[レビュー]Infest – Psychosis (セルビア/デスメタル)
セルビア出身の爆裂デスラッシュInfestの6thフルアルバム。2021年作品。ドイツのDefying Danger Recordsからのリリース。
関連情報
バンド結成は2002年。フロントマンのVandal氏を中心に彼らのキャリアはスタートしました。
2007年の1stフルアルバム”Anger Will Remain”以降、コンスタントに活動を続け、本作のリリースまでにはフルアルバム5作と、EP1作をリリースしています。
セルビアのバンドとしてはかなり継続的に活動を続けている、数少ないバンドの1つ。そのキャリアを通して培った人脈も注目すべきもの。これまでの作品で活動を共にした人物や、ゲスト参加の人物など、名前を見ていくとそのそうそうたる顔ぶれに驚くとともに、Vandal氏というかバンドInfestとしての顔の広さに圧倒されそう。
そんな彼らの、前作より4年ぶりの待望の新作が6thアルバムとなる本作”Psychosis”です。
編成はVandal氏(ヴォーカル、ギター)、Tyrant氏(ギター)、Zombie氏(ドラムス)という長きに渡り活動を共にする3人に加え、本作よりStorm氏(ベース)が新加入。このStrom氏はRodoljub Raičković氏というクレジットで、本作のプロデュースとミックスを手掛けている多才な人物。
それからマスタリングを手掛けるのはあのDan Swano氏で、氏の所有するUnisound Studio。本作で鳴り響く磨き抜かれた音作りに多大な貢献をしてるものと思われます。
さらに、恒例の(?)ゲストミュージシャンも充実。USデスの重鎮ImmolationからRobert Vigna氏がギターソロで、Ross Dolan氏がヴォーカルで参加。
こういうのを見ると、Dan Swano氏によるミックスもあり、彼らInfestが着実にワールドワイドなスケールでキャリアを推し進めている事がうかがえる気がします。
加えて同郷セルビアからは、メロデス/スラッシュのAlisterやChaosiumのIgor Miladinović氏がクリーンヴォーカルで参加していて、彼らの楽曲の新基軸ともいえる色彩を添えています。
爆走と重厚さのコントラスト
アルバム冒頭を飾るイントロ1曲目は、悲鳴やら絶叫がこだまする中、ニーチェの一節が読み上げられます。「個人の中に狂気を見出すのは稀である。しかし集団、党派、国家、時代となると、それは支配者である」みたいな。
そして爆裂暴走デスラッシュInfestによる蹂躙劇の幕開けが2曲目。ダン、ダン、ダダン、みたいなキメとみじん切りシュレッドリフが無慈悲に荒れ狂い、全てをなぎ倒していく様はいきなり圧巻。
・・・ここで気付くのは、音作りがこれまでよりもさらに強力にブラッシュアップされた事。本作では聴いてて明らかに音のタイトさが増してます。なんというか、1音1音のエッジのあたりがくっきりしたというか、余分な滲み”だけ”をうまくそぎ落として切れ味を増してきたというか。これまでの作品も迫力満点のデスラッシュを満喫できるリッチなサウンドで、全然不満を感じることはなかったのですが、まさかこれ程磨き上げの余地を残していたとは。。
3曲目も爆走デスラッシュがドカドカバシバシ炸裂して、良い意味でいつものInfestの爆裂ぶりを堪能できる一品なのですが・・・ここで彼らの(たぶん)初の試みと思われる、クリーンヴォーカルによるコーラスが堂々たる威厳を放って登場。ゲストのIgor Miladinović氏による歌唱ですが、これがこれまでのInfestとは一味違う表情を見せてます。
同じ東欧産という事で?これまでポーランドのVaderとの共通性みたいなものに触れてた気もしますが、それどころかここではほとんど巨獣Behemothにも近い、炎揺らぐ高貴なる荘厳さでしょうか。爆撃がひたすら続くだけではない、ドラマティックさがここに封じ込められてますね。
続く4曲目も高速爆走系。ここではリターリフの質感がちょっとメロディアス&ヒロイックで、どことなく胸のすく飛躍感みたいなものを感じる雰囲気。爽快感と表現したらいいのか、聴き手によってはこの曲が本作の1番に挙げる人もいそう。キャッチーな疾走感に、後半のギターソロの伸びやかさも素敵です。
5曲目は珍しく、スロー&重厚に締め上げるように迫る一品。これまでの作品でも高速で炸裂してく楽曲がほとんどなイメージなので、ここで再び彼らの新しい面を聴いた気のする瞬間。ここでは前述のImmolationからRobert Vigna氏がギターソロで、Ross Dolan氏がヴォーカルで参加。地獄の業火かの様なディープなグロウルと、情感たっぷりドラマティックに響き渡るギターソロで曲をさらに強力なものにしています。
8曲目は抑え目のテンポで進行する重厚系で・・・やっぱり爆走一辺倒でなくこういう路線も増えた?と思わせる一品。そしてその巨獣のうごめきを思わせるぐいんぐいん感(?)がやっぱりBehemothを連想させるのは自分だけ、でしょうか。。。炎燃え上がるギターリフのぐつぐつ感といい・・・これが東欧の深みなのかはもっと追求が必要かも。
疾走感と勇壮なメロディー感が印象的な9曲目。とりわけコーラスの正統派っぽいストレートなアツさと、そこから続く”We are legion!”の叫び、ハッとさせられる格好良さ。で歌詞を追ってみると、ここでも言ってます「己の心を燃やせ!」と。聴く者を鼓舞するデスラッシュ・アンセム。
10曲目は冒頭での、頭打ちのドラムスのドカドカ連打が痛くて強力。ラストまで彼らInfestによる絨毯爆撃は続いていきます。
11曲目はアウトロにあたるのでしょうか、例えばライブでみんなで拳を上げて大絶叫、みたいな絵の浮かぶ大合唱。最後はフェードアウトして、アルバムは幕を閉じます。
好バランスの最高品質
彼らInfestの作品は本ブログでもいくつか紹介していますが、そこでのイメージは容赦なく攻撃と殺戮を続ける暴走デスラッシュ、といった感じでした。
楽曲としては基本爆走、遅い曲?んなもんいらねーよ、みたいな潔さで全速前進、引き金引きっぱなしの打ちっぱなし。銃身焼けカンケーなしの無慈悲なハチの巣コースでしたね。おかげで確か、全曲速くてサイコーなのに、聴いてて金太郎飴みたいになってる、って贅沢すぎる悩ましさにも触れてたはず。
一方、本作ではそうした爆裂要素に加えて、熱く重厚なスロー・ミドルテンポの楽曲も交えて、1枚の作品としてその中に随分コントラストが生まれた様に感じます。今のところ全作品聴けてる訳ではないのでアレですが。。。
こうしてみると、バンドとしての成熟もそこにはあるのかも知れません。暴走一辺倒ではない、引きの美学とでも言うのか、そういうものを封じ込めてきましたね。
実際その辺のバランス感覚は見事で、金太郎飴みたいな、全部同じに聴こえる感じというのは払拭されてます。それでいて、上質な音作りもあって彼ららしい爆裂感は全く損なわれていないという。
長きに渡るキャリアを通して培ったInfest節の最新の姿。もはや単なるVader型デスラッシュとは言わせない出来栄えの作品。最初のチョイスとしてもぴったりでしょう。
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