[レビュー]Bombarder – Bez Milosti (ボスニア・ヘルツェゴビナ/スラッシュ・スピードメタル)
ボスニア・ヘルツェゴビナ出身のスラッシュ・スピードメタルのカルトであり生けるレジェンド、Bombarderの2ndフルアルバム。オリジナルは1991年作で、カセットとレコードでリリースされていた音源です。
その後ずっとCD化はされていなかったようなのですが、ついに2020年、セルビアのGrom RecordsからCD化されました。いやはやおめでたい。CDメインの自分にとっては有難すぎる。なんでも500枚の限定だそうですが、筆者はDiscogsで現地セルビアのセラーから取り寄せました。
その時のお話は↓記事に書いてます。
関連情報
彼らのキャリアは90年代の一連のユーゴスラヴィア紛争をはさんで、サラエボを拠点に活動していた前期と、紛争終息後にヴォーカルの “Nešo” 氏がセルビアに拠点を移して活動を再開させた後期、という風に大まかに分けて捉えることが出来そうです。
その点で、89年作の前作”Speed Kill”と、91年の本作”Bez milosti”は彼らのサラエボ時代のアルバムであり、ある種最もカルト感を放っていた黎明期の名作たち、ということになりそう。
2ndアルバムである本作”Bez milosti”、レコーディングの編成は、バンドのブレインであるNenad “Nešo” Kovačević氏(ヴォーカル)、Maho Šiljdedić氏(ギター・ソングライティング)、Senad “Samčo” Ljubunčić氏(ベース)、Senad Marava氏(ドラムス)の4人は前作から不変。前作でギターを弾いていたZlaja氏は、本作ではJasmin Lamadžema氏に交代しています。
残念ながら、そのサラエボ時代のBombarderの音楽を、ソングライティングの面から特徴づけていたMaho Šiljdedić氏は、前述のユーゴ紛争で故人となっています。。。アルバムのブックレットにはMaho氏への追悼文も掲載されていますね。
彼らの1stアルバムは↓記事で紹介しています
香わしいスラッシュ/スピードメタル
さて、バルカンスラッシュの大カルトであり、その始祖的バンドの1つともいえる彼らBombarderの2作目ですが、内容は一言で表すなら前作の延長線上の進化盤という感じと言えそうです。本作でもまだバリバリのスラッシュというよりは、スピードメタルからスラッシュメタルへの過渡期あるいは移行期的な音像で、そのへんの在りし日のスピードメタル臭は前作と共通のもの。
相変わらずAMラジオみたいに色味なく、モノトーンでちょっとヨレた音質がカルト臭をぷんぷんさせてますが、前作”Speed Kill”アルバムと比較すると多少は改善されてるでしょうか。
前作はどれだけ聴いてても、なんとなくしかめっ面が抜けないというか、粗悪音質こそカルトの証!みたいな妄信がないとちょっとしんどいかも、というレベルでしたが、今作は慣れてくると音質の悪さはちょっとした味になってノリも分かってくるかも、という印象。とはいえ良い意味でカルトとポンコツとの紙一重、というのは前作同様でしょう。
なんだか色あせたサスペンスモノみたいな(?)オープニングから幕を開ける1曲目。メインの疾走パートは前作でも聴けたBombarderサウンドよろしく、シンプルというかやや単調気味でザクザクザク・・・というよりはペキペキペキ・・・みたいな怪しさ。匂い立つカルト臭です、さっそく。
2曲目はどことなく向かいのJudas Priestみたいな、壮大で熱いイントロを持つ名曲。その名も”Speed metal manijak”。ギターリフは例えば前曲1曲目なんかと近いのですが、この曲はそのスリリングさと熱さが一味違います。特にサビのパートなんかは、ノイズ混じりの疾走感というかドライブ感がまさにスピードメタル。作品の時代的にはスラッシュメタル全盛期ですが、ここで香るのはスラッシュ前夜のあの感じ、というと伝わるのでしょうか。。曲のラストの「まぁぁぁにぃいいあああああああ!!!」の大絶叫がいい意味でイカレポンチ、アンポンタンで素晴らしい。
4曲目では雰囲気が一変、ここではカラリとしたロックンロールな雰囲気とノリの、なんだか笑顔になりそうな(?)ご機嫌ソング。ギター&ベースの楽器隊が踊るようにシンクロしてネック上げてそうな映像が浮かびそうです。
不穏なイントロがダン・ダン・ダンと炸裂する5曲目。中盤では緊迫感溢れる音階と刻みのギターリフが切り込んできて、その様はまるでシリアルキラーの如し。この曲に限りませんが、リズム割と無視で吐き捨てるように繰り出される”Nešo”氏による、ダミ声の怒れる飲んだくれオヤジヴォーカルは、このBombarderになくてはならない個性の一つでしょう。
7曲目は再びライトなノリのロックンロール風の一品が登場。切り込んでくるギターソロの音色もキレよりはノリに重きを置いてそうな、ともするとちょっとブルージィ?な質感を放ってます。こういうのを耳にすると、彼らは狂えるスピードメタル狂なのか、はたまたユーゴロックンロール野郎共なのか惑わされてしまいそうですが・・・逆に言えば案外多彩というか、なんだか不思議な気分にさせられます。
そして続けて重苦しい刻みでサクザク、ギリギリ疾走する8曲目へ。これは本作中でもかなり色味を抑えた、というか平坦な音階でずっと続いていく暗黒寄りの雰囲気。ベースはずっとブンブンほぼ同じ音で鳴ってるし、ドラムスもツカツカとまるで機械の様。そこに載る”Nešo”氏の濁った絶叫。
9曲目はこれまで聴けたロックンロール風の手法と、スラッシュ・スピードメタルの勢いを1曲に封じ込めた強力な1曲。ちょいユルのロックパートと、バカスカ疾走するパートのコントラストというか振り幅がなかなか強烈で、一気に持っていかれるそうになって驚く感覚がスゴイ。
Grom Recordsから再発のCD盤のボーナストラックが10曲目。本編2曲目の”Speed metal manijak”の2017年の新録バージョンなのですが・・・もはや同曲とは思えぬ、原曲の怪しさなど微塵も感じない、現代のスラッシュメタルに変貌を遂げています。ザクザクとした刻みの切れ味が凄まじい。。。原曲のある種の魅力だった怪しげな味とか香りは吹き飛んでますので、良い悪いはなんとも言えませんが、これはこれで強烈でやっぱりニヤニヤしていまいます。
バルカンはユーゴの大カルト
・・・という事でここまで聴いてきたBombarderの2作目”Bez milosti”ですが、語弊を恐れずに言えばちょっと単調なところもある、香わしいヨレ感とポンコツ感のスピードメタル。そしてその胡散臭さこそが、言葉では表現できないカルト臭をも放っているという、そんな作品。
何よりこうしてCD化されてより安定的に本作に触れることができるようになったのが素晴らしい。その点ではセルビアのGrom Recordsの功績は本当に大きいと思われます。
なんだか大げさな話になりますが、バルカン地域のスラッシュメタルの理解にとどまらず、在りし日のユーゴ・メタルの1コマを後世に残すうえでも、このCD化は大変に意味を持ちうるんではないかと勝手に思うのです。
とりわけ、ソングライティングを手掛けるMaho Šiljdedić氏が在籍してたユーゴ紛争前サラエボ期のBombarder、つまり1stアルバムである前作”Speed Kill”と本作”Bez milosti”に封じ込められたなんだか得体の知れないカルト臭はおそらく唯一無二のもの。。。
同時代のユーゴスラッシュ・スピードメタル勢にはスロヴェニアのSarcasmやセルビアのHeller、Annathemaあたりが挙げられそうですが、それらの初期作品に比肩する快作であり怪作。
日本ではあんまり彼ら、というかユーゴ時代のメタルについて言及されてるのを見かけない(気がする)ので、世間的な評価は分かりませんが、少なくとも本ブログでは、勝手に恐るべき大カルトに認定し崇めます。今なお活躍を続けるバルカンスラッシュの始祖であり伝説。
彼らの最近の作品は↓記事もご参考に
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