[レビュー]Ashaena – Calea (ルーマニア/フォーク・ペイガン・ブラックメタル)
- 2023.12.20
- ルーマニア
- Ashaena, Black Metal, Folk Metal, Pagan Metal, Review, Romania, ブラックメタル, ルーマニア
ルーマニア出身のフォーク/ペイガンブラック、Ashaenaの2ndフルアルバム。2016年作品。同国ルーマニアのLoud Rage Musicというレーベルからのリリース。
関連情報
Metal Archivesによるとバンドの始動は2006年。中心人物となるCosmin “Hultanu” Duduc氏のソロプロジェクトとして始まったらしい。
同年にはデモをリリースしていて、2009年には1stフルアルバム”Cei născuți din pământ”を発表しています。この頃には5人編成の「バンド」形態で活動していた模様で、ライブ活動も結構行っていたそうです。Negura BungetやMagicaといった同郷ルーマニアのバンド達はもちろん、Fintroll, Eluveitie, Arkona等の海外勢とも演奏していたらしい。
そして2013年のデモのリリースの後、2016年にメンバー交代を経て制作された本作”Calea”がリリースされました。インタビュー記事によると、アルバムの制作はほぼすべてバンド自身で行ったと語っており、どうやらほぼセルフプロデュースの作品になっているようですね。
本作での編成は、バンドのブレインであるCosmin “Hultanu” Duduc氏(ギター・ヴォーカル・フルート)、Alex Vranceanu氏(ギター・ヴォーカル)、Marius Gabrian氏(ベース)、Alex “Mos Strechia” Duduc氏(ドラムス・パーカッション・フルート)の4人。
ビターな漢気ペイガンフォーク/ブラック
楽曲そのものはどこか陰りのある色合いが支配的で、内省的でありながら滲み出る熱さを感じるような作風。例えば飲んだくれ系の大騒ぎフォークメタル勢とは趣を異にして、すいぶんシリアスとも言えそうな彼らAshaenaです。
ややくぐもった音質ですが、それがペイガン/フォークメタルらしい土臭さを醸し出してる様にも感じる音作り。セルフプロデュースと言いますが、各パートのまとまりや一体感も良く、セピア色の温かみを感じるようなサウンドになってます。
ミドルテンポを中心に、重厚&勇壮に聴き手に迫る1曲目。どこか遠くから黒い雲が押し寄せるようなほの暗さが漂う一方、滲み出るペイガン魂のアツさがじわりと格好良い男臭さ。部分的にブラストビートを交えて疾走するパートもあって、どこか押し殺した様な破壊音のようにも聴こえますね。
クリーントーンのギターの音色ががコロコロと楽曲を導く2曲目。ここでも重厚で勇壮なギターリフが楽曲を牽引しますが、曲中盤ではクリーンヴォーカルでの歌唱も登場。メタリックで強靭な骨格の楽曲に、田舎感というかローカル臭?がたっぷりと香るフォーク風味です。
3曲目は、本作中でも最もフォーク成分が際立ってる一品。跳ねるように打ち鳴らされるドラムスのリズムに、楽曲をリードするトレモロリフ、そしてそれにユニゾンして絡み合い乱舞する笛の音色。モノトーンの色調でありながら温かみを感じそうなオーガニックな響きで、どこか異教の神を奉る祭典の様な雰囲気も感じます。8分にも及ぶインスト大曲なのですが、不思議とその長さを感じず、様々に移り変わるリズムの高揚感や、舞い踊る笛の音色に浸っていられる心地よさです。
続く4曲目冒頭は、なんだかお祭り騒ぎだった前曲の翌朝に、遠くでその残響を聴いてるかのような余韻から始まり・・・朗々としたクリーンヴォーカルがジワリと楽曲を盛り上げます。力強く疾走する瞬間もはさみつつも、やはり漂うのはどこか遠く朝焼けに霞むような感触でしょうか。そして終盤に向けてゆっくりと覚醒・目覚めの時を迎えていくような。。。
幻想的な導入部を持つ6曲目は、勇壮なリフから徐々に盛り上がりを見せるドラマ性がなかなかに壮大。中盤以降に切り込んでくるメロディックなリフはメロデス的なアツさも併せ持っていて、オーガニックな美しさと、メタリックな重厚さのコンビネーションが素敵です。
本編ラスト7曲目は、スローなリズムで薄暗いトーンで進行。あえて?起伏を押さえたようなクリーンヴォーカルやギターリフはどこか物憂げで、ほんのりと終末感さえ漂ってきそう。曲ラストの絶叫の声色と合わせて、このあたりはブラックメタル的な構成ともいえるでしょうか。この暗めの色合いがかなり好感触です。
全7曲で約48分という再生時間なので、各曲は長めの尺の中にいくつかの展開を設けて聴かせるという構成の曲がほとんど。そのぶん多少印象に残りにくいような気もしますが、瞬間瞬間のメロディーや音の響きはキャッチーで案外印象的。アルバム全体のイメージというか、全体的な作風という点では、結構すんなりとイメージをつかめそうな作品になってると思います。
内省の熱と美と土の香り
・・・と聴いてみると、全体的に随分オトナな味わいのフォーク/ペイガンメタルといった印象の本作”Calea”。
聴く人によっては地味に聴こえたり、つかみどころが薄くてつまんなく聴こえる可能性も否定できない気もするのですが・・・筆者としては、内省的でビターな味わいの深いフォーク風味のメタルアルバムになってると思います。
メタリックな高揚感はあくまで滲み出る程度にとどめて、じわりじわりと胸に湧き上がる屈強さと、いい香りの土臭さが非常に聴いてて心地よい、そんな一枚。
ルーマニア産という事で、有名どころのフォークメタル勢とはやはり趣の異なる味わいや地域性も感じます。辺境メタルのエキゾチックさがお好きな皆様や、アトモスフェリック系のメタルに通じた皆様にも、きっとウケるはず。
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