[レビュー]Krv – Ukleta Zemljo (ボスニア・ヘルツェゴビナ/ブラックメタル)
ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボ出身のブラックメタル、Krvの1stフルアルバム。2007年作品。同ボスニアのWalk RecordsからリリースのCD盤で、Discogsで隣国セルビアのセラーからお取り寄せの品。
関連情報
本作”Ukleta zemljo”は、彼らKrvの1stフルアルバムで、2007年の作品になります。アルバムタイトルは英語だと”Cursed Land”になるらしいです。
ディスコグラフィー的には、2006年のデビューEP“Silna volja srebra”、2007年の2ndEP”U kamenom grobu”に続く作品が本作、という事になります。
本ブログでは既に、彼らのデビューEP“Silna volja srebra”と、3rdアルバム”Ograma”と2ndEP”U kamenom grobu”のカップリング盤を紹介していて、バンド情報で知り得たものはそこでも触れていますが・・
バンド名のKrvはボスニア語で「血」の意。
バンドの結成は2003年。90年代末から活動しているボスニアのプログレッシブ・メロデス、Silent Kingdomのメンバーによって結成されました。
結成間もない頃は少しメンバー交代もあったようですが、中心となるメンバーはBan Krvnik氏(ギター・ヴォーカル)、Vihor史(ギター)、Kurvar氏(ドラムス)、Kralj Terror氏(ベース)という4人。前述の通り全員当時のSilent Kingdomのメンバーですね。
と自分の記事そのまま引用してご紹介です。また上記のSilent Kingdomはボスニア・ヘルツェゴビナあるいはバルカン地域ではそこそこ名の知れたバンドっぽくて(セルビアの英会話講師のリアクションがヒントでした)、ボスニアの伝統音楽セヴダ(Sevdah)の要素を取り入れてるのが最大の持ち味というバンド。
本作のラインナップはBan Krvnik氏(ギター・ヴォーカル)、Vihor史(ギター)、Kurvar氏(ドラムス)、Kralj Terror氏(ベース)という、↑の紹介文でも触れた不動の4人。バルカンのバンドで「不動の」なんて形容詞を使うのはなかなか珍しい気がします。バルカン地域のバンドで、安定してリリースを続けてる(続けてた)ってのは、実は結構貴重なことなのです。
関連のSilent Kingdomの音源は↓記事で紹介しています
[レビュー]Silent Kingdom – In Search of Eternity (ボスニア・ヘルツェゴビナ/メロディック・ブラック・デス)
呪いの地の暗黒絵巻
さて、本作で聴ける彼らKrvのブラックメタルですが、基本的にはどの作品も共通して、ノイジーなトレモロリフのブリザードにドカドカとドラムスのビートが乗るという、昔ながらのスタイル。質感的には、90年代半ばから後半くらいの北欧勢に近そうでしょうか。
それから例えば、デビューEP“Silna volja srebra”ではかなりアングラ臭のする、デプレッシブ方面の病的さも香る雰囲気でしたが、本作ではほんの少しダイレクト感が増したというか、病み感よりは暗黒のドラマ性とうっすらとしたメロディ感が表れてきた様な印象。その点では多少、そのノイジーな音質も少々角が取れた耳あたりになってます。
とはいえ基本的には粗削りでダーティなブラックメタルであることには変わりなく、そのへんは後の作品にもしっかりと引き継がれてます。
印象的なところを取り上げてみると・・・
地の底から呪われた瘴気を放つイントロの1曲目に続き、邪悪な暗雲が押し寄せ、トレモロの嵐が巻き起こるかのような2曲目。その色合いはまさしく暗黒のカラーそのものでありながら、闇の軍勢が進軍する不穏さも同時に漂っています。
3曲目は昔のMurdukを思わせる、強引なトレモロリフの嵐に、バシバシとカドの立ったブラストビートが打ち付けられる一品。基本的にほぼ1曲丸ごと飛ばしていく爆走系。
同様に4曲目の前半もバシバシとブラックメタルの嵐が吹き荒れますが、ここで印象的なのは中盤以降のスローパート。気だるいアルペジオと薄らメロディのトレモロが、沈み込んだメロウさとほんのり思わせぶりな雰囲気を生んでいて素敵。嵐を抜けて広がるのはモノトーンの景色、な荒涼感。
スローテンポでジワジワと締め上げる6曲目。これは過去作で印象的だった病み感というかデプレ感を継承した一品でしょう。繰り返される地味で根暗なリフに、端々に聴こえる単音の音の粒がなんだか神経症風。こういうのを聴いてると、彼らKrvって単調なようでいて案外いろいろやってるんだなぁと実感しきり。
7、8曲目はそれぞれ7分台と8分台と、ちょっと大作風な曲が続きます。ところどころ触れてるように、基本的に単調っぽく聴こえる彼らのこと、こちらもその例にもれず、耳を凝らして聴かない限りは何となく通り過ぎていってしまいそうなそんな曲たち。
とはいえちゃんと聴けばきちんと起伏と展開が設けられていて、その姿は疑いなく邪悪なブラックメタル。モノトーンというか、あんまり音の一つ一つにコントラストが聞いてないのがこの平坦さの理由だと思いますが、それはきっとそういう表現方法、ということで。特に8曲目後半のスタスタと2ビートで疾走するパートあたりは、ギターリフのせわしなさと合わせて、ちょっとドキドキするスリリングで迫ります。
9曲目はSatan Panonskiというユーゴスラビア時代のオールドパンクのカヴァー、のようなのですが、原曲知らず。。。Youtubeで調べてみても、なんだか全くカヴァーなのか判別不能という・・・こちらのKrv版はオリジナル曲と比べても違和感のないブリザードなブラックメタルになってます。
そしてラストのボーナストラックである10曲目は、EP“Silna volja srebra”に収録の名曲、”Crni Jebeni Metal”のライブ音源。客席の騒がしい感じも拾ってる、生々しい録音になってます。そしてちゃんとみんなで、「ツルニ、イェベニ、メタル!(Black Fucking Metal)」の合唱です。素晴らしい。
怪しさ醸す辺境ブラック
・・・やっぱ聴いてて惜しむらくは、よく聴けば案外素敵な展開や音階がちりばめられてるのに、音作りのせいかそれがなかなか簡単には掴めないこと。繰り返しよく聴けば結構いろんな発見があるのですが、流して聴いてると、ただただ平坦でノイジーなブラックメタル止まりになってしまいそうな。
良くも悪くもそういった点がいかにもブラックメタルらしい気もしますが、印象としてはどちらかというと、コアなファン向けというか、辺境マニア向けというか・・・。
あとはもしかすると、バルカンはボスニア出身ということで、その出自的にある種のペイガン・ブラックメタルとして捉えることもできるかも知れませんね。音楽的にはそうでもないですが。
ということで、この記事書くにあたっても、結構切り口には苦労したのですが、ボスニア産の希少なブラックメタルということで、たっぷりと味わいました。怪しいブラックメタル好きの方はこのKrvを気に留めておいてもきっと損はないでしょう。
彼らKrvの過去作品などなどは↓記事でも紹介しています。
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