[レビュー]Retribution – Fake Servant (セルビア/デスメタル)
- 2020.09.25
- セルビア
- Death Metal, Retribution, Review, Serbia, セルビア, デスメタル
セルビアの東部の都市スメデレヴォ(Смедерево/Smederevo)の出身のデスメタル、Retributionの1stアルバム。2006年作品にして唯一のフルアルバムになります。セルビアの今は無きRock Express Recordsからのリリース。
関連情報
これまたいつものように情報源が全然なくて、Metal Archives頼りになってしまいますが。。。
バンドの結成は2001年にさかのぼるらしいです。結成時のメンバーでMetal Archivesに明記されてるのは、Ivan Vasić氏(ベース)とDamir “Procyon” Adžić氏(ドラムス)の2人。この2人はメロディックメタルのAlogiaの元メンバーで、Damir “Procyon” Adžić氏はそのAlogiaに加え、Psychoparadoxにも参加している人物。さらにシンフォブラックのDraconicにも参加してましたね。
よくよく考えると、PsychoparadoxもAlogiaも、同じスメデレヴォの出身で、人脈的にもかなり近いので、このRetributionもセルビアメタル、とりわけスメデレヴォシーンの出身というくくりで理解しても良いのかも知れませんね。
2005年のプロモ盤を挟んで翌2006年にリリースされた本作”Fake Servant”、この時点でのメンバーは、I.K.Kole氏(ギター)、Psychoparadoxのライブメンバーを務めた経歴の持ち主であるDusan Šupica氏(ヴォーカル)に、前述のIvan Vasić氏(ベース)とDamir “Procyon” Adžić氏(ドラムス)という4人。
また、本作には多くのゲストが参加していて、目立つところで、Alogia&PsychoparadoxからMiroslav “Mira” Branković氏とSrđan “Sirius” Branković氏のBranković兄弟、さらにセルビアの伝説的(?)オールドスラッシュHellerの元ギタリストKosta “Kole” Bogdanović氏といった人物たちがギターソロを提供しています。
Branković兄弟まで関わってるとなると、もうほとんどスメデレヴォ・オールスターという事で良いんじゃないかという気もしてきます。。。
残念ながらバンドは本作を最後に2008年に解散しています。バルカンというかセルビアというか・・・のメタルバンドって、1枚出してその後解散ってのが多い気がしますが、彼らも例に漏れず、というのが惜しまれます。
セルビア、スメデレヴォ出身の関連バンドPsychoparadoxやDraconicは↓記事もご参考に。
[レビュー]Psychoparadox – Through the Labyrinths of Sleeping Galaxy (セルビア/メロディック・デスメタル)
本編-USオールドスクール風?
全体的な印象は、程よいドロみのオールドスクールデスメタル、という感じでしょうか。セルビア産でありながら、例えばスウェディッシュ・デスというよりは、90年代初頭~中ごろあたりのUS勢のテイストを強く感じる気がします。ギターリフなんかは当時のDeicideとか、Morbid Angelあたりのフロリダ勢を思わせつつ、ドロみやヴォーカルの叫びっぷりが時おりCannibal Corpseを想起させたり。
音作りもまんま90年代風、といって良いと思います。やっぱり個人的にはCannibal Corpseの4thみたいな音のイメージです。現在みたいに音がキレキレだったり、あるいは逆に下水道系というか血しぶきまみれな程歪みまくってもいない、ちょっとノスタルジックっぽくもある肌触り、でしょうか。
教会の鐘の音色から一気にドスドスとブラストビートでなだれ込んで行く1曲目。その後の2ビート(?)のリズムに乗せて繰り出されるギターリフの刻みがスリリングでありながら、同時に例えばDeicideの”Once Upon The Cross”みたいな不穏さも漂ってます。なんだか、”Fear him, fear him, fear him… Satan”!!って聴こえてきそう。
次に耳を引くのは3曲目。3連の高速ビートと奇怪なトレモロリフの不気味さが素敵です。中盤のミドルテンポのパートも気味悪さとビョーキっぽさがたっぷり。
4曲目はスロー~ミドルテンポでジワジワ締め上げてくる趣ですが、たぶん1番の聴き所は曲後半で聴こえるヴォーカルの”ウアァァァァ!!”の絶叫。これはまんまカニコーのGeorge “Corpsegrinder” Fisher氏みたいでドキッとします。
6曲目は疾走パートこそなんだか1曲目と被るような感じでアレですが、中盤に挟まれてる、まるで悪の軍勢が攻め入ってくるかの様な緊迫感。この魔界が香りそうな感じはちょっとMorbid Angel風な気がしなくもない、かな。
この6曲目でちょっと盛り返してきたけど、ここまで聴いてて中盤はややダレ気味かなぁ、なんて考えてたら、続く8曲目で本作中のちょっとしたハイライトが登場。ベースがべにょべにょテクニカルに乱舞するリフが飛び出して驚きです。このへんはCannibal CorpseのAlex Webster氏さながら、という感じでしょうか。組み合わされるリフも相まって、まさにカニコー的な病的な暴力性とせわしなさです。美味。
9曲目の悲鳴混じりのインストを挟んで、ラスト10曲目。これは結構気合入れてブラストビートで飛ばしていく一品。Branković兄弟によるギターソロの掛け合いで曲のシメ、です。
ギターソロといえば・・・前述した様に、全編に渡って本作にはBranković兄弟をはじめ豪華なゲスト陣が参加しています。彼らの手によるものを含めて要所要所で華麗なギターソロが乱舞してるので、時折ハッとさせられますね。
一方でどのソロを誰が弾いてるのかという特徴までは表れてないというか掴めてないというか、なんとなく流れてしまっていく感じも。。チョー有難いはずなのに、なんだか伝わらない、みたいな。
デスメタル・ノスタルジー
さて、こうして本作を通して聴いてみると、全体的になかなかいい感じのオールドスクール・デスメタルのように思います。なんだかなじみのあって安心感たっぷりのUSデスメタル風味で、個性的とはなりませんが、それこそDeicideやカニコーモビエンのテイストで、あぁデスメタルってこんな感じだったよなぁ、みたいな。
そのへんは音質ひとつ取ってもそうで、作品自体は2006年作なので、時代の割にチープとも言えそうですが、逆にそれがいい味出してるとも取れそうです。意図してるのか、レコーディング環境によるものなのかは謎ですが・・・セルビア産モノって、たぶん成熟具合でいうとひと時代遅れ気味なきらいがどうもありそうで。
ただやっぱり、最終的な着地点は・・・没個性的?時折耳を引く瞬間もあって美味だけれど、どうもキメ手にかけるというか。流して聴くにはいいけど、じっくり聴くにはもうひと声欲しいというか、ややこじんまりしすぎてるというか。なんだろう、この惜しい感じは自分の感性の平坦さなのか、あるいはB級(?)メタルあるあるなのか。
なんだかぼんやりと、まとまらないまとめになりましたが、セルビアメタルというかスメデレヴォのメタルシーンのオールスター集合みたいなメンツのバンドなので、そういった魅力や注目度のある安定盤になるのでしょう。
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