[レビュー]Moondive – Dive With Me(セルビア/フィーメイル・シンフォニックメタル)
セルビアの首都ベオグラード出身のフィーメイル・シンフォメタル、Moondiveの1stアルバムにして唯一の作品。2004年作。現地のバンドの数多くのリリースを手掛けていたRock Express Recordsからのリリースですが、現在はレーベルは閉鎖となっています。
関連情報と、エメソ!笑
また例によってバンド関連の情報はあまり見当たらず、ほとんどMetal Archives頼りになりますが・・・
バンドの結成は2001年。メンバーは結構流動的だったようですが、2004年の本作”Dive With Me”アルバムでは、Smiljka Milosavljević女史(ヴォーカル)、Marko “Margwie” Čeleketić氏(ギター)、Ivan Hadži-Ilić氏(ベース)、Milan Kole Kostić氏(ドラムス)、Vladimir “Vlakey” Jovanović氏(キーボード)という編成になっています。
ヴォーカルを務めるSmiljka女史は、レコーディングにこそ参加していないものの、一時同郷セルビアのメロブラ/メロデスDraconicにも参加していたようです。
また、ドラムス担当のMilan氏も同じくDraconicに関わっていたり、デスメタルのHeretical Guiltのフルアルバム”Neronic Outburst”でドラムスを叩いています。
他にもいろんなバンド関連の人物が関わっていたりと、当時は結構活発に活動していたことが伺えそうなこのMoondive。
あんまり情報ないのでちょっと困ってましたが、幸運なことにYouTubeにライブ映像がありましたので貼っておきましょう。アップ主に感謝です。再生回数が残念な感じですがみんなで回しましょう。。。
なんと動画後半ではRhapsodyの名曲”のカバーをやっています。なんとも微笑ましいので注目です。
Gitarijadaというのはセルビア東部のZaječarという都市で開催されているロックフェス。有名なExit Festや、筆者も過去に観戦したArsenal Festと並ぶセルビアのロックフェスになるようです。
さらに調べてると、2008年頃?と思われるライブ映像もあったので、その頃までは活動していたと思われますが、現在は解散状態。正確な時期も不明です。。。
(ちょい)関連のDraconicやHeretical Guiltは↓記事で紹介しています
[レビュー]Sacramental Blood / Heretical Guilt / Blasphererion – Triple Death Threat (セルビア/デスメタル・スプリット盤)
やや薄味の儚げシンフォ
さて、そんなMoondiveですがその音楽の方はというと、初期Nightwishあたりのスタイルを下敷きに、ネオクラ要素も多めに絡めてるという、ちょいシケシンフォニック系。ところどころで少々プログレッシブ寄りの構成というか様式美?を見せたりもしてますが、そのちょいシケ具合でやや平坦な音質のせいかやや伝わらないきらいもある、という雰囲気です。
幽玄でドラマティックな雰囲気で幕開けを飾るイントロの1曲目に続き、シームレスに続く2曲目。中盤では夢見るような甘めのきらびやかさのブレイクパートも登場しますが、全体を覆うのはどことなく陰りというか憂いを帯びたタッチです。Smiljka女史が高らかに歌い上げるトーンは、繊細さというよりは低くどこか押し殺したような趣。そのあたりが美しくも物悲しい響きを生んでるんでしょうか。
作品全体を通して、要所でキラキラ、ピロピロとギター&キーボードのソロが切り込んでくるのですが、音質のせいかやや目立たないというか、鳴ってるのに耳に残らないのが少々残念。
・・・と書きつつも、冒頭からキーボードソロが大胆に曲を牽引するタイトルトラックの2曲目。構成はなかなかダイナミックで、リフの起伏だったり、メロディの滑らかな質感が結構印象的。後半もなかなか派手なソロパートが飛び出して、シンフォニックメタルならではな音世界。なのですがやっぱり音質のせいかインパクトが。。。
そして続く4曲目。これは本作中で個人的に1番のお気に入り。曲そのものはその音質もあって比較的地味に聞こえてしまいそうですが、それが逆に淡々とした良い意味でのフラット感。感情を失いかけた、消えかけのメランコリー、でしょうか。特に歌メロのダウナーなトーンが素敵です。
5曲目のインストはなかなか挑戦的な構成のプログレッシブ曲。パワーメタル的疾走、Nightwishばりのギター&キーボードのメロディ乱舞に、中盤はちょっとジャズ/フュ-ジョン風の気だるさ。そしてトドメはバルカン地域の伝統フォークUžičko kolo(ウジチュコ・コロになるはず)のメロディが炸裂。なんだか遊園地の乗り物みたいなイメージのメロディですが、実際はこのKoloというのは民族舞踊の曲らしく、例えば結婚式のパーティとかで、曲に合わせて踊り明かすとか、そんなだそう。
6曲目はゲストの男性シンガーIvan Stojković氏とのデュエットによる幻想的なバラード。このあたりでそろそろ、彼らはどちらかというと(パワー)メタル的に、とかキラピロ系に、とかやるよりもこういう地味目にやってるほうが印象的なのでは?という気がしてきます。
その意味でやっぱり印象薄めなシンフォメタルが香るのが7曲目で・・・
それからキラキラ&ネオクラシカル方面に全振りしたインストの8曲目。これはもう、これでもかというくらいキーボード&ギターが乱舞しまくる意欲作でしょう。個人的には中盤のピアノの音色で高速音階を放ちまくる瞬間にドキッとします。
アルバムラストを飾る10曲目はSmiljka女史の漂うファルセットとふわふわしたキーボードの音色が幻想的な一品。幻想的、といってもやっぱり美しくもどこか陰りのある、明るくなれないトーンのままなのは作品全体を通して共通してます。後半に入るところで、ヒステリックな台詞がまき散らされたのち、エレクトロ風のリズムがシャカシャカ鳴って、なんだか眩暈の中へ落ちていくように、エンディングを迎えます。
捨て置きならぬ原盤
・・・と、聴きながらあれこれ書いてると、筆者自身、良いんだか微妙品なんだかあいまいになってくる様なつかみどころのなさも放ってる気のする本作。それでも仄暗い憂鬱さを放つ4曲目にうっとりさせられたり、動画内の“Emerald Sword”にニヤニヤさせられたり(笑)と、結構たっぷりと味わわせてもらったのも事実。
前述のようなそのシケ感というかB級臭さでちょっと物足りない感じもするのですが、一方でどことなく捨て置きならない魅力も放ってる不思議盤。
よく聴けば案外多彩なことをやってる気もするので、もしかすると、ある種のダイヤの原石的なバンドであったのかも知れません。もし叶うなら、この作品の後もリリースが続き、独自の作風というか色合いを見せてくれるとよかったのですが・・・解散しているのが惜しまれます。
セルビアやバルカン産のバンドって、こういう事態結構多いですね。なんというか、作が続けば何か素敵なものが生み出されそうな予感がするのに、残念ながらその期待は叶わず、という。
本作もたぶんその1つで、特にちょっと大げさですがバルカンの伝統音楽であるKoloとの融合なんかは、ある種Nightwishのフォーク具合への、バルカンからの回答みたいになってたかも。
そんな、あれこれと思わせてくれる作品でもありました。
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