[レビュー]After Oblivion – Stamina(ボスニア・ヘルツェゴビナ/テクニカル・デスメタル)
- 2021.04.06
- ボスニア
- After Oblivion, Bosnia, Death Metal, Review, Thrash Metal, スラッシュメタル, デスメタル, ボスニア
ボスニア・ヘルツェゴビナ出身のテクニカルなデスメタルAfter Oblivionの1stフルアルバム。2012年作品。イタリアのMetal On Metal(Anvilかな?)というレーベルからのリリース。
関連情報
Metal Archivesによると、バンドの歴史は1999年にさかのぼるらしい。99年に前身となるバンドPath Beyond Serenityとして彼らのキャリアはスタートします。そのPath Beyond SerenityとしてはEPが1枚リリースされているようです。
この頃の編成の詳細は不明ですが、ボスニアの正統派メタルSouthern Stormやフィーメイル・ゴシックThe Loudest SilenceのDamir Sinanović氏(ドラムス)や、プログ・メロデスSilent KingdomやブラックメタルKRVのAmir Hadžić氏(ギター・ヴォーカル)も関わっていた模様。
それからこのPath Beyond Serenity時代からの(おそらく)中心人物になるのがAdnan Hatić氏。彼は同郷のメロディックブラック・デスAgonizeやKRVにも参加している人物。
そして2007年にバンドは現在のAfter Oblivionに改名。現在までにデモとEP、それから2012年に1stフルである本作”Stamina”をリリースしています。そしてこの作品が本記事執筆時点での最新作。
本作の編成を見ると、前述のAdnan Hatić氏(ギター・ヴォーカル・ソングライティング・プロデュース&マスタリングにカバーアートまで!)、Jasenko Džipa氏(ギター)、Haris Hasančević氏(ベース)、Marko Gačnik氏(ドラムス)という4人。
Jasenko Džipa氏とMarko Gačnik氏は共にテクニカルデスのFestival of Mutilationでも活躍してますね。さらにJasenko氏はSilent Kingdomにも関わっていて、ボスニアのメタル界の人脈の奥深さを感じます。
ここで名前の出たバンドのいくつかは、既に本ブログで取り上げているので、記事末にリンクをまとめておきます。ご参考に。
エキゾチックな殺伐系
さて、現時点でこのAfter Oblivionの唯一のフルアルバムとなる本作、”Stamina”。そのサウンドは冷たく硬質な音質の下繰り広げられる、スラッシーな刻みとうにょうにょしたリフ/メロディが交錯するテクニカルなデスメタル。
タイトで分離のかなりはっきりした音質はずいぶんと無慈悲な響きで、こぶしを握り締めたくなるようなアツさと引き換えに、殺伐とした雰囲気が作品全体を覆っています。
個人的には、曲のテクニカル感とか硬質な音の響きがUSのDeathみたいなイメージなのですが・・・あんまりDeath極めてないので、当たってるかな。。。加えてギターリフやソロのメロディ感というか歌心?には独特のエキゾチックさがあって、そのへんは同郷ボスニアのメロデスSilent Kingdomあたりの感触に近い気がします。
印象的な曲を拾ってみると・・・
ダンダカダンダン!のリフとリズム、それに続くミュート気味の冒頭のメロディがメタリックなワクワクを運んでくる1曲目。そして裏打ちビートでスタスタと疾走、ブレイクでタメた後の艶っぽいギターソロと、本作で聴ける彼らAfter Oblivionサウンドのテンプレの様なものをすでにここで提示してるかの様。
呪術的な音階のリフがエキゾチックに響く2曲目。このうにょうにょ感は、ギターリフにスライドが多様されてるからかな・・・冷たくスラッシーに進んでいく中にどこか怪しい香りがほんのり漂ってます。
4曲目の冒頭のリフはなんだかTestamentの”Burnt Offerings”を思い起こさせる怪しさ。この曲に限りませんが、右手のザクザクした刻みの響きがくっきりしていて心地良い。その分デスメタルらしい濁り感は皆無のクリアな音作り、というとイメージしやすいでしょうか。
もの静かなクリーントーンがぽろぽろ鳴ってるところから、一気にテクニカルデスになだれ込むタイトルトラックの8曲目。この曲は作中でも最もストレートなダイレクト感を放ってる気がします。素直にギターリフが格好良い。
ラストとなる9曲目、こちらもこれまで同様、スラッシーな刻みとエキゾチックなメロディに率いられていく曲ですが、要所にどこか物悲しい孤独感を感じさせる静寂のパートを設けているのが印象的。ここまでずっとマシナリーな音の連続だったので、ちょっと緊迫感が和らぐ様な瞬間が素敵なコントラストを生んでいます。
気になるのはAdnan Hatić氏のヴォーカル。喉を絞ったようなハイピッチ系のそれ、なのですが、語尾の切り方にちょっとクセ(?)があって、どんな単語からでも大抵「ゥォア」みたいに切るのが良くも悪くもスゲー引っかかります。
閉じ込めたバルカンの香り
・・・と聴いてると、なかなかいい感感じのテクニカル系デス、という印象なのですが、一方で曲それそれが割と似たり寄ったりで、やや平坦に感じる場面も。テクニカルで構成の起伏もちゃんとあって、その点ではある種プログレッシブ1歩手前なくらいですが、いかんせんその一つ一つはやや弱いというか・・・。
冷たく硬質な音質も、裏を返すと無味乾燥と紙一重で、内容は決して悪くないのに今一つ響かないのが玉に傷。。
なのですが、たぶん一番彼らを特徴づけてるのは、ギターのフレーズのメロディ感。ここではエキゾチックな、なんて表現してきましたが、その香りこそたぶんバルカン産ならではの特徴になるはず。ボスニアの伝統音楽の要素を取り入れてるSilent Kingdom聴いててもそうなのですが、そういったちょっと中近東風というかエスニック風というか、そんな質感に通じるものがある、そんな気がするのです。
そういうメロディ感にあんまり馴染みのない我々からすると、なんだかつかみどころのない印象に終始しがちですが、バルカンの香りをテクニカルデスに封じ込めた一品、という捉え方だと、聴こえ方も変わってきそうな、そんな味わいの一品です。
関連作品たち↓
Jasenko Džipa氏参加のSilent Kingdomと、
[レビュー]Silent Kingdom – In Search of Eternity (ボスニア・ヘルツェゴビナ/メロディック・ブラック・デス)
同じくJasenko氏とMarko Gačnik氏参加のFestival Of Mutilation。
[レビュー]Festival Of Mutilation – Gods Of Infernal Desolation(ボスニア・ヘルツェゴビナ/デスメタル)
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