[セルビア入門に]メタルヘッドと読む『セルビアを知るための60章』[バルカン本]
少し腰を据えて何かを知ろうと思うなら、ネット見るよりも良質な本を探すのがよい。
本当のところそうなのかは分かりませんが、自分は完全にそういうタイプ。本というか紙の質感や香りと、きちんと1冊の書籍として情報や知識が集約されてる点も含めて、読みながら淡々と時間を過ごすのが好きでもある。
と冒頭から何を書いてるのかと言われそうですが・・・自分がセルビアを含めたバルカン地域に本格的に興味を持ち始めて、あれこれ調べようと思った時に、総合的にまんべんなくセルビアについて教えてくれたのが本書。
柴宜弘 山崎信一編著(2015)『セルビアを知るための60章』明石書店。
今回はこの、自分にとってセルビアについて学ぶ素晴しい道しるべとなった本書をご紹介です。
構成
本書はエリア・スタディーズという世界の国々や地域別に1冊を割り当てたシリーズの1冊で、これまでに100を軽く超える国や地域をテーマに出版されています。セルビアは通し番号で137番目。
書店や図書館などではこのシリーズがずらっと並んでたりするので、なんとなく目にしたことのある方も多いかもしれませんね。
構成は大きく7部に分かれていて、その中に通し番号つきで60の章立てになっています。各部を見ていくと・・・(一部実際の部のタイトルとは表現を変えています)
第1部 セルビアという国への導入
第2部 歴史
第3部 政治、経済、国際間関係
第4部 多様な地域と人
第5部 宗教、社会、生活
第6部 文化、芸術、スポーツ
第7部 日本との関係
という感じ。加えて少しくだけたミニコラムがいくつか挿入されています。
執筆者は各章ごとに割り当てられていて(複数担当してる方もいます)、著者はバルカン地域の専門家から、ジャーナリスト、アーティストまで幅広く、その数総勢28名。
中には、光栄な事に本ブログの記事
[バルカン本]料理素人と読む、『イェレナと学ぶセルビア料理』[買ってみました。]
の一部を、自分も大好きなYouTubeチャンネルの、「セルビアちゃんねる」様内の動画で取り上げてくださった、同チャンネル共同運営者でもあるジャーナリストの大塚真彦さんの名前も。
大塚さんは3つの章を担当され、その中では、セルビアのメディアの状況や、セルビアの人気命名の移り変わり、女性差別やLGBTなどに関する問題を紹介されています。
参考↓この動画の後半で本ブログ記事内のコメントが紹介されています。(セルビアちゃんねる様)
印象的な章
実は本書を読んだのはずいぶん前で、内容を忘れてしまっているところも結構あるのですが、記憶を振り返りながら、印象的だった章をピックアップして紹介してみたいと思います。
本書の記述と、自分自身の体験が少しリンクして印象的だったのが、セルビアの歴史を紹介する1章。とりわけ第2次大戦中の、セルビアの社会主義時代の指導者チトー率いるパルチザンの、ナチスドイツに対する抵抗運動についての項です。
パルチザンの抵抗運動が始まったのは、セルビア中央西部の都市ウジツェ(Užice)。この街は「ウジツェ共和国」として、ナチス・ドイツからの開放地区になりました。しかしながら後にはこの「ウジツェ共和国」は失われることになります。
またナチス・ドイツからの報復の一環として、セルビア中央の都市クラグイェバッツ(Kragujevac)では、大量虐殺が起こります。
実はすでに行ってた><
・・・実は(?)偶然にも、本ブログ別記事で紹介したセルビア&ボスニア旅行で、このウジツェとクラグイェバッツの2都市を訪れてます、自分。
上記の歴史的背景を、本書で読んだことをすっかり忘れたまま、だったのですが。。。(大汗
まず、ウジツェでは、現地在住のガイドさんが、ミュージアムそばにあるチトーの像や第2次大戦の慰霊碑を案内してくれたりしました。その中で「ウジツェ共和国」についても少し説明してくださいました。かつて「ウジツェ共和国」としてナチス・ドイツへの抵抗運動の拠点だった場所、その地を自らの足で踏みしめたわけです。
↑ミュージアムそばのチトーの像
↑第2次対戦の慰霊碑
それから、ウジツェ滞在で自分が泊まったホステルの名前が、「Eco Hostel Republic」という名前だったのですが、おそらくその「Republic」というのも、「ウジツェ共和国」から取られていると思われます。内装のいたるところに、赤い星のモチーフが使われてましたし。
↑ホステルの入り口。共産主義のシンボルの赤い星が見えます。
ウジツェ旅行の様子は↓の記事に載せてます。
・[ 聖地巡礼??]セルビア&ボスニアひとり旅~セルビア中央西部の街ウジツェ編part1[メタルツアーも]
さらに、クラグイェバッツでは現地のガイドさんに、ナチス・ドイツによる虐殺のメモリアルパークを案内していただきました。広大な敷地にたくさんのモニュメントがちりばめられた、美しい公園になっています。
↑公園の風景。このときの様子は↓記事の後半で見れますのでご参考に。
[ 聖地巡礼??]セルビア&ボスニアひとり旅~Arsenal Fest参戦@クラグイェバッツpart2[メタルツアーも]
・・・と、本に書かれている事と、実際の自分の体験がこうしてリンクした訳です。すると全くリアリティも違ってきます。文字だけでは得られない、本当の?現地の?空気感や、ただ眺めるだけでは知ることの出来ない背景を本で補う、その相互作用とでもいうか・・・そのおかげできっと強烈に、自分の中に刻み込まれることでしょう。
セルビア入門にぴったりのガイド本
ちょっと本の紹介から脱線しましたが、例に挙げた歴史の話題にとどまらず、観光に役立ちそうな知識や、セルビア的ユーモアのセンスを紹介してるコラムなど、もっと気楽に読めるパートも用意されています。
一方、前述したように、本書の著者はバルカン地域の専門家から、ジャーナリスト、アーティストまで幅広く、そのせいか文章の硬さと、テーマのマクロ~ミクロの距離感にややばらつきを感じるのも事実。しかしながらその分、学術的視点に偏らず、様々な視点や角度から、セルビアの有り様を伝えているようにも思います。
自分にとっては政治や歴史は予備知識ほぼゼロなので、流れを理解しながら追っていくのがちょっと大変でした。全てを頭に入れようとするのではなく、大まかな概要をつかむ位の読み方だとスムーズに入ってくるのかも。
セルビア関連の本というと、案外ありそうでないというかあまり露出していないというか・・・でまとまった情報源を確保しようと思うと案外大変だったりもしますが、本書はこれ1冊でずいぶん広い範囲の関連知識をカバーできるように思います。
これで物足りない分野については、巻末の参考文献リストを使って深堀りも出来ます。その意味でも、まずは本書を手にとって、学びの道しるべにするというのは悪くないのではないかと。
ほとんど右も左も分からないような状態から、セルビアについての多くの知識を授けてくれた良書。
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