[レビュー]Nadimač(Надимач) – Državni neprijatelj broj kec (セルビア/スラッシュメタル)
セルビアの首都ベオグラード出身のスラッシュメタル、Nadimač(Надимач)の1stフルアルバム。2009年作品。
なのですが、実は自分がゲットしたのは、”Iz Keca U Kec”というタイトルで2017年にリリースされた、1stアルバムと2ndアルバムを丸ごとカップリングした(!)超お得なコンピレーション再発盤。
お得といえば、これもセルビア旅行中に現地で買ったものの1つなのですが、599ディナールで600円強で素晴らしい。
これをレビューするにあたっては、丸ごと書くか実際のアルバムごとに分けて書くかちょっと悩みました。結局、作品ごとの特徴を見るうえでは分けたほうが良い気がしたので、この記事では彼らの1st”Državni neprijatelj broj kec”に焦点を当てて紹介したいと思います。
同時収録の2ndアルバム”Po kratkom postupku”は↓記事で紹介しています
[Review]Nadimač(Надимач) – Po kratkom postupku (セルビア/スラッシュメタル)
関連情報
バンドのバイオグラフィーについては、以前にご紹介した彼らの3rd”Nejebanježivesile”アルバムの記事に詳しいのですが・・・改めて貼っておくと、
バンドの結成は2003年。セルビアの首都ベオグラードで、友人同士だったDragan “Draganče” Ristić氏(ドラムス)と、Marko “Zec” Pavlović氏(ベース)の2人で結成。結成当初はジャーマンスラッシュあたりのファストなメタルを目指していたんだそう。
2007年には1stデモ”Vukodlak Metal”をリリース。この時点でのラインナップは結成メンバーのDragan “Draganče” Ristić氏、Marko “Zec” Pavlović氏の2人と、Miloš “Krle Macola” Krstić氏(ギター)、Dušan “Glasna Komora” Koprivica氏(ヴォーカル)。現時点では自分はチラ聴き程度なのですが、確かにこの頃は初期Sodomみたいなジャーマンスラッシュっぽい、ちょっとどろどろしたオカルト風味もするスラッシュメタルを演っていますね。
その後2007年?2008年?頃にギタリストのStefan “Ćora” Ćorović氏と、ヴォーカリストのDanilo “Dača” Trbojević氏が加入。“Dača”氏は同郷セルビアはベオグラードのDaggerSpawnというデスメタルバンドでヴォーカルを務めていたようです。
本ブログ[Review]Nadimač(Надимач) – Nejebanježivesile (セルビア/スラッシュメタル)記事より
というのが、本作リリースまでの流れになります。ADPなる中国のレーベルから本作”Državni neprijatelj broj kec”がリリースされました。
レコーディングメンバーは、Danilo “Dača” Trbojević氏(ヴォーカル)、Stefan “Ćora” Ćorović氏(ギター)、Dragan “Draganče” Ristić(ドラムス)、Marko “Zec” Pavlović(ベース)の4人。
このラインナップはこの後ずっと不変のまま続いて、コンスタントに作品をリリースしつづけてます。このある種不動の安定感は、セルビアのバンドとしてはかなり珍しいと思います。
“Public Enemy Number One”
↑は本作のタイトル”Državni neprijatelj broj kec”の英訳です。語順もそのまま。一応確認でボスニアの英会話講師に確認したところ、正解!とのことでした。
さて一体どんなエネミーっぷりを聴かせてくれるのでしょうか。
彼らの1stアルバムになる本作ですが、後の作品と比べても、スラッシュ大好き4人組が思う存分スラッシュ爆走しまくる、ちょっと軽くネジのゆるい作風は、この頃も同じです。その1番の要因は、Dušan “Glasna Komora” Koprivica氏による、パンキッシュなノリのすっとん狂ヴォーカルでしょう。金切り声を交えて早口でまくし立てる感じが、良い意味でのバルカン産らしい(?)ノリの軽さで、同時に重要なクロスオーバー感の源でもあります。
”メタルは戦争だ!”とセルビア語で叫んでみせる1曲目の“Metal je Rat”。アルバム冒頭から気合が入りまくってて、マシンガンヴォーカルにスパスパ飛ばしまくるドラムス、せわしないリフをザクザク刻むギターと、どこをとってもNadimačのノリです。戦争、といっても例えばSodomみたいな邪悪な雰囲気はなく、シリアス感は薄めで、その分とにかくクロスオーバースラッシュ的なハイテンション。
あとは(良い意味で)作品のどこを聴いても同じ様な感じなのですが、やはり雰囲気はバルカン産スラッシュらしく、どろどろ感は無くカラッとしてます。
特に印象的だった曲というか瞬間はというと、8曲目。冒頭のロックンロール風リフから始まり、運指の細かい高速リフで爆走していくのですが、サビの、”ゥラッタッタッタ”歌唱が鬼気迫る雰囲気な一方で、ちょっとファニー。
音質は充分クリアながら、80年代後半~90年代あたりの作品群を思い起こさせる、いかにもスラッシュメタル、という感じの音。本作を単独で聴くと全く不満はないのですが、例えば彼らの3rdアルバムではさらに音質がクリアになって迫力が増しているので、それと比較すると本作はまだ初期作品だな、という分にも感じられます。
ただ聴いててスカスカな印象は全くないので、スラッシュメタルファンは不満なくアツくなれる音だと思います。
スラッシュ大爆走
自分が最初に彼らNadimačの音楽を聴いたのは3rdアルバムの”Nejebanježivesile”から。そこで聴けたハイテンションで爆走するクロスオーバースラッシュというのは、この1stアルバムでも全く同じ。彼らはこの頃から既に自身のスタイルを持っていたように思われます。
比較すると、やはり当然ながら以降の作品の方が曲構成やリフの引き出しは多く、本作ではまだちょっと一本調子で、曲のフックは少ないように思います。そしてそのせいか曲単位で印象に残る瞬間があまりないというか。。。
とはいえ基本的に全編が爆走スラッシュソングなので、単調とかそういうのはちょっと贅沢な注文な気もします。彼らの持ち味はきっとこのネジの外れた飛ばしっぷりなので、個人的には気の済むまで突撃してもらいたい。
おそらくあれこれ語るのがあまり似合わない音楽な様に思います。何にも考えずとにかく聴いて、好きなら頭を振りまくれば良いという、それくらいがちょうどよさそうな音楽。
品行方正とは全く逆の悪ガキスラッシュ野郎共による、アツくクレイジーにぶっ飛んだ爽快な1枚。ぜひライブでも観てみたいッス。
Amazon様↓
3rdアルバム”Nejebanježivesile”は↓記事で紹介しています。
[Review]Nadimač(Надимач) – Nejebanježivesile (セルビア/スラッシュメタル)
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