[レビュー]Деспот(Despot) – Деспот (セルビア/メロディック・メタル)
セルビアの首都ベオグラードと、東部の都市スメデレヴォ(Смедерево/Smederevo)の出身メンバーによる、メロディク・パワーメタルバンド(プロジェクト?)の1stフルアルバム。2013年作品。中古で売られているのを発見し購入です。
リリースはセルビアの超重要レーベルであるMiner Recordsから。
バンド関連情報
バンド結成時の詳細は情報源がなく不明ですが、彼らのFacebookページによると、結成は2013年らしいです。
セルビアのケルティック・フォークロックバンド(でいいはず)Orthodox CeltsのシンガーであるAca Celtic氏と、メロディックメタルAlogiaのメンバーであり、セルビアメタル界のAmott兄弟(?)ことMiroslav氏とSrđan氏のBranković兄弟らを中心に結成されました。
Orthodox CeltsとAlogiaについては本記事執筆時点では未聴あるいはちょい聴き程度なのですが、セルビアでは結構な有名バンドのようで、このコンビネーションはある種のスーパーバンドと呼んでも良いのかも。
余談ですが、セルビアの英会話講師がOrthodox Celtsのライブ動画を教えてくれて「フォークロックでモッシュピットできるんよ!ウケね?!」って言ってたのが印象的でした。
↓確かこの動画だったと思います。。
さて、セルフタイトルの本作”Деспот”(Despot) ですが、編成は前述のAca Celtic氏(ヴォーカル)、Miroslav氏とSrđan氏のBranković兄弟(ギター)、Vladimir Đedović氏(キーボード)、Miloš Macura氏(ドラムス)という顔ぶれ。
キーボードのVladimir Đedović氏も当時はAlogiaのメンバーで、さらに多数のゲスト/セッションメンバーが加わっています。
気になったところで、フィーメイル・ゴシック?メタルコア?方面(ほとんど未聴)バンドRain Delayで、某記事でちょっと話題になった迷曲?珍曲?”Shiseido”を歌ったBojana Milosavljević女氏や、フィーメイル・ドゥームLunar Pocket(こちらも未聴)のSaška Janković女氏がバックヴォーカルで参加しています。(・・・が、今のところ声聴き分けられないのは内緒。)
Branković兄弟は、シンフォニック・ブラックのDraconicの↓のアルバムでも活躍してましたね。
父と子のセルビア史劇
さて、コテコテなジャケから、彼らの音楽のテーマは剣と魔法が入り乱れ、ドラゴンが炎を吐き、屈強なる勇者は偉大なる王と愛する祖国のため悪と戦うファンタジーワールドを連想しそうですが・・・どうやらバンド名と音楽のテーマは史実を基にしているっぽい。
以下いろいろ調べて、ブックレット眺めて推測した考察です。史実の理解不足や誤認、勘違いもあるかもしれませんので、参考程度に。詳しく語るにはもっと勉強が必要です。
舞台は中世セルビア王国の時代。ネマニッチ朝の断絶の後、諸侯の群雄割拠の状況の中、最有力の君主として主導的立場を固めていったのが、本作の主役の1人、Lazar of Serbiaことラザル・フレベリャノヴィチ(Lazar Hrebeljanović)。
彼の時代のセルビアは、オスマン帝国の侵攻を受けており、セルビアの独立を守ろうとしたラザルはオスマン軍との決戦を決意、セルビア諸侯と連合軍を結成し戦いに挑みました。これが1389年のコソヴォの戦いで、セルビア史にとって相当大きな歴史上の出来事になっています。
このコソヴォの戦いでセルビア軍は敗北、捕虜となったラザルは最終的に処刑され、その息子ステファン・ラザレヴィチ(Stefan Lazarević)が父ラザルの後を継ぎ、「公」としてオスマン帝国の支配下に入ることになります。
そしてステファンの、この「公」という称号が、まさにバンド名とアルバムタイトルの”Деспот”(Despot) ということになります。専制君主とか専制公とも呼ばれるみたいです。
という事で、父ラザルとその子ステファンのセルビア史劇というか叙事詩というか・・・というのが本作のバックグラウンドという理解が出来そうです。
余談ですが、ボスニアのRawなブラックメタルに1389というのがいますね。そちらもたぶん、前述のコソヴォの戦いから来てるものと思われます。
鋼鉄の○○とか□□の夜とか
前置きが長くなりましたが・・・全体的な印象はフォーク/ケルティックな色彩のメロディックパワーメタル、という感じでしょうか。
1つ1つの楽曲はコンパクトかつキャッチー。そこかしこにどこかで聴いたようなフレーズや展開があるあたりは、親しみやすさでもあり、悪く言えば2番煎じ風でもありますが、その一方で堂々としたクリアな音と雰囲気作りとも相まって、メロパワど真ん中の作品な気がします。
中には、個人的に結構ニヤリとしてしまうような瞬間もあって、以下で印象的なところをピックアップしてみましょう。
本作は1曲目から超必殺級。マジカルでファンタジックなフルートによる春風のようなイントロに導かれて、歌い出しから(良い意味で)メロディックメタル的クサみも完璧な歌メロが炸裂します。Aca Celtic氏の、ちょっとヌメっとしつつもウェット感がある種セクシーなヴォーカルも、雰囲気たっぷり。女性ヴォーカルが後ろに配置されて、合唱風になってるので、そのへんのカラフルさも際立ってます。
そして中盤の”おーおーおー”のコーラスパート。思わず拳を上げて合唱したくなりそうな・・・いや好きな人はきっとみんな笑顔になるでしょう、これ。個人的な本作のベストで、個人的神曲と呼んでいいかも。
続く2曲目は一気にアップテンポになって、これはまるで絵に描いたようなヘヴィメタル。なんだかどこかで聴いたような雰囲気で妙に引っかかってたのですが、気付きました。これはモロIron Maiden。ドラムスのリズムの取り方、特にバスドラムとスネアの絡め方がそのまんま。後半で転調して雰囲気変わって単音リフにつなげていくあたりの構成も、さらにそこからギターソロになだれ込むあたりも・・・あぁもうIron Maidenにしか聴こえません><。ブルース・ディッキンソン氏の歌声で脳内再生余裕な1曲。。。
そして3曲目は副題に、コソヴォの戦いの年号「1389」を持つ一品。曲はゆったりしたテンポで勇壮に進み、フォーキッシュで軽やかな装飾はちょっとほのぼのとしたタッチです。一方で歌詞眺めてると、どうやら戦場に向かう道中の決死の心情が表現されてるようで、テーマは案外重い。途中には勝ち鬨(どき)のようなコーラスも入っていて、さりげなく戦場が描かれているみたいです。曲ラストにはアコースティックギターによるケルト風メロディと共にテンポが上がって、戦闘開始の雄叫びが。
たぶん本作全体に言えそうですが、たとえ暗く重い場面であっても、曲のメロディーやフォーキッシュ/ケルティックなアレンジのおかげで、決してどぎつくならずにバランスを保ってるのが、このバンドの特徴といえるかも知れません。
続く4曲目。これもどこかで聴いたような・・・なんて引っかかる、フォーク感満載の曲。ほとんどメタル味を感じず、ダンサブルなケルト風メロディーが乱舞して、淡い女性コーラスが華を添えるこの感じは。。。あぁ完全にBlackmore’s Night。オーガニックなヘヴィさ、という表現そのまま。キャンディス・ナイト女氏の歌声で脳内再生余裕です(2回目)。もう、ヴァイオリンのメロディとユニゾンするリッチー・ブラックモアのアコギが聴こえてきそう。
5曲目は再びオーセンティックな骨太パワーメタルが登場。前述のストーリー、父ラザルを失った息子ステファンがその悲しみと戸惑いの中「おぉ父よ、我に勇気を与え給え」と祈りを捧げる(?)、そんな場面です。
そして6曲目は、そのメロディが・・・「よさくはきーをきるー」に聴こえてしまう、ちょっと沈痛な雰囲気もあるバラード。いや、たぶんここはニヤついてはいけない所。。。
7~9曲目は、トラックは分かれてますが、組曲形式になった1連の曲になってます。このあたりまで聴き進めると、ちょっとバンドの作風やネタ(?)にも慣れてきて、あまり驚きを感じなくなってきますが・・・曲そのものは安定感のしっかりしたメロディックメタルの世界が続いています。あ、ラストの9曲目は再びIron Maiden風かもです。
ハイクオリティなメタル叙事詩
上述のIron MaidenとかBlackmore’s Nightまんまなパートにニヤつきつつも、フォーク/ファンタジックな色合いはElevenkingやBlind Guardianあたりがこんな感じじゃなかったっけ?となんとなく連想させられたりもする本作。
音質もしっかりした作りで、セルビア産にありがち(?)なチープさも無いので、フォーク/メロディックメタルとして普通に推薦できそうな仕上がりな気がします。
何か特別目新しい要素があるわけではないと思いますが、メロディックメタルの王道を行く、安定感はばっちりの作品なので、好きな方はきっとかなり楽しめると思います。
また、上記のようなネタ要素もちらほらとあるので、そういったニヤつき目的で聴いてみるのもアリかも知れませんね。
個人的には、作品のテーマがセルビア中世史ということもあり、かなり興味深く楽しめた1枚です(コレ書くのは結構大変でしたが><)。
ジャンルの垣根を超えてヒーロー達が集い生み出された、輝けるセルビア・メタル叙事詩・英雄譚。
Amazon様↓
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