[お知らせ]本ブログ発!ネットラジオ番組 ”WWHYH Radio Show” がはじまりました![Undergrand Radio]

[バルカン入門に]メタルヘッドと読む『バルカンを知るための66章』

[バルカン入門に]メタルヘッドと読む『バルカンを知るための66章』

今回ご紹介するのは、柴宜弘編著(2016)『バルカンを知るための66章』[第2版]明石書店。

エリア・スタディーズという、世界の国々や地域別に1冊を割り当てたシリーズの1冊で、これまでに100を軽く超える国や地域をテーマに出版されています。バルカン地域を扱う本書は通し番号で48番目。

読んだのはずいぶん前で、すでに紹介している、『セルビアを知るための60章』と同時期に読んでいたのですが、内容の記憶はかなり薄れてしまってます。振り返りながら見ていくことにしましょう。

『セルビアを知るための60章』のご紹介はこちら↓

[セルビア入門に]メタルヘッドと読む『セルビアを知るための60章』[バルカン本]

概要・構成

タイトルにあるように、テーマは「バルカン」。という事で、国という単位ではなく、ヨーロッパ南東部に位置するバルカンというもう少し広いスケール感で各部・各章がまとめられています。

実際に取り上げられている国は、バルカン半島に位置する国のうち、スロヴェニアを除く10カ国。具体的には、アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルガリア、クロアチア、ギリシア、北マケドニア、モンテングロ、ルーマニア、セルビア、コソヴォの10カ国です。

そして本書では、これらの10の国々を個別に紹介していくのではなく、「バルカン」という地域としての共通性に注目しながら、横断的に記述しているのが最大の特徴。いわば、国としての単位より、歴史的に共通項の多い地域としての共通性や文化性により焦点を当てている、といえるでしょう。

 

本書の構成をみると、全9部に分けられた大きな分類の中に、通し番号で66の章が配置されています。ざっくりと部の構成や内容をみると、学術的なテーマから馴染みやすいサブカルチャーのような話題まで、広く言及されています。

大まかな章立ては以下の通り。

第1部 歴史

第2・第3部 都市・地域・民族

第4・第5部 暮らし・社会・伝統

第6部 言葉

第7・第8部 食・文化・スポーツ

第9部 世界とのかかわり

 

各章の執筆者は、歴史や文化、言語など各分野の専門家が総勢31名。既に本ブログで紹介した、『セルビアを知るための60章』と比べると、フォークロア・伝統文化に関する内容がより目立っているような気がします。

印象的なチャプター

ここでは特に、個人的に印象的だったチャプターに注目してみましょう。

その1 ヴァンパイア伝説

バルカンブログであると同時に(とりわけブラック)メタルブログでもあるココでは、やはりルーマニアのトランシルヴァニア、そしてドラキュラ伝説に触れないわけにはいきません。

本書ではルーマニア中世史の文脈から、ドラキュラのモデルになったといわれる、ヴラド・ツェペシュ(Vlad Tepes)について紹介する章があるのです。このツェペシュというのは日本語にすると串刺公という意味になるらしく、なんでも、侵攻してくるオスマン軍をゲリラ戦で壊滅させたルーマニアの英雄であり、オスマン軍の兵士を串刺しにして処刑したことから、この異名がついたと言われています。

このヴラド串刺公がいかにして吸血鬼になったのか、という点にはこの章では詳しく触れられていないのですが、吸血鬼伝説のルーツを歴史の面から知る、興味深い1章です。

余談ですが、メタル的には、まさにVlad Tepesなるブラックメタルがフランスにいましたね。確かLes Legions Noirs関連の暗黒地下ブラックメタルだったような。

その2 ベオグラードとザグレブに見るバルカンとヨーロッパ

各都市の比較を通して、地域の共通性を考察する章では、セルビアの首都ベオグラードと、クロアチアの首都ザグレブについて、興味深い一節がありました。

「ベオグラードもザグレブもサヴァ川のほとりにある。前者はサヴァ川の南岸、後者は北岸に位置する。このわずかな違いが両市の性格を決定的に異なるものにした。―ドナウ川を結ぶ線をバルカン半島と中央ヨーロッパの境界とする通説に従えば、ベオグラードはバルカンの町、ザグレブは中央の町と明確に定義できるからである。」(114ページ)

ザグレブには行った事がないので、当然100%共感することは出来ないのですが、確かにベオグラードは、ヨーロッパの都市らしい雰囲気は薄めで、誤解を恐れずに言えばちょっと東西のごった煮風で、それほどカラフルには見えない印象だったのを憶えています。

↑ベオグラードのスラヴィヤ広場

↑ベオグラード中心部の風景。この奥が旧市街地でもあるクネズ・ミハイロヴァ通り。どことなくモノトーン風のイメージが漂います。

 

ドナウ川北岸という点では、自分はセルビア北部のノヴィ・サドという街を訪れましたが、こちらはもっとヨーロッパ風の色合いが強く、場所によってはもっとカラフルな印象でした。歴史的にオーストリア・ハンガリー帝国の影響を受けているのが理由、なんだと思います。

↑一方のノヴィ・サドの中心街の風景。天気がちょっと違うのでアレですが、こちらはもう少しカラフルでヨーロピアンなテイスト。

ということで、ドナウ川の北と南、という対比は非常によく出来た対比のように思えます。

その3 同じだけど違う(?)言語

次に気になるトピックは、バルカン地域で話されている言語のうち、とりわけセルビア語・クロアチア語などをめぐる認識(?)について。

旧ユーゴスラヴィア地域で話されている言語というのは、基本的に同じらしく、その違いの程度は方言のレベルに近いそう。ですがユーゴスラヴィアの解体後は、各国がそれぞれのアイデンティティのよりどころとして、自分たちの言語を、例えばセルビア語、ボスニア語、クロアチア語などと呼ぶようになったという経緯もあるそう。

そして同時に、本書ではそうした各言語のわずかな違いが、それぞれの独立性のよりどころになっている、という風に書かれていて、その点がなんとも繊細というか、センシティブなのかなと妙に引っかかるのです。

そんなに気にすることでもないのかも知れません。が、以前に興味本意で買った(けどほとんど使ってない汗)テキストは、ボスニア語、セルビア語、クロアチア語を同時並行的に解説する体裁になってたりもして、やっぱり、同時に解説できるくらいの違いだけど、言語としては別扱いなのかなという気も、やっぱりします。

それから、セルビアの英会話講師から聞いた、気になるエピソードも。というのは、その英会話講師がボスニアで書類だったかレポートだったかを提出した時、本人は全くミスをしてないにも関わらず、セルビア語とボスニア語のスペルの違いで、思いっきり「スペル違うやん」って修正されたらしい。

なんだかそのあたりも、たぶんボスニア語という確たるものがあって、日常の会話では全く障害もないのに、場合によっては結構厳格にそれ以外の言語との差異が浮き彫りになる、そんなエピソードに聴こえてならないのです。

そんなセルビアの講師とは↓で話してます。

 

・・・他にもバルカンのコーヒー文化や蒸留酒ラキヤの話題など、比較的カジュアルな話題も多くあって、あれこれ思いをめぐらせながら、楽しんで読むことが出来たように思います。

まとめ

これまで触れたようなトピックは、比較的なじみやすく、イメージもしやすい話題でした。しなしながら一方で、自分みたいな偏った関心だけで本書を手に取った人間にとっては、都市別の共通性を探る、本書の一番特徴的な試みの項が少々難解に感じました。

歴史的な予備知識も少なく、加えて都市名が出てきても地図見ないと一体どこなのかすぐにピンとこない、そういう点がきっと理解を妨げてるんだろうなと。

ただ読み物として非常に面白く、単純に、「へぇ、いろんな雰囲気の地域があるんだなぁ」くらいでも充分な気もします。たぶん最終的には、自身の目で見たり肌で感じたりしない限りは、本当のところはつかみきれないんですから。

あとは、『セルビアを知るための60章』の中でも触れられてはいますが、いずれはバルカンの映画や文学にも触れてみたい。きっとバルカンの精神みたいなものに、触れることが出来るはず。またまだ知らないことばっかり。

そのうちこのブログで、映画レビューや文学作品の紹介などやり始めたら、きっとそういう事です。お楽しみに?

[セルビア入門に]メタルヘッドと読む『セルビアを知るための60章』[バルカン本]

Translate »