[レビュー]Sakramentum – Beyond the Dark Mountains(セルビア/シンフォニック・ブラックメタル)
- 2019.09.08
- セルビア
- Black Metal, Review, Sakramentum, Serbia, セルビア, ブラックメタル
今回ご紹介するのは、セルビアのベオグラード(Belgrade)出身の女性Vo擁するシンフォニック・ブラックメタル、Sakramentumの唯一と思われる5曲入りEP。2012年作品。
セルビア旅行の戦利品で、ベオグラードのレコードストアでゲットしたもののひとつです。ちなみに699セルビアディナールで日本円で700円ちょっとくらい。
リリースは同じくセルビアのMiner Recordingsから。本作と一緒に購入したSamrtやKhargashの作品もこのレーベルからリリースされてます。少し調べてると、このレーベルはセルビアのバンドを中心としてかなりの数の作品をリリースようです。セルビアのメタルを語る上ではマストのレーベルになるかもしれません。
セルビアでCD買ったりあれこれ、なお話は↓もご参考にどうぞ
[ 最終回]セルビア&ボスニアひとり旅~最後のベオグラード滞在part2 闇の博物館?etc[そして帰国]
関連情報的なもの
Metal Archivesによると、結成は2011年で、残念ながら2015年に解散ということで、本作が最初で最後の作品になっています。
メンバーはGoran Zivkovic氏(ギター&バックヴォーカル)、Marko Dragutinovic氏(ベース)、Dimitrije Vasić氏(ドラムス)、Coa Luković氏(キーボード)、そして紅一点のIvana Savić女氏(ヴォーカル)の5人。ドラムスのDimitrije Vasić氏はスラッシュメタルのDeadly MoahやEnjoy Sarmaとも関わりがあるよう。また、キーボード担当のCoa Luković氏はなんとセルビアが誇るブルデス(?)Sacramental Bloodのアルバムにゲストで参加しています。コレ書いてて初めて気づきました。
Sacramental Bloodのレビュー↓。ご参考に。
[Review]Sacramental Blood – Ternion Demonarchy (セルビア/ブルータル・デスメタル)
Sacramental Bloodのライブの様子は↓記事もあわせてどうぞ。
[ 聖地巡礼??]セルビア&ボスニアひとり旅~ノヴィ・サド編part1[メタルツアーも]
本作のカバーアートを手掛けるのは、セルビアのアーティストSlobicus Doomicus氏。この方結構いろいろとセルビアのバンドのアートワークを手掛けているようで、有名どころだとメロディックメタルのAlogiaやNúmenorなどなど。
Beyond the Dark Mountains
本作Beyond the Dark Mountainsの全体的な感触を簡単に表すなら、ひんやりとしたキーボードがきらきらと美しいシンフォニック・ブラック/デス、という感じになるでしょうか。個人的な印象もあわせると、フィンランド勢、とりわけ一昔前のSpinefarmとかSpikefarm勢みたいなイメージというと近いんでしょうか。。
ブラック/デスと表現しつつも、あまり邪悪さは感じず、どちらかと言うと正統派というか、ヒロイックな曲調が中心になっているように思います。
さて各曲に注目して聴いてみると・・・まずフェードインで聴こえてくるキーボードの音色とメロディが、まるで彼らの音楽性をほぼ100%物語っているかのよう。絵に描いたようなメロブラ/デスで、力強いギターリフに、壮麗なキーボード、そして噛み付くようなヴォーカル・・・まさにイントロで想像したとおりでニヤリとしてしまいそう。
自分の1番のお気に入りは2曲目。ちょっとドゥーミーな導入から、勇壮なリズムとメロディーで進行して行き、曲の中盤ではブラストビートとデスメタル的な重めのトレモロリフで一気に暗黒の空模様に。かと思いきや、続けざまに見えるのは星空かダイヤモンドダストかと言わんばかりの、キーボードの透明な音色。醜美の対比、なんて今ではきっと使い古された表現でしょうが、見事な振り幅に驚かされます。
3曲目もブラストビートが効いたアグレッシブかつシンフォニックな一品。なんともメロデス的というか、メロブラ的というか、なんとも言葉で表しにくいですが、メロ系メタルのお約束はしっかり押さえて、我々の涙腺に訴えかける様です。
そこから一転、4曲目ではスピード感を落とし、男性クリーンヴォーカルが朗々と歌う、ゴシックメタル的な雰囲気に。個人的にはそれほど感動的には感じない曲ですが、バンドの美意識みたいなものを感じ取るには案外重要な1曲かも知れません。
ラストの5曲目はエンディングらしく、耽美的でメランコリックな色彩がより強調された1曲のように感じます。ゴシック方面や暗黒シンフォニック方面の音楽は、個人的に、「あぁこのまま死なせてぇ」という感覚をもたらしてくれるのが最高の味わいなのですが、この曲はなかなか素晴らしい。
聴き終えてふと思い出したのは、イタリアのGravewormの昔の作品群。全然フィンランドでもSpinefarmでもないですが、耽美的な香りの要素はそっちにも近いかも、という気もします。
女性ヴォーカルを擁しているという事で、その点も注目を集めそうですが、良くも悪くも、全く違和感の無い感じです。中音わめき系が中心の歌唱(?)で、おそらくグロウルはバックヴォーカルのGoran Zivkovic氏によるものでしょう。女性ヴォーカルと教えられれば確かに、ちょっと声に厚みが無いような気もしてくるのですが、予備知識無しだときっと素通りすると思います。
独自性は無くとも・・・
セルビア産音源に注目して効く様になってしばらく経ちますが、今のところ見えてきたのは、それがどんなサブジャンルであれセルビアのメタルは現時点ではフォロワーレベルにとどまっているバンドが多く、他にはない独自の世界観だったり音楽性だったり・・・を持ってるバンドは非常に少ないのかも、という事。
残念ながらこのSakramentumも例に漏れず、音楽的には新しさも独自性もそんなにないと言わざるを得ないのが正直なところ。。。決して出来は悪くないというか、逆に大いに楽しませてもらったのですが、それでも「1曲目のイントロで・・・」云々書いたとおり、One of Them感がどうしてもぬぐえない。。。
・・・のですが、個人的にはそれでもいいと思ってます。別に従わなきゃならないルールもないし、自らの情熱に従えばそれで良い。むしろ出来の良し悪しに関わらず、こうやってひとつの作品として世に送り出されたものが、注目されずに埋もれ続ける事の方が悲劇だと思ってしまうのです。
あとは・・・セルビアの”メタル”英会話講師が伝えてくれましたが、セルビアの(おそらく主に経済的)状況では、メタルバンドは単にバンドとして活動を続けることさえ簡単ではない、とのこと。活動が続かなければバンドの音楽的にも、メタル界全体としても成熟を望むのは難しい、そういうのも自分が抱いた、フォロワー勢が多いという印象の要因のひとつの様に思えます。
って何をもっともらしいことを書いてるんでしょうか。この作品を聴いて、この記事書きながら、ふとそんな事を考えてしまいました。残念ながら短命に終わってしまったSakramentumですが、ここにこうして彼らの音楽が作品として生み出されたことに感謝したいものです。
正統派シンフォブラック/デス。新鮮味は少なめながら、シンフォニック系が好きな方にとっては、透明感のあるキーボードの音色や耽美的な雰囲気が気に入ることでしょう、きっと。
amazon様
Graveworm – As the Angels Reach the Beauty (Remastered)
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