[レビュー]Krv – Silna volja srebra (ボスニア・ヘルツェゴビナ/ブラックメタル)
ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボ出身のブラックメタル、Krvの8曲入りデビューEP。2006年作品。同ボスニアのWalk RecordsからリリースのCD盤で、Discogsで隣国セルビアのセラーからお取り寄せの品。
関連情報
バンド名のKrvはボスニア語で「血」の意。本EPタイトルの”Silna volja srebra”は「強大な鋼(銀)の意思」という感じになるのでしょうか。
バンドの結成は2003年。90年代末から活動しているボスニアのプログレッシブ・メロデス、Silent Kingdomのメンバーによって結成されました。
結成間もない頃は少しメンバー交代もあったようですが、中心となるメンバーはBan Krvnik氏(ギター・ヴォーカル)、Vihor史(ギター)、Kurvar氏(ドラムス)、Kralj Terror氏(ベース)という4人。前述の通り全員当時のSilent Kingdomのメンバーですね。
↓こんな感じの皆様です
この編成は2010年のバンド解散まで不変。それまでに彼らは本作含めEPを2作、フルアルバムを3作など、数々の作品をリリースしました。ここまで安定して続けて作品をリリースしていたのは、ボスニアのバンドとしてはかなり珍しいように思われます。まさに鋼の意思です。
ちなみにドラムス担当のKurvar氏は同じサラエボ出身のブラックメタルOdarの作品にも参加していますね。
本家(?)Silent Kingdomの音源は↓記事でも紹介しています。
[レビュー]Silent Kingdom – Bloodless (ボスニア・ヘルツェゴビナ/メロディック・ブラック・デス)
怪しい地下臭プンプンのRawサウンド
全体的には、ギターサウンドがジリジリとノイジーな感じのRawブラックメタルで、曲の展開も無いわけではないですが、どちらかというとドカドカバシバシな響きのドラムスのリズムに乗せて攻撃性をストレートにぶつけてくる感じ、でしょうか。甘み成分はほぼ無しの黒いヤツ、です。
音質については、たぶん狙ってるというよりは単にチープさの結果、という様にも聴こえますが、この良い意味で耳障りな感じはまさに地下ブラックメタルのそれ。そういえば本家(?)Silent Kingdomのこの頃の作品たちも、お世辞にも音質良いとは言えない感じでしたね。
でーん、でーん、と堂々たる導入部から、ブラストビートがドカドカと炸裂する1曲目。2分程の短い曲で、よくよく聴けば、トレモロリフの向こうにはうっすらと2本のギターのミステリアスなハモリが聴こえます。たぶん本作の導入部分を担ってるんでしょうか。
2曲目は、最初こそブラストビートも交えたりしてバカスカ勇ましいのですが、印象的なのは中盤のスローパート。ジリジリしたアルペジオの欝っぽさ、ロングトーンでギターが気だるくじゃらーん、といったほとんどデプレッシブブラックの様などんより感で・・・なんとなくフランスのLes Légions Noires勢、というかとりわけMutiilationを連想させます。個人的に。
3曲目のタイトルはバンド名そのままの”Krv”。「血」の意味でしたね。コレは本作中で一番ダイレクトな曲でしょう。これまたじりじりした単音リフでスローに溜めたあと、高音弦のかきむしり音が聴く者の耳に襲い掛かり、さらにバカスカとブラストビートの嵐。
4曲目は中盤のミドルパートの不穏などんより感が再びちょっとデプレ風。印象にあんまり残らなそうでいて、何度か聴いてるとどうも耳について離れない妙な雰囲気と妖しさです。曲中には平たいメロディーのトレモロリフが、スタスタとしたドラムスのリズムに乗って疾走するプリミティブ方面らしいパートもあって、作中でも比較的起伏ある作りになってる様に思います。
そして5曲目。タイトルを見ると、”Crni Jebeni Metal”とあります。なんとかメタル?ってことかな、という事で調べてみるとなんと、「ブラック・ファ○○ン・メタル」の意味になるではありませんか。
ドイツの哲学系?Nargarothの名曲”Black Metal Ist Krieg”ばりにド直球なタイトルを持つこの曲、やっぱりジリジリした音でどんより不鮮明に鳴ってる、スローなギターリフが根暗感満載なのですが・・・それよりもヴォーカルのはBan Krvnik氏による、”Crni! Jebeni! Metaaal!!!”の中音わめき絶叫が強力。
ええと、発音は「つるに、いぇべに、めたる」になると思います。みんなで叫びましょう。
そして、このあたりの曲の妖しさの後では、ちょっと普通に聴こえる本編ラストの6曲目。これまでの湿り気とは違ったカラリとした雰囲気で、ちょっとギャップを感じます。曲の後しばらく無音部分を挟んで、しばらくすると、謎の”アヒャヒャヒャ~”みたいな談笑の音声が流れて終了。
それから、7・8曲目は本編3・4曲目のライブ音源がボーナスとして収められています。
音質はマイク1本で撮った様な音なのですが、EP本編の音質もチープでノイジーなので、不鮮明な感じは本編とそんなに変わらないですね。演奏は本編に忠実な感じだと思います。
こちらのライブ音源の方がより生々しく聴こえるのは、文字通りライブ音源って事なのでしょう。このあたりのバンドは、たぶんライブ音源自体貴重なので有難い。
中毒症状?
・・・悪くないけど、聴いててどうも印象に残りにくいなぁ、というのが本作の最初の印象だったのですが、この記事書くにあたって、結構聴き込みました。ところどころ不鮮明なその音楽を、少しずつ何が起こってるか理解していって、この記事を書き終える頃には、「あれ、案外名盤かも?」みたいな。
たぶんより冴えてるのは不穏で病的なスロー・ミドルパートや、薄気味悪い単音トレモロリフのかきむしり感。3~5曲目あたりの流れがとりわけ秀逸だと感じます。
一方ドラムスがドカドカ、ギターがガリガリやってるファストパートはまぁ月並みといえば月並み、なのかなという気もします。
とはいえ、名盤と呼んでみたものの、あくまで作品らしい作品をリリースしてるブラックメタルが少ないボスニア産、あるいが旧ユーゴスラビア圏産というくくりの中の話にはなるかも知れませんが。。。
それでもRawブラックとかデプいブラックあたりのビョーキっぽいのがお好きな方にはそこそこ受けそうな(気のする)中毒系。
ほら、マイナーな地下の中毒系、しかも辺境のボスニア・ヘルツェゴビナ産ってだけでなんだか気になってしまいそうでしょう?そんなやめられないブラックメタルの鑑みたいな1枚と言って良さそうです。それはまさに、”Crni Jebeni Metal”なのです。
彼らの3rdアルバムも↓記事で紹介しています。あわせてどうぞ。
デビューEPの記事は↓もご参考に。
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