリア/シンフォニック・ブラックメタル)
ブルガリア出身の2人組シンフォニック・ブラックInspellの1stフルアルバム。2006年作品。アメリカの目利きレーベル(?)Stormspell Recordsからのリリース。本ブログで紹介した作品、結構ココから出てるものが多く、本ブログ的には重要&要注目のレーベルになります。
手書きナンバリング入りの枚数限定らしく、自分のは516/950になってます。
関連情報
バンドの結成は2003年のことだそうで、結構なキャリアを持つ彼らInspell。当時の編成は、バンドのブレインと思しきNikolay Velev氏と、Stanislav Georgiev氏という2名によるプロジェクトといった体制だった模様です。
活動開始からほどなくして、同年2003年には1stデモとなる”Fairy Tales – Chapter One”をリリース。
2005年には本記事で紹介の1stフルアルバムである本作”Arcadian Tales: The Egregore”のレコーディングを開始。翌2006年にStormspell Recordsからリリースされました。このStormspell Recordsは、Inspellの出身国であるブルガリアやその周辺エリアの優良バンドのリリースを多く手掛けていて、本ブログ的にも注目いないわけにはいかないレーベルである、というのは冒頭に記した通りなのです。
さてそんな本作”Arcadian Tales: The Egregore”ですが、制作にあたってはNikolay ”Sverd” Velev氏(ヴォーカル、ギター、キーボード、プログラミング)と、Stanislav “StanG” Georgiev氏(ギター、ベース)の2名編成。2003年のデモと同一の布陣ですね。
それから、2006年の本作の後、長い時を経て2017年には2ndフルアルバムとなる”Murder Tales: I Confess”をリリースしていて、バンド(プロジェクト?)は今も健在。というか仕掛け人のNikolay Velev氏、このInspell以外でも数えきれないくらい多くのバンド/プロジェクトに関わってる経歴の持ち主なので・・・そう簡単に音楽から離れることのない魂の持ち主ということなのかも知れませんね。
壮麗でメロディアスなダークシンフォニック
壮麗なキーボード、シンセによる装飾で繰り広げられるシンフォブラック。例えばシアトリカルだったり、エピック風だったり、ストーリーテリング風だったり、という劇的な雰囲気はCarach Angrenを思わせる感じも。
音は透明感もあって分離も良い、シンフォブラックらしい感じ。おそらく打ち込みと思われるドラムスは、あまり不自然さを感じませんが、ヘッドホンなどで大音量で聴いてると各楽器の配置?のまとまりのなさが目立ってしまうかも。そのせいでちょっと聴いてて疲れそうな気もします。
本編1曲目は、幕開けに呪術的なフレーズを持つギターリフがミステリアスに進行。中盤ではシンセの音色がシャラシャラと跳ね回るような緊迫感。緩急をつけながらグリグリと聴き手に迫るあたり、ツカみはなかなか好感触なシンフォブラックと言えそうです。
シンセ/ギターリフが(既に!)前曲に似てるので、初見では長尺の同一曲かと思った2曲目。曲中盤の、どこか物悲しいキーボードの装飾がメロウで甘美な瞬間を醸し出してますが、対照的にスリリングなパートも配置されてて、聴いててなかなかドキドキします。
メインのトレモロリフと疾走するリズムがメロデス風?のヒロイックさとクサ味を放って、ダークファンタジーらしい暗さと美意識を感じる3曲目。曲中でのメロディ感や攻撃性がずいぶんストレートに表に出ているので、即効性も見事。聴いててすぐカッコイイ!とかテンション上がって盛り上がりそうです。
ザクザク刻まれるリフに、スラッシーなビートがスリリングな4曲目。シンセの不穏な響きが楽曲を覆って、薄暗い緊迫感がたっぷり充満してます。サイコパスっぽく滲み出る狂気の描写が素敵。刃物持って、ひきつった笑顔でこちらにでも向かってきそうな。。。
6曲目は畳み掛けるメロデス風のギターリフが印象的で、アルバム中盤でのハイライトになる1曲と言えそうです。疾走するリズムの目まぐるしいスピード感に、管楽器風のシンセの緊迫感、グリグリ&ザクザク迫るリフのメロウな歌心が一体となって襲い来る感触が素敵。
7曲目はミドルテンポでどこか壮大な空間の広がりを感じさせる曲調。暗く歪んだ幽玄な夜空を描くような雰囲気でしょうか。中盤のブラストビートとトレモロリフはどこか寂し気というか孤独な悲哀を感じさせるような印象でもあります。聴いててうっとりさせるような陶酔感に包まれるシンフォブラックが甘美な一品。
ラストを飾る9曲目は、かなりメロデス寄りのメロディックなギターリフと派手めなキーボードの演出で止めの一撃を放ってます。かと思いきや、中盤の重厚なスローパートが一筋縄ではいかない異形のドラマを地の底から響かせていて、心地よい悪夢がずっと続くかのよう。
強いて欠点を挙げるとすれば、同じアルバムの中なのに、「あれ?さっきも聴いたようなリフ?シンセの音?」みたいな瞬間が散見されるのが玉に瑕、な印象。アルバム全体の色合いはずいぶん統一されてて、でもそれが決して単調な訳ではないのですが、ところどころの展開というか演出がダブってるような気がして損してる、みたいな。。。
王道シンフォブラックの安心盤
総じてストレートに分かりやすい格好良さとかドラマ性と、ダークな煌びやかさもたっぷりのシンフォブラックなので、割と多くの人に受け入れられそう。ギターリフのフレーズ等は、メロデス方面が好きな皆様にも結構アピールしそうな気もします。
シンフォ系としてはいたって普通、ともいえるバランスの作品ですが、逆に言えば基本に忠実というか、アンダーグラウンド系シンフォブラックの王道を行く仕上がりの一品。あんまり深く考えなくても、聴くのに集中しなくても、再生ボタン押して鳴ってるだけで楽しめる素敵盤です。
安心と信頼のStormspellリリースなので、見かけたら皆さんぜひ買いましょう。。
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