[レビュー]The Stone – Nekroza (セルビア/ブラックメタル)
セルビアのベオグラード出身のベテランブラックメタル、The Stoneの6thフルアルバム。改名前のStone To Fleshから数えると7作目。2014年作品。ドイツのFolter Recordsからのリリースです。
関連情報
インタビュー記事によると、前作”Golet”のリリース後は、アルバムをフォローするためのライブに注力してたそうです。ヨーロッパの各国で、Inquisition, Nifelheim, Vulcano, Corpus Christii, Isvindらと競演した、との事。
そしてその後、本作”Nekroza”の制作に取りかかり、完成までにはおよそ1年を費やしたそうです。
レコーディング時のメンバーは、Kozeljnik氏(ギター)、Nefas氏(ヴォーカル)、Demonetras氏(ギター)、L.G.氏(ドラムス)の4人は前作と同じ。加えて、ブラックメタルのTriumfallやKozeljnik等にもいたUsud氏が加入しています。
過去のリリースを追ってみると、いくつかのメンバー交代がありながらも、アルバムは2~3年おきにコンスタントにリリースされていて、本作も前作からは3年を隔てた後のリリースになります。
なんでもインタビュー内のKozeljnik氏のコメントによれば、客観的になるのは難しい、としながらも本作はバンドを導く新しい次元の扉を開いた、ということらしいですが・・・以下で本作がどのような音像なのか、その新次元の世界とはいかなるものか、みてみましょう。
冷笑とメランコリーのドラマ
1曲目冒頭の短いオーケストレーションは、Rotting Christの“Ritual”アルバムのオーケストレーションも手がけたという、Nikola Nikita Jeremić氏によるもの。そして続けざまに奏でられるメロディが、ゆっくりと、しかし確実に、再びThe Stoneの音楽が示されることを宣言してみせます。邪悪でありながら、神秘的な雰囲気がこの曲を支配していますね。
2曲目は、ニヒリスティックなリフというかメロディが妙な引っ掛かりを生む、The Stoneらしい曲。以前の”Mgla”アルバムあたりで聴けた雰囲気にちょっと近いような気もします。一方でそのちょっと人を食ったような雰囲気を、堂々たる貫禄でまとめてみせる説得力はさすが。ベテランの技です。
ドカドカとしたブラストビートで幕を開ける4曲目。ギターリフは嵐が吹き荒れるような狂気をはらみながらも、曲中盤以降では、ちょっとメロウなトレモロリフが切り込んでくるのが印象的。凶暴なだけでなく、そうしたヒネリをちょっと仕込んでくるあたりがThe Stone流、でしょうか。
ここまで聴いてると、曲の構成がちょっとダイレクト寄りになった?という気がしてきます。内部の構成がシンプルになってるというか・・・。本当にそうなのかもう少し聴いてみましょう。
シンプルになった?と書いたとたん、独特のうねうね迷子になるようなギターリフで聴くものを再び翻弄しにかかる5曲目。言葉にするのはやっぱり難しいのですが、相変わらずの彼ら、です。邪悪なだけでなく、どことなく冷笑的なニュアンスも感じるのがこの曲のポイントになるかも知れません。
本作収録の曲の中で唯一、Demonetras氏のペンによる6曲目。ほんのりメロディアスなトレモロリフとブラストビートで入って、中盤で閉塞感とちょっとした神秘性が香る展開は、彼が手がける別バンドSamrtのスタイルにも通じるものがありそう。・・・とはいえそれほど他の曲とのギャップがあるわけでもなければ、この曲がとりわけ光ってるって事でもないのですが。。。
7曲目も割りと従来どおりのThe Stone節を持つ、7分台とちょっと長めの曲です。序盤の、ミュート気味にザクザク刻みつつもちょっと歌心の香るリフは、昔のRotting Christみたい?その後は疾走パート主体で進行しますが、後半スローダウンして以降の展開は非常にエモーショナルで、ギターソロがさらにそれを強力なものにします。まるで暗黒の鎮魂歌。
前半から冷たくスローなリフで妖しく進んでいく8曲目。対照的に、キメのパートで奏でられるメロディは結構アツイ響きをともなって、はっとするようなコントラストを感じます。・・・のですがちょっと地味?そして中盤以降一気にアグレッシヴなパートになだれ込んでいくのですが、これは素直に格好良い。メロブラと呼ぶほどではありませんが、メロウなリフとメロディが見事に効いていて、まるで泣きを誘うようです。
ラスト2曲にあたる、9曲目と10曲目は、再びコンパクトでダイレクトな曲の2連発。9曲目はとりわけデス・ブラックの様な、邪悪なリフとアクレッシブなリズムでゴリ押し風。
そしてラスト10曲目は、出ましたトドメの嫌みったらしく冷笑的で薄気味悪いメロディーを持つ、The Stone得意の、地味に不快感を煽っていくスタイル。最後はフェードアウトしていき、後味の悪さだけを残します。。。
Demontras氏のバンドSamrtは↓記事で紹介しています
[Review]Samrt – Mizantrop Mazohist (セルビア/ブラックメタル)
変わらぬ抜群の安定感
本作”Nekroza”アルバムでの最大の特徴は、これまでの作品にはなかった、コンパクトでダイレクトな曲を入れてきた点でしょう。体感的には、コンパクトな曲と従来風の長めの曲の割合はちょうど半分ずつという印象。曲の再生時間を見ると、全10曲のうち5曲は5分以下でした。
これは彼らの作品ではほぼなかった構成です。
聴いてて、ダイレクト寄りになった?という印象は、やっぱり間違ってませんでした。
とはいえ、全体的にやや地味めながら、ときおりメロウだったり、ニヒリスティックだったりするメロディーや、攻撃性とドラマ性のコントラストは全く変わっていません。彼らのスタイルそのままに、部分的にそれを凝縮してまとめてきている様な感じでしょうか。
おかげで、必要以上の難解さは薄れて、より彼らの音楽を掴みやすくなったように思います。その意味ではもしかすると、The Stone入門には最適の1枚になるのかも知れませんね。
実際、前作以降の、安心感というか安定感は抜群に良くて、それは本作でも同様。そして次作も変わらぬThe Stoneのブラックメタルなので、なんというか、円熟味をさらに増した彼らのアートとして、確立されまくっていると言えるでしょう。ホントブレないその姿に脱帽。
参考にしたインタビュー記事↓
Das Interview mit Gitarrist Kozeljnik der Band The Stone zum neuen Album Nekroza (English Version)
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