[レビュー]The Stone – Golet (セルビア/ブラックメタル)
セルビアのベオグラード出身のベテランブラックメタル、The Stoneの5thフルアルバム。改名前のStone To Fleshから数えると6作目。2011年作品。セルビアのバンド、とりわけブラックメタルとしては、これだけコンスタントに作品をリリースし続けているのはかなり珍しい。
周辺情報的なもの
本作のラインナップは、The Stoneの仕掛け人(?)のKozeljnik氏(ギター)、Nefas氏(ヴォーカル)、ブラックメタルSamrtでも活躍しているDemonetras氏(ギター)と、L.G.氏(ドラムス)の4人と、セッションベーシストのOdious氏。
レコーディングプロデューサーには、Master’s HammerのHonza Kapák氏を迎え、彼が所有するHellsound Studioで録音が行われています。
Honza Kapák氏はセルビアのブラックメタル界と親交の深く、The Stoneをはじめ、BaneやKhargashなどなど、本当に多くのバンド達と関わっています。
上記関連バンドの記事も置いてますのでご参考に↓
[Review]Samrt – Mizantrop Mazohist (セルビア/ブラックメタル)
[Review]Khargash – Pathway Through Illumination(セルビア/シンフォニック・ブラックメタル)
[Review]Bane – Esoteric Formulae(セルビア/メロディックブラック・デス)
じわじわと染みてくる仄暗さ
本稿執筆時点では、前作”Umro”アルバムを聴いていないので、前作比○○という比較は出来ないのですが、全然作”Магла”(Magla)アルバムは既にレビュー済みなので、必要に応じてその比較も交えながら聴いてみましょう。
ということで、印象的なパートを中心に触れてみたいと思います。
彼らにしては割とストレートなリフで堂々と入る1曲目。緩急をつけながら進行していき、中盤のスローパートでは、ちょっとフランス勢あたりが出してそうな神秘性漂う雰囲気。ちょっと地味かも知れませんが、この曲の聴きどころはこのスローパートかも知れません。エモーショナルなギターソロも入ったりして、The Stoneのアートがさっそく繰り出されますね。
2曲目は厭世的?なトレモロリフを絡めながらミドルテンポで入り、その後ドスドスと疾走するという展開の曲。これもやや地味っぽいのですが、それでいて後半の場面転換後のリフ使いは妙な引っ掛かりを生みます。
そして不思議な疾走感を持つ3曲目。彼らの音楽は決して明るくはないですが、この曲はどことなくセンチメンタル寄りのメロディー感というか、哀愁?が漂います。ある種の美しさといっても良いかもしれません。強烈な感動はないけれど、どこか心から離れない魔力があって・・・。
続く4曲目は後半がカッコイイ。前半はうねうね煮え切らないリフの地味さで、聴く人によってはスキップしたくなるかも知れませんが、その後には驚くようなスリリングな展開が待っています。ジャラーン、ジャラーンという恐怖感を煽るギターの音色に、緊張感を高めるような2ビートのリズム、そしてハイハット(かな?)のカウントをしなっと入れた直後、一気にブラストビート全開。
このあたりまで聴き進める頃には、こんな爆裂展開を期待しなくなってたので驚きました。とても効果的な仕掛けではないかと思います、ホント。
Demonetras氏のペンによる5曲目は、全編に漂う荒涼とした雰囲気が刺さる1曲。良い意味で起伏が少なく、じっくりとその世界に浸ることができます。
そして前曲と同じトーンで入って行く6曲目。9分強の大作です。同じく荒涼として寒々しい雰囲気の入りは、そのつながり感が見事。一方こちらはスタスタと速いビート主体なので、そのあたりが似て非なるコントラストを生み出しているようにも思います。中盤のブレイクとギターソロはとてもエモーショナル。そのおかげで曲の長さはほとんど感じません。
7曲目は本作で一番驚かされた必殺の一品。冒頭のうにょうにょしたリフとアグレッシブなドラムスのリズムが、独特の、異様な気味悪さを放ってます。おそらく収録曲の中で一番冴えてるんではないでしょうか。ミサンスロピーかニヒリズムか、なんというかそういうダークさが輝きまくってます。個人的にも本作で1番の曲。
ラストの8曲目は・・・ミドルテンポ主体で、最後の割りに地味?この曲も9分台の長さですが、特に印象に残らず過ぎていってしまいました>< よく言えば淡々とした壮大な終焉とも言えなくもないかも知れませんが、直前の8曲目が強力なだけに、あれれ?と思ってるうちに終了。
やや地味ながら聴き所も多い安定盤
全体の印象としては、過去作品のおよそ延長上にある作風といって良いでしょう。前作がどんな具合なのかは気になるところですが、前々作と比較すると、オカルトっぽさやペイガン風味は薄れて、その分ちょっと内省的な暗さというか、ニヒリスティックな雰囲気が増した気がします。
曲の構成要素で言うと、ブラストビートを使うようなパートは減って、じわじわ訴えかけるようなミドルパートが増加。ドゥーミーとまではいきませんが、The Stoneらしい、独特の思わせぶり感がより強くなったようにも感じます。一方で、紹介したように、印象的なギターリフやパートもところどころにちりばめられているので、聴いていてダレることも少ないんではないかと。
1曲の長さが長めなのはもはや完全に伝統、あるいはKozeljnik氏のスタイルと化しているようで、短くて5分台、長いもので9分を超えます。それでもだらだらと付き合わされるような気分にならないあたり、きっと曲の組み立てが見事なのでしょう。ベテランのなせる業ですね。
おそらく本作あるいは前作のあたりで、こういうThe Stone独自のスタイルが完全に確立されたのでしょう。本作では安定感抜群の仕上がり。聴く人によってはただ地味に聴こえるかも知れませんが、一度彼らのテイストを理解しさえすれば、彼ら独自のダークなブラックメタルを感じ取ることがきっと出来る、全8曲58分。
ということで、本作”Golet”は彼らの中期(?)の安定盤という事で概ね間違っていないでしょう。
ブログでは彼らの最新作も紹介しています。ご参考に↓
[Review]The Stone – Kruna praha (EP) (セルビア/ブラックメタル)
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