[レビュー]Angelgoat – Primitive Goat Worship (セルビア/ブラックメタル)
セルビアのVrbas(ヴルバス・・になると思います)出身の独りブラックメタルAngelgoatの2ndフルアルバム。2017年作品。ジャケ写といい、バンド名といい、いかにもな感じがプンプンです。
周辺情報的なもの
公式HPによると、バンドはセルビア北部、ヴォイヴォディナ自治州に位置するVrbas(ヴルバス)という町で、Unholy Carnager氏によって2001年に結成。ヴォイヴォディナといえば、その州都であるノヴィ・サド(Novi Sad)が比較的有名で地理的にも近いでしょうか。結成から4年後の2005年に1stデモをリリース。
その後ドラマーにOccultum Malleus氏、ギターにSabbathorn氏を迎えていますが、彼ら3人はCatastrophyというブラック・スラッシュ系のバンドでも一緒に活動していたようです(そのCatastrophyは後に解散)。
2008年には1stフル、“U Slavu Satane”をレコーディングしていて、翌年にリリースされています。
Metal Archivesにも載っていますが、1stアルバムリリース後の2008年から2015年までの活動休止期間を挟んで、2015年には2ndデモを、そして2017年には本作“Primitive Goat Worship”がセルビアのGrom Recordsからリリースされました。
2015年の活動再開後は、完全にUnholy Carnager氏による独りブラックになっていて、すべての楽器を彼が担当しているようです。
お手本のようなプリブラ?
バンド名、Angelgoat。
アルバムタイトル、“Primitive Goat Worship”。
そして、コープスペイントが浮き上がる白黒ジャケ。
これだけで、このバンドの音楽がどんな感じか十分想像できそうですが、たぶん読者の皆様の想像通りのブラックメタル、ということで間違いないと思います。
非常にストレートでプリミティブな、オールドスクール・ブラックで、自分はこういうの最高に好きなので、セルビア産という事とも合わさり、ニヤニヤが止まらない感じなのですが・・・
特に新しくも何でもない、これまで数多の白塗り野郎共がカリガリ鳴らしまくったであろうブラックメタル、そのままのスタイルです。まさに絵に描いた様なブラックメタル、といって良いかもしれません。
実際の質感は、”A Blaze in the Northern Sky”や”Under a Funeral Moon”の頃のDarkthroneの、あの感じの雰囲気に非常に似たものを感じます。加えて、もう少しブラスフェミーな(?)チェーンソー系のノリをプラスした様な。。
楽曲にテクニカルな要素はほどんどなく、バカスカとしたドラムビートに、パワーコード(?)かき鳴らし系のちょっとザラザラしたリフがガリガリなってる、ほぼそれだけ。そのあたりはまさにプリミティヴ。
音質はこういうブラックメタルとして、非常にちょうど良い感じだと思います、個人的に。程よくザラっとしたローファイでありながら、何やってるかわからないほど不鮮明でもない、そんな具合。ドラムスの金属音がシャカシャカ大きめなのも個人的にはツボ。その方が騒々しい憎しみにあふれる様子に聴こえませんでしょうか。
各曲
かすれた絶叫がスローなギターリフに乗る、導入曲的な1曲目に続いて、不穏な進行でノイジーに炸裂する2曲目が、本作全体を覆うトーンをよく表して見せます。
続けてバカスカ・ザラザラとブラックメタルがかき鳴らされる4曲目・・・中盤のミドルパート刻みのリズムがすさまじく怪しい不正確さで、めまいを起こしそう。
たぶん結構、スキルギリギリの曲というか演奏でやってる、という事なのでしょう。ところどころその演奏が怪しいのですが、そんなことはお構いなしの、前のめりな演奏。そういう怨念めいたものが封じ込められているとすると、なかなか好感が持てるような気がします。
出だしのマッチョ風なリフが格好良い3曲目、3連(?)のリズムでジワジワ進むあたりは、まさにDarkthroneのUnder a Funeral Moonアルバムに入ってる、”To Walk the Infernal Fields ”の感じ。中盤ではブラストビートを加えてくるのがAngelgoat流ってことかもしれませんが、そのあたりがやはりチェーンソー風味だと思います。
Goat Worshipの饗宴は続き・・・ますが、アルバム中盤以降は、曲の持ち味がどれも似たりよったりという事もあって、だんだん何聴いてるかつかめなくなってきそうな感じもします。この邪悪に浸るだけで十分、こまけえことはいいんだよ、と言うと少々乱暴ですが。。。
曲タイトルや歌詞はほぼ英語なのですが、8曲目のみ、セルビア語で書かれてるようです。言葉の違いによる印象の変化は・・・分かりません。ハスキー絶叫なヴォーカルはもともと、英語詞でも聴き取るのは難しい感じなので、それがセルビア語になっても、もはや初めから何言ってるのか分からないのは変わらず。。
同じセルビア語詞を使うThe Stoneなんかは多少、英語とは確実に違う独特の響きが、特有の雰囲気を生んでるようにも思ったのですが。
あ、あとヴォーカルの声質はフランスのMutiilationの昔のアルバムでの、Meyhna’ch氏の絶叫に似てるかも。
<参考>↓ブラックメタルのセルビア代表と言えば彼ら。全編セルビア語詞。
暗い心のお供に
・・・ここまで曲単位で耳を澄ませてみましたが、基本的にはどこを切り取ってもやってることは同じ、金太郎飴アルバムかも。時折緩急をつけスロー・ミドルパートを挟みつつも、メインはファストな2ビート(?)とブラストビートの爆撃が続き、ギターはガリガリとコードが鳴りっぱなしで、ひたすら邪悪な怨念をぶちまけまくるという・・・。素晴らしい。
とはいえ、たぶんこういう音を出してるバンドなんて掃いて捨てる程いると思われるので、このAngelgoatのブラックメタルも没個性的という事になってしまうんでしょう。
しかしながら、セカンドウェイヴから数えてももう25年以上たって、ブラックメタルもずいぶん深化した様に思えますが、ときどきこういう懐古趣味というか、アルバムタイトル通りのプリミティヴさというか、ブラックメタル原理主義??みたいな音を聴くと、個人的にはなんだか安心します。
私事ですが、実際ブラックメタルのこういう感情直結っぽい破壊衝動や憎悪っぷりが、自分自身の波長と近い気がしてて・・・
その意味でやっぱり、未だにこういうスタイルでブラックメタルをやってくれるってのは、とても意義のある事だとも思うのです。
だって実際現実なんて、邪悪と嫌悪感にまみれた忌々しい場所でしか、ないでしょう。そんな世界を、良く表してくれてる、素敵な1枚に違いありません、きっと。
主にバイオグラフィー関連で参考にしたAngelgoat公式HP↓
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