[レビュー]Interfector – The Force Within (ボスニア・ヘルツェゴビナ/ブラックメタル)
- 2020.01.13
- ボスニア
- Black Metal, Bosnia, Death Metal, Interfector, Review, デスメタル, ブラックメタル, ボスニア
ボスニア・ヘルツェゴビナのバニャ・ルカ(Banja Luka)出身のブラックメタルInterfectorの1stフルアルバム。2004年作品。
セルビアのRock Express Recrdsというところからのリリース。詳細は調査中(?)ですが、セルビアの”メタル”英会話講師によると、同名のメタル雑誌が当時セルビア(と旧ユーゴスラヴィア地域?)で発行されていたようで(現在は廃刊っぽい)、おそらく関連のレコードレーベルと思われます。
関連情報
ボスニア・ヘルツェゴビナはボスニア・ヘルツェゴビナ連邦(The Federation of Bosnia and Herzegovina)とスルプスカ共和国(Republika Srpska)という2つからなる共和国で、彼らの出身地であるバニャ・ルカはスルプスカ共和国の首都になっている都市。ちなみにボスニア・ヘルツェゴビナ連邦の首都がサラエボで、ここは国家としてのボスニア・ヘルツェゴビナの首都も兼ねています(ということでよかったはず)。
掘り下げると長くなりそうなので詳細は省きますが、このスルプスカ共和国というのは主にセルビア人が多数を占める地域で、つまり彼らはボスニア・ヘルツェゴビナ出身のバンドでありながら、セルビアともつながりが深いバンドとも考えることが出来ます。
アルバム本編の項で後述しますが、曲名に“Mother Serbia”というのがあって、何故ボスニアなのに“Mother Serbia”なのかという疑問も出そうなのですが・・・それはきっとバニャ・ルカという彼らの出身地域とも関連がありそう、という点を覚えておくと、より彼らの音楽を楽しめるかも知れません。
さて、バンドの方へ話を移すと、Metal Archivesによれば結成は2000年とあります。本作までにはいくつかデモというかプロモ盤?が出ていて、その中にはDraconicらとの連名のものも。
そして2004年にリリースされたのが本作”The Force Within”。レコーディングのラインナップは、Carcass氏(ヴォーカル・ベース)、Invictus氏(ギター・ヴォーカル)、Apeiron氏(ドラムス)、Branislav “Antares” Stanković氏(キーボード・ヴォーカル)の4人。
Youtubeでライブ映像観てると、ヴォーカルはCarcass氏がメイン、Invictus氏とAntares氏はバックヴォーカル、という感じみたいです。
それからキーボードのBranislav “Antares” Stanković氏はセルビアのシンフォブラック/デスのDraconicにも在籍していますね(というかそっちがメイン?)。
他にはゲストとして女性ヴォーカルのパートをMarta Vlahović女氏が務めています。氏はセルビアのOrganized ChaosやAbonosにもいたようですが、いまのところ未聴です。
そして驚きのゲストが、セルビアの重鎮The StoneやMay ResultのヴォーカリストNefas氏。収録曲のうち1曲で、本家に勝るとも劣らぬ邪悪歌唱を披露しています(・・・が実は最初気付かなかったのは内緒です><)。
Nefas氏のThe Stoneの記事は↓などご参考に
[Review]The Stone – Закон Велеса(Zakon Velesa) (セルビア/ブラックメタル)
”Majka Srbija!” ちょいプログレッシヴKey入りメロブラ
Metal Archivesには、Progressive Black Metalとカテゴライズされてる彼らの音楽ですが、ブラック・デスメタルの攻撃性や方法論みたいなものと、主にキーボードの音色を加えて淡いタッチで描かれるミステリアスで幽玄なパートの組み合わせは、確かにプログレッシヴと呼んで良いのかも。(個人的にはそれ程、いかにもプログレって感じは受けませんでしたが。)
そんなアルバム本編で最も輝きを放つのは、1曲目の“Mother Serbia”に違い無いでしょう。そのタイトルの通り、セルビアやバルカン地域あるいは、南スラヴの魂の1曲。作品冒頭からいきなりハイライト、です。
雷鳴、鐘の音、そしてバルカン地域の伝統楽器グスレ(gusle)のメロディーに導かれて、不穏に幕を開け、”Majka Srbija!”(Mother Serbia)のワードで楽曲が一気に炸裂。
そしてドラムスの変拍子に乗せて鳴り響くリフは、絵に描いたようにセルビア的、というかバルカン的な、ちょっと中近東風味で、メタル的には呪術的な香りも漂います。中音かすれ系のヴォーカルの後ろで乱舞するトラディショナルなメロディーはまるで空高く舞う母なるセルビアの魂。。。
なんというか、たぶん我々の耳にはエキゾチックの塊に聴こえる質感のメロディーで、その土臭さは例えば北欧メロデス勢の出してる冷ややかな格好良さとは真逆(?)で、メロデスとしてそれを期待するとかなり肩透かしを喰らいそうではありますが・・・一方バルカン地域出身バンドにしか出せない音というのもあるはずで、きっとこの曲がまさにそれだと感じさせます。
この“Mother Serbia”があまりにも象徴的すぎて、他の収録曲というのはなんだかそれなりのプログレッシブ風味のメロデス・ブラックに聴こえてしまうのですが、案外ほんのり聴き所がちりばめられてるというか、構成美が光る場面もちらほら。
その点で印象的なのが、ゲスト女性シンガーMarta Vlahović女氏がバックヴォーカルと務める4曲目と6曲目。どちらもちょっと儚げなメロディーとキーボードの音色の雰囲気作りが、Marta Vlahović女氏のこれまた淡い歌声と相まって、幽玄な音世界が広がります。
それから本編ラストの9曲目、The StoneやMay ResultのNefas氏がゲストでヴォーカルを担当するこの曲も、邪悪なトレモロリフ&ブラストビートな攻撃性から、幽玄時々メロウな儚いパートまで、(たぶん)プログレッシヴ的な展開で広がります。実際The Stoneがこんな感じでやっててもおかしくなさそうな。。。ここでのメロディーはちょっとトラディショナル風味、かな?
“Dark Slavic Times”?
こうしてみると、作品全体を通して、デス・ブラック方面のアグレッシブさよりも、独特の淡くミステリアスな雰囲気の方が、彼らの持ち味を表してるような仕上がりだと思います。
例えば”Dark Medieval Times”や”The Shadowthrone”の頃の昔のSatyriconみたいな、一見(一聴?)ぺらぺらの薄味だけど、よく聴くと雰囲気作りが巧い、みたいな。この頃のSatyriconって攻撃性よりもそうした空気感が支配的な気がしてて、Interfectorの本作も、なんとなく同じ色合いを思い起こさせるのです。
あとは、ボスニアというかバルカン的メロディーを取り入れたメタルとして気になる(?)のは、同国出身のメロデス・ブラックSilent Kingdomの音楽との色合いの違いですが・・・
一言で表すと、こちらのInterfectorの方がメタル的に分かりやすく、プログレ度も控えめで聴きやすいと思われます。Silent Kingdomは時に(いつも?)結構難解というか、よりディープなメタルとバルカンの伝統(Silent Kingdom的にはボスニアのトラディショナル音楽であるSevdah)のコンビネーションになってる気がします。
そのSilent Kingdomは↓記事で紹介しています。ご参考に
[Review]Silent Kingdom – In Search of Eternity (ボスニア・ヘルツェゴビナ/メロディック・ブラック・デス)
・・・繰り返しになりそうですが、本作の“Mother Serbia”、これはバルカンの地域性みたいなものを見事にメタルに封じ込めた珠玉の1曲として、記憶にとどめておきたい品。
ノルウェーには“Mother North”があって、ウクライナには”Слава Україні!”あるいはウクライニ!スラーヴァ!の号令があって・・・そしてバルカンから”Majka Srbija!”(マイカ スルビヤ)がそれらに肩を並べても良いはずと、勝手に信じてます。
なんとなく↓のSatyriconのイメージと重なるのです。“Mother North”がそう連想させるんでしょうか。
Satyricon – Dark Medieval Times
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