[レビュー]Psychoparadox – Reapeiron (セルビア/メロディック・デスメタル)
- 2021.03.17
- セルビア
- Psychoparadox, Review, Serbia, セルビア, メロディック・デスメタル
セルビア出身のメロディック・デスメタルPsychoparadoxの3rdフルアルバム。現在ではメロディックメタルAlogia等の作品でその名を轟かせるBranković兄弟らによるバンドです。ここで紹介するのはセルビアのRock Express Recordsから2002年にリリースされた再発盤。
関連情報
さて本作、実は(?)オリジナルは1998年に”Apeiron”のタイトルでリリースされたカセット仕様。この再発盤ではリイシューの意味でしょうか、タイトルが”Reapeiron”に変更されてます。
90年代初頭のユーゴスラヴィア紛争の後、初めてメタル作品をリリースしたバンドになるという彼らPsychoparadox。結成は1993年というから、旧ユーゴスラヴィア~現在のセルビアのエクストリームメタル界の先駆者の1つと言っても過言ではないでしょう。
作品のリリースは95年の1stアルバムに続き、本ブログでも既に紹介した97年の2nd、そして3rdアルバムとなる98年の”Apeiron”、その2002年リイシューが本作”Reapeiron”という感じ。
本作の編成はSrđan “Sirius” Branković氏(ヴォーカル・リズムギター)とMiroslav “Mira” Branković氏(ギター・バックヴォーカル)のBranković兄弟、Ivan Cvetković氏(ベース)の3人が前作からの続投で、ドラムスがDamir “Procyon” Adžić氏に交代、それから新たにBranislav Dabić氏(キーボード)が加わっています。
Branković兄弟と、ドラムスのDamir “Procyon” Adžić氏はこのPsychoparadoxでの活動の後、メロディックメタルのAlogiaやシンフォブラックのDraconicでも活躍することになる人物。Damir “Procyon” Adžić氏は他にもデスメタルのRetributionにも参加しています。
これらのバンドのうちいくつかは、本ブログでも紹介していますので、記事末にまとめて関連作を貼っておこうと思いますので良ければご参考に。
Psychorapadoxの前作は↓
[レビュー]Psychoparadox – Through the Labyrinths of Sleeping Galaxy (セルビア/メロディック・デスメタル)
悲哀のメロディの”Metal Storm”
作風の印象としては、基本的に前作での、ちょいテクニカル&ほんのりプログレッシブなメロデスといった雰囲気の延長での進化盤といった感じの仕上がりになるでしょうか。そのうえで、とりわけメロディーや曲展開での印象的な瞬間がより強化されてる気がします。
それから、音質というか音作りがやや弱く、いかにも90年代らしいというそのせいで、曲の魅力を感じ取りにくいのがやや残念というのも、前作同様。98年という時代を考えればそれほど不思議ではないのですが、現代の音質の基準からすると、随分薄っぺらに聴こえそう。
本編の幕開けを告げる1曲目は、どことなく呪術的というかエスニック風(?)なメロディーのイントロ。
それからギターリフのみじん切りシュレッドがPsychoparadox節満載の2曲目。中盤のブレイクからの展開は程よいクサみもあって、いかにもメロデスらしい感じです。
トレモロリフ多めでうっすらメロウなメロディが跳ねるように舞う3曲目。これはなんだかブラックメタル寄りの雰囲気も漂ってて、個人的なお気に入りの一つ。強烈なインパクトを持つというわけではないのですが、どこか懐かしい香りも漂うなめらかさが染みます。
5曲目は本作中で最も印象的なメロディーと構成を持つ曲の1つ。うっすらとメロウなトレモロによるメロディが、淡く甘美な風景を描いていく様がとっても美味。メロデス要素の表れてるハイライトと言えるでしょう。例えるなら、スウェーデンのメロブラNaglfarの1stアルバムで聴けた、ちょっとチープっぽいけどそれが素敵な淡さの色彩感覚を生んでるという、あの感じに近い気がします。
8曲目はドラムスの裏打ちビートとギターリフの音遣いがメロデスらしい一品。勇壮でありながらどこか悲哀を感じる雰囲気と共に、さりげなく裏で鳴ってるトレモロのメロディが素敵です。そのメロディはなんだか引っ込み思案なのかずいぶんと奥の方で鳴ってるので、ともすれば聴き逃したりしそう。ですが、それをとらえることが出来れば、この曲の印象が随分違ったものになるはず。もちろんいい意味で、封じ込められたメロディの輝きにハッとするはず。
そういえばここまで、キーボードの存在をほとんど感じませんでしたが、ここでようやく少しその音色が耳に届く9曲目。キラキラふわふわと、華美さよりはミステリアスさを演出するようなトーンで彩りを加えてます。・・・がやっぱり(?)なんだか奥の方で鳴ってるので、実際はあんまり目立たず、耳を澄ましてようやくその音色を感じるという具合。
10曲目は驚きの(?)クリーンヴォーカルが登場する一品。と言っても、メタルコア以降の比較的最近のにありそうな、キャッチーでカッコつけ風のサビが飛び出すあんなのではなくて・・・なんとも特筆するところのない歌唱が配置されてる、という程度なのですが。。。それでも全く予想してなかったので、あぁ歌うんだ、とちょっと驚きだった訳です。
本編ラストにあたる12曲目はインストで、なんだか焦燥感漂うギターリフをバックに、ギターソロが止めの一撃とばかりに乱舞してます。不穏なメロディーだったり、ちょっとクラシカルな(おそらく)タッピングだったり、結構テクニカル、なのかな。
13曲目からはボーナストラックで、まずはライブでのドラムソロ。新加入のDamir “Procyon” Adžić氏によるドラミングのお手並み拝見ってところでしょうか。アルバム本編中でもかなり自由自在な感じでリズムを決めてくれてたので、その手腕は間違いないものと見てよいのでしょう。テクニカルな小技も結構効いてる印象でした。
そしてラスト14曲目は2001年録音の新曲なのですが、これが最高に素敵。本作の絶頂はまさにここにあると断言できる必殺の1曲なのですが・・・新録曲なので強力なのはある種当然だし、これと本編の曲を同列にみるのはちょっとナンセンス?
重厚でクリアな音質で繰り出されるこの曲、ほとんどシンフォブラックの色彩で、キーボードの呪術的メロディが踊る導入部、個人的にこういうのに超弱くて、その甘美さにただただ陶酔。それから一気に凶悪でスラッシーなデスメタルになだれ込みます。曲後半ではキーボードがジャンジャンと不穏な響きを叩きつけ、直後に狂気のギターソロ。美と狂気と倒錯のすべてを凝縮して封じ込めた恐るべき3分。曲タイトルの通りまさに”Metal Storm”。
あぁこの音で新作なりリレコーディングなりが出ればいいのに。。。
セルビアメタル史の名盤
こうして聴いてみると、前作以上にそのメロディや曲構成に彩りと深みが増しているのが聴いて取れます。その点では、正統進化盤という事になりそう。
全体的にやや薄味でインパクトに欠ける面が未だ残ってるのは否めませんが、それでも彼らの作品群の中では最高傑作ととらえて間違いないはず。
彼らPsychoparadox、というか中心人物のBranković兄弟はこのアルバムの後、メロディックメタルのAlogiaに活動の中心を移していくことになるので、本作は事実上のPsychoparadoxの最終作品とも理解することができます。それを思うと、作中で聴かれるどことなく悲哀の香るメロディーが意味深にも聴こえてくるという・・・。
それから、本作がリリースされた98年という時代を考えると、本作はセルビアあるいはバルカン地域のエクストリームメタル史の中で、その黎明期の名盤のひとつになりそうです。また当時に、セルビアのメタルシーンの礎を形作った重要バンドの最高傑作。
そしてこのPsychoparadoxの後、セルビアの豊かなメタルシーンからは↓の素晴らしいバンドたちが誕生するのです。
Psychoparadoxからメロディックメタルへと新生したAlogia↓
Branković兄弟によるメタルキングDespot↓
Branković兄弟と、Damir “Procyon” Adžić氏によるDraconic↓
Damir “Procyon” Adžić氏参加のRetribution↓
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