[レビュー]Ophidian Coil – Denial | Will | Becoming (セルビア/ブラックメタル)
- 2020.06.17
- セルビア
- Black Metal, Ophidian Coil, Review, Serbia, セルビア, ブラックメタル
セルビアの首都ベオグラード出身のブラックメタル、Ophidian Coilの5曲入りEP。2015年作品。ドイツのObscure Abhorrence Productionsからのリリース。500枚限定?っぽいのですが中古で発見してゲットした品です。
関連情報
本ブログで紹介するバンド達、いつもはほとんどインタビュー記事が見つからず、情報収集も大変なことが多いのですが、今回は1つ発見できたので、そのあたりの情報も盛り込みつつご紹介できそうです。
バンドの結成は2013年中ごろで、XIII.XIII.氏とINIMICVS氏によって結成されました。
このINIMICVS氏はThe StoneやKozeljnik(バンドの方)、Murder、Zloslutといった名だたる(?)セルビアのブラックメタルのライブメンバーを務めてるという、驚くべき経歴の持ち主。
音源については2014年にデモをリリースした後、本作”Denial | Will | Becoming”を2015年にリリースしています。
レコーディングメンバーは、XIII.XIII.氏(ベース・リードギター)、INIMICVS氏(ヴォーカル・リズムギター)に加え、セッションメンバーとして、セルビアブラックメタル界の影の功労者であり、演奏からレコーディングまで何でもこなすチェコの完璧超人Honza Kapák氏がドラムス担当で参加しています。
本作”Denial | Will | Becoming”のリリース後に、XIII.XIII.氏が脱退し、セルビアブラックメタル界の超重要人物で、The StoneのブレインであるKozeljnik氏が参加。INIMICVS氏がThe StoneやKozeljnikなどと関わっていたことを考えると、ごく自然な流れのようにも思われますが、それにしてもKozeljnik氏の活動の幅広さといったら・・・
このKozeljnik氏参加後の音源は2019年に、ギリシャのSeptuagintとのスプリット盤として2019年にリリースされています(・・・が未聴)。
2015年の彼らのインタビュー記事の時点で既に、上記のスプリットについての言及が見られるのですが、ずいぶんリリースまでに時間が経ちましたね。。。
また、フルアルバムについてはなんとも言えないけれど、たぶん2015年の終わりか2016年かな、という旨の発言があるのですが、そのスプリット盤のリリースのタイミングから見るに、フルアルバムはもっと先になるのかも知れません。事実上未定ってところでしょうが、本EPを聴くと、フルアルバムを超期待したくなる出来を誇ってるだけに、その日を信じたいと思います。
ということで、EP本編の内容を聴いてみましょう。いやコレがまた格好良い作品なのです。
壮絶なる嵐の
全体的には、暗黒神秘系(?)みたいなトーンのブラックメタルの系統というか、イメージな気がします。ちょっと雰囲気にインテリジェンスを感じさせてそうな・・・フランスのDeathpsell Omega方面とか、同郷のセルビア産だとDead Shell of Universeとかが近い、個人的なイメージ。
・・・なのですが、それでいて攻撃性やドラマ性、曲の展開などが分かりやすいのが本作の(たぶん)良いところ。インテリ系(?)ブラック勢にありそう(??)な、ミステリアスにこねくり回して聴くの大変、みたいなことにはなってないので。。
1曲目はオルガンと鐘の音色でのイントロ。
そして冒頭から、Honza Kapák氏による壮絶なブラストビートで幕を開ける2曲目。かき鳴らされるギターリフのメロディは平坦ですが、悲壮感が漂い、なんとも耳について離れない魔力を放っています。甘くないけど強烈に印象的。こういうの大好きです自分。
INIMICVS氏のヴォーカルはうめき声風の中音で、ちょっとねっとりまとわりつく様な感触もありますが、一方でハッとするようなクリーンヴォイスを披露したりと多彩。その変はインタビュー記事でも言及されていて、本人曰く、「レンジの広い」ヴォーカルだそうです。
中盤に差し掛かる頃には縦ノリのリズムでワイルドに突き進むパートが登場しますが、これがまた超クール。超絶ファストに襲い掛かってきたかと思いきや、こんな(語弊を恐れずに言えば)バッドボーイ風なノリを絡めてくるあたりのギャップに驚きます。以降も緊迫感あふれる展開が続いていき、暗黒の神秘性と攻撃性が交錯してく様は圧巻。
続く3曲目は、冒頭でじゃらんと荘厳に溜めた後、爆速ブラストビートの嵐、嵐、嵐。寒々しさの中に怨念めいた雰囲気が満載で素敵すぎます。繰り返されるギターのトレモロリフのメロディ感は平たくて、割とうっすらした感触ですが、それがなんとも壮絶で・・・モノクロというよりはセピア色の色彩でしょうか。すさまじい疾走感で耳の辺りを通り過ぎて行く一方、それに心を委ねる甘美さといったら。。。
その曲後半では一転、ブラック・スラッシュ風な刻みのスリリングなリフが登場したりして、単調にさせないあたりが見事。曲のラストにはメロウで劇的なギターソロが高らかに鳴り響きます。それから”キャアアアァァ!!”って悲鳴にも似た絶叫が素敵。やっぱり確かに幅広いレンジを持つINIMICVS氏のヴォーカル、役者です。
・・・と2~3曲目があまりにも神懸り的なので、以降はなんだかちょっと普通に聴こえてしまうのですが、それはあくまで比較しての話で、曲のクオリティ的にはそれほど劣らないはず。嵐のようなトレモロリフ&ブラストビート、邪悪な神秘性を放つ曲展開に、呪われたヴォーカルと、暗黒音楽にふさわしい美意識が満載。
とりわけラスト5曲目後半で聴ける、トレモロリフの嵐の中にほんのりと織り込まれたメロウなメロディが心を引き裂く様。流して聴いてるとほとんど聴き逃しそうな淡さなのですが、それでも引っかかる何かがあって、よくよく聴いてみるとやっぱり鳴ってるのです、悲壮感たっぷりのメロディが。。。
同じセルビア産の同系統(?)Dead Shell of Universeは↓記事で紹介しています。
[レビュー]Dead Shell of Universe – Tamo gde pupoljak vene… tamo je moje seme (セルビア/ブラックメタル)
舌を巻くバランスの好盤
あぁ、彼らのフルアルバムはまだ??というのが今の正直な心境。実際このクオリティでフルアルバムが出てくるとしたら、きっとセルビア産としては屈指の名盤になるはず。しかも現メンバーにはあのKozeljnik氏もいる事だし、それはまさかの本家The Stone超えか??みたいな勢いすら感じさせる本作。
The Stoneとはちょっと系統が違うので単純に比較は出来ませんけども。。
ともかく、さんざん書いてますが、その神秘性というか暗黒性?と攻撃性、ダイレクト感とある種の分かりやすさみたいなもののバランス感覚がとにかく見事な気がするのです。
普通に聴いて単純にカッコよすぎるブラックメタルでありながら、高貴でインテリジェントな質感もあって、甘くないけどほんのりメロディもあるという傑作。
たぶんもはやスタイル的には新しい部類ではないんだろうけれど、その意味では超安定盤って事になるでしょうか。
個人的には2~3曲目の出来が素晴しすぎるのでそれだけで満足。新作に超期待。あと本作に続くスプリットも早めにチェックします頑張ります。
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