[レビュー]May Result – У славу рогова наших(U slavu rogova nasih)(セルビア/シンフォニック・ブラックメタル)
- 2021.02.26
- セルビア
- Black Metal, May Result, Review, Serbia, セルビア, ブラックメタル
セルビアのベオグラード出身のシンフォニック・ブラックメタルMay Resultのコンピレーション盤。2003年作品。セルビアの代表格レーベル、今は無きRock Express Recordsからのリリース。ずいぶん前にDiscogsでセルビアのセラーから取り寄せた品です。
関連情報
本作は新録曲と、1996年のデモ音源を合わせたコンピレーション盤という内容。その構成を見ると・・・
- 1&2曲目 ・・・ 1997年から1999年にかけて書かれた未発表曲のリ・レコーディング音源で、おそらく初出。この時期は1stアルバムのリリース前の時期ということになりますね。
- 3曲目 ・・・ 1996年のデモ”Ignoramus Et Ignorabimus”収録曲のリ・レコーディング。有難いことにこのデモ音源が丸ごと5~8曲目に収録されています(後述)
- 4曲目 ・・・ ノルウェーのGehennaの”A Witch Is Born”のカヴァー。
- 5~8曲目 ・・・ 1996年のデモ”Ignoramus Et Ignorabimus”全曲。このうちの”Auto da Fe”という曲が、本作の3曲目でリレコーディングされています。
- 9曲目 ・・・ 2002年チェコで開かれたOPEN HELL FESTでのライブ音源。
という風になっています。とりわけデモ音源完全収録ってのが有難い。リ・レコーディング音源と聴き比べるのも興味深いですね。
リ・レコーディング時のバンド編成は前作“Tmina”アルバムから不変で、Kozeljnik氏(ギター)、Dušan氏(ギター)、Glad氏(ヴォーカル)、Rastko氏(ベース。R.I.P. 2020)、Ilija氏(ドラムス)、Urok氏(キーボード。前作ではMilanの名)の5人。セルビアのバンドでは比較的珍しい安定のラインナップで、ある種バンドの黄金期を迎えているとも理解できるかも知れません。
あとはブックレットに、アンチ「アンチキーボード」の旨が表明されてるのが面白い。
!!!MAY RESULT DO NOT SUPPORT “NO KEYBOARDS” TREND STUPIDITY!!!
だそうです。
本編 未来と過去と現在と
新録曲たち(トラック1~4)
1曲目と2曲目は、オリジナル曲が書かれたのは1997年から1999年の間に書かれたものというから、これらは彼らの初期の音楽性や方向性を知るうえで非常に興味深い曲たち、と言えそうですが・・・
聴いてみると実際は、本コンピ盤”U slavu rogova nasih”の後にリリースされる、3rdアルバム”Svetogrđe”の雰囲気を強く示唆する音像になっています。とりわけ新加入したUrok氏によるキーボードの、ほわんとした響きを含めた音作りやアレンジにその雰囲気が顕著な気がします。
共に大作志向という点も同じで、1曲目は約7分、2曲目は約11分にも及びます。白眉は1曲目の後半のスローパートからの流れ、でしょうか。例えばSatyriconの名曲”Mother North”の中盤のスローパートにも近い、ジワジワと催眠術にでもかかっていくような甘美な陶酔感から、一気に勇壮なファストパートになだれ込む瞬間に息を呑みそう。
3曲目は本作の5~8曲目で聴くことのできる”Ignoramus Et Ignorabimus”からリ・レコーディングされた一品。キーボードによるふわふわしたイントロが追加になっていて、オリジナルのブラック・デスの荒々しさと共に、幽玄な雰囲気とドラマティックな色彩が加えられていますね。
続く4曲目はGehhenaのカヴァーで、個人的には意外な選曲にちょっと驚きつつも、なかなか見事にハマってる気もします。オリジナルよりはちょっとテンポが速めで、浮遊感漂うキーボードが割と目立ってて、そのミステリアスな夜空に飛び立ちそうなマジカルな感覚が素敵。オリジナルのなんだか懐かしい香りのする雰囲気も素晴らしいのですが、これはこれで甘美です。
デモ”Ignoramus Et Ignorabimus”+@
5曲目からは1996年のデモ”Ignoramus Et Ignorabimus”の曲に入ります。この頃から専任のキーボード奏者が在籍してますが、音の方はキーボードの存在をあまり感じない、粗削りなデス・ブラックメタルといった雰囲気。後に続く1stフルアルバムで聴こえる、ややケバくもある種のエロティックささえ感じそうな耽美感満載のあの音の原型、とは連想しづらいほど。
かすかに繋がりそうなのは、ギターリフのややデスメタル寄りの質感、くらいでしょうか。
ここで特に注目(耳?)したいのはやはり本作中でリレーコディング・バージョンが聴ける6曲目。その音作りによるのでしょうが、再録バージョンと比べると随分とガリガリと狂暴っぽいというか、こちらの方がよりデスメタル色の濃い響きです。再録の方はもっと、ブラックメタル的な狂気とドラマ性を滲ませる感じというか・・・。
8曲目なんかも、トレモロリフのザラリと重苦しい響きがまさにデス・ブラックといった感じの突撃型。ここまでそれほど耳を引かなかったSrđan氏(本作中ではデモのみ)のヴォーカルの、ウグェェってちょっと水っぽいヴォーカルも、ここではなかなかの気味悪さで迫ります。
そしてラスト9曲目は2002年のライブ音源。チェコのHell Festというライブからだそうで、曲は2001年の名作2ndアルバム”Tmina”から。チリチリした音質で、あんまり音のクオリティは良くないですが、なんだかライブならではの熱量を感じる気もします。・・・というか2ndの曲やキーボードの響きが個人的に、神がかり的に狂おしく好きなので、実のところオマケっぽいこの9曲目が本作中では一番印象的なトラックだという。。。
隔たる時の集約盤
・・・とこうして聴くと、本作収録の新録曲たちは彼らMay Resultのこれからの行方を強力に示唆するものであり、その一方で、同時収録の初期デモ音源は彼らの出発点を表すもの、さらにはライブ音源が当時の彼らの姿そのものを映し出すものとして、本作はMay Resultというバンドの過去・現在・未来をアルバム1枚に集約した作品ととらえることも出来そうです。
なんだかやや大げさな気もしますが、そう考えると案外、たかがコンピ盤と侮ることのできない1枚という気もしてきます。収録曲それぞれは実際それほど強いインパクトを放ってるわけではないにしても。。。
深堀り盤としてマニアな皆様にはぜひ。
May Resultの過去作品は↓記事でも紹介しています
[レビュー]May Result – Gorgeous Symphonies of Evil (セルビア/シンフォニック・ブラックメタル)
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