[レビュー]Bombarder – Ledena Krv (ボスニア・ヘルツェゴビナ/スラッシュメタル)
ボスニア・ヘルツェゴビナ出身のスラッシュメタル・レジェンドBombarderの5thアルバム。2003年作品。ゲットしたのは2005年のボーナストラック入り再発盤で、アメリカのUtterly Somber Creationsからのリリース。
関連情報
バルカンスラッシュの生ける伝説であり大カルトでもある彼らBombarder。本ブログでは既に、バンドの初期作品などいくつかを紹介していて、そこでも彼らの歩みをご紹介していますが、彼らのキャリアはおそらく大きく、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボを中心に活動していたキャリア初期と、その後の旧ユーゴ紛争後、セルビアに拠点を移した後のキャリア後期(?)に分けて理解することができそうです。
バンド結成は旧ユーゴスラヴィア時代のサラエボ。このサラエボ時代には1989年の1stアルバム”Speed Kill”と、1991年の2ndアルバム”Bez milosti”がリリースされています。
そしてユーゴスラヴィア紛争が激化するのが1993年のはずで、この時期を挟んで彼らは活動の拠点を現セルビアの首都ベオグラードに移すことになります。
その後は1995年に3rdアルバム”Crni dani”を、1997年に4thアルバム”Ko sam ja”をリリース。それから2000年のベスト盤”Bez Balads – Najbolje”を挟んで、2003年にリリースされたのが、5thアルバムである本作、”Ledena krv”です。
本作の編成は、97年の前作”Ko sam ja”と同じく・・・唯一のオリジナルメンバーであるフロントマンNenad NEŠO Kovačević氏(ヴォーカル)、Rastko RALE Ličina氏(ギター)、Jakša JAKUZA Vlahović氏(ギター)、Predrag PREDO Šarić氏(ベース)、Milan MIKAC Janković氏(ドラムス)という5人。加えて、役割は不明ながらMario MARKUS Barjaktarević氏なる人物がクレジットされています。
Rastko RALE Ličina氏は同国セルビアのブラックメタルの重鎮The Stoneの前身であるStone to Fleshでドラムスを担当してたという人物。それからJakša JAKUZA Vlahović氏とMilan MIKAC Janković氏は共にゴシック/スラッシュ?のAbonosでも活動してる人物ですね。
こうしてみると結構リッチ(?)なこの編成は次作でも概ね引き継がれることになります。とりわけMilan MIKAC Janković氏とPredrag PREDO Šarić氏は今現在でも在籍しており、安定したラインナップの継続が困難(らしい)セルビアのメタルシーンにおいては、しっかりと着実にキャリアを重ねることに成功したバンドの1つとも言えそう。
そのあたりも、彼らBombarderのレジェンドたるゆえん、ということになるかも知れません。
それからゲストに、AbonosからMarija Dokmanović女史と、Marta Vlahović女史の2人がヴォーカルで参加していますね。
冷たい狂気の殺伐系
殺伐として冷たいリフがザクザクと刻まれる1曲目。NEŠO氏によるリズムと音程無視のヴォーカルはもはや伝統芸の域で、ここではガヤガヤと早口にまくしたてまくってます。アルバム冒頭から、鋭い刃物でも突き付けられてるようなスリリングさと緊張感、スピード感が満載。
3曲目。ほとんど音程を持たないギターリフは、ほぼ刻みのリズムのみで無機質な鋼鉄感を放ちます。これは個人的に本作でも屈指のお気に入り曲で、甘さ一切無し、不穏さのみが漂う恐怖のスラッシュチューン。殺人マシンというかシリアルキラーというか、冷たい狂暴性がお見事。
続く4曲目は、ところどころで「ヤダ!もうヤダ!」って空耳がこだまする印象的な1曲。高速でスタスタ疾走するドラムスに、緊迫感たっぷりのギターリフが鳴り響く品。前の3曲目があまりに冷徹な肌触りだったので、この曲は対照的に、ずいぶんアツい感じに聴こえますね。とはいえ鬼気迫る感じは他の曲たちに引けを取りません。
ここまでの4曲はファストでスリリングなスラッシュ大暴走、といった具合のアグレッシブな曲が立て続けに繰り出されましたが、続く5曲目は一気に曲調が一転、それに伴って雰囲気も一転します。
その5曲目、なんだか殺伐とした感触は同じながらも、ギターリフとドラムスのリズムが独特、というか一種異様。。表現力に乏しいのがアレですが、なんだかほとんど裏打ちのディスコビート、みたいな不思議チューンなのです。その点で言えば妙にダンサブルでもあります。ヴォーカルには拡声器みたいなエフェクト(?)もかかってて、作中でも1・2を争う異色の一品。
それからちょっとくぐもった音質が、録音違い?を思わせる6曲目。その音質、ギターリフのうねりや、タメを効かせるようにどっしりと構築されたドラムスのリズム、そのコンビネーションはほんのりデスメタル風味でしょうか。
9曲目は2分足らずの短い一品ですが、たっぷりミュートを聴かせたギターリフの刻みっぷりが狂気を滲ませます。そのがっつりミュートで、その音はザクザク、ではなくブルブルいってます。超高速ピッキングが弦をはじきまくる、震えるメタル音波、みたいな。。。相変わらずヴォーカルはあれやこれやと、めちゃ早口でまくしたてて・・・ヴォーカルというよりは怒りの朗読、みたいな有様。。。
本編ラスト10曲目はアウトロっぽい位置づけとも取れる、スローでドゥーミーな暗さの雰囲気たっぷりの曲で、前述の5曲目と共に、本作中で異彩を放ちまくる一品になってます。ヴォーカルレスなのですが、サビ(?)ではゲスト参加のMarija Dokmanović女史と、Marta Vlahović女史によるコーラスがふわふわと響きます。この暗さと浮遊感はほとんどゴシックメタルに通じそうな趣。
それから11曲目と12曲目はボーナストラックで、91年の2ndアルバム”Bez milosti”からの収録。聴いた感じ、当時のものと同じと思われますので、詳細はレビュー記事を参考にして頂くことにしましょう。
史上最黒?
さて、2003年作という事で、新世紀を迎えて制作された本作、まず1聴してすぐ気づくのは、過去作に比べて音質が随分マトモになったという事。90年代の彼らの作品(=4thアルバムであり前作まで)は、いかにもアンダーグラウンドというかカルトというか、完璧なカセットテープレベルの音でしたが、本作ではようやくCD的音質になりました。ややドラムスの音がチープではありますが。。。
作風は基本的にこれまでの路線を踏襲したものといえそうですが、本作では初期作品で聴けた様なロックンロール風のノリはほぼ消失して、殺伐とした冷ややかさのスラッシュメタルが多くを占めています。
さらには後述の5曲目や10曲目に代表されるような全く異なる曲調・雰囲気を持つ曲も登場したりと、ずいぶん実験的な瞬間も封じ込められていて、おや?と耳を引きます。
その点では、本作”Ledena Krv”は彼らの今に至る過渡期的作品であるともいえるのでしょう。世間的な評価がどうなってるのかは不明ですが、ひょっとすると随分評価分かれそうな気もします。
個人的には、(盲目的な信仰は抜きにしても)かなり好きな1枚です。殺伐、冷徹、緊張感、狂気みたいな言葉を使ってきた様に、彼らの作品群の中でも最もダークな部類に入りそうなこの感じがとっても素敵。
Bombarder史上最も暗い陰りを持つ意欲作。
彼らの過去作とか最新作とか↓
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