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メタルヘッドと読む『平和の種をまく ボスニアの少女エミナ』

メタルヘッドと読む『平和の種をまく ボスニアの少女エミナ』

写真・文 横倉文子(2006) 『平和の種をまく ボスニアの少女エミナ』岩崎書店。

ボスニア紛争後からの再生のおはなし

1995年に終結したボスニア紛争のあと、首都サラエボ郊外に設立されたコミュニティーガーデンが、この本の舞台。紛争で住む家を失った11歳の少女エミナは、家族と一緒にコミュニティー・ガーデンで暮らし、野菜を作るのを手伝ったり、同じガーデンに暮らす他民族の人たちと一緒に、ちょっと大変だけど穏やかな日々を過ごします。

本書はそんな紛争後のコミニュニティー・ガーデンでの日常を、エミナの視点からつづった写真絵本。人物名は仮名ですが実在の人物で、実際にガーデンを取材して本書が書かれています。

紛争が終わりようやく訪れたガーデンでの穏やかな暮らし、民族を超えたつながりと仲間意識、小さな友情。そして影を落とす、決して消えることのない紛争という悲しく暗い過去。それでも前向きに生きる人たちの様子が、鮮やかな写真で紹介されています。

コミュニティ・ガーデン

このコミュニティー・ガーデンは、ボスニア紛争ごの民族和解を目的として、コミュニティ・ガーデニング・アソシエーション・オブ・ボスニア・アンド・ヘルツェゴビナ(CGA)という団体によって2000年に設立されました。

コミュニティー・ガーデンでは、家族ごとに土地を割り当てて、そこで野菜を収穫したりできるようにして、紛争で住む場所や生活手段を失った人たちの支援が行われています。

ボスニアには主に3つの民族の人たちが暮らしていて、紛争はその民族間の対立という構図でもあったのですが、このコミュニティー・ガーデンでは、民族の垣根は取り払われて、お互いへの不信感や過去の憎しみを乗り越える努力がなされています。

今では、民族に関係なく相互のあたたかな交流が育まれているそうです。その成果もあって、最初はサラエボの1箇所だけだったガーデンは、2006年の資料によると、東サラエボやトゥズラなど、15箇所にも増えています。

残り続ける傷跡と、平穏の象徴

当事者ではない我々にとっては、紛争がもたらした悲劇を想像することしか出来ない、あるいは想像すら出来ないのかもしれませんが、この本の中の一部では、どの民族であろうと関係のない悲しみと苦痛がにじみ出ています。つらく悲しい目にあったことに、民族の違いはありません。

先頭で住む家が破壊されたエミナとその家族、虐殺行為によって夫を失った人、戦闘の続くサラエボで恐怖を耐えしのんだ人。。。紛争が終わり平和がやってきても、皆の心のどこかには、消し去ることの出来ない傷が、ずっと残り続け、過去を振り返るたび、本書の中で紹介されているようなつらい体験がよみがえるのです。

そうした点で一番印象的だったのが、エミナのお兄さん。今では民族の違う友達もいて、その友達がどの民族かなんて考えもしない様子なのですが、紙粘土で自由に工作をして出来上がるのは、地雷を踏んで血まみれになっている靴。

それが彼の心のいかに深いところに刻まれているか、思い知らされるようなエピソードです。

 

悲しい出来事の記憶の一方で、ガーデンでの生活はどても穏やかでみずみずしいものです。ガーデンという小さなコミュニティではありますが、そこには民族の違いなど何の障害にもならない毎日。「みんな」という言葉がこれほど強力に響くことが、これまであったでしょうか?

個人的に印象的だったのが、屋外に置かれたテーブルを挟んでの、エミナと家族の集合写真。そのテーブルの上には、トルココーヒーを入れる小鍋と、角砂糖の入った容器。

トルココーヒーはボスニアの定番中の定番というか、ごくごくありふれたものです。ですがそれが逆にエミナの家庭あるいは彼女らのガーデンに、日常が戻ったことを証明してる象徴的なものに思えてなりません。

他にも、写真のあちこちに小さなボスニアらしさが見つかるところがいくつもあって、そのあたりはまるで、美しいボスニアの写真便りを眺めてるよう。

 

<参考>トルココーヒーについては↓記事でも紹介しています

[バルカン実践!]果たしてお味は??トルココーヒーを淹れてみました。[作り方も紹介]

セルビア&ボスニアに行ったら絶対食べたいご当地料理11選 [ホンモノの味]

鮮明なコントラスト

巻末には、ボスニア紛争が起こった経緯と、コミュニティー・ガーデンの取り組みについての紹介が書かれていて、自分の様な初学者にとっては大変参考になります。おそらくかなり分かりやすく書かれているので、予備知識がなくても理解しやすいのではないかと思います。また、その解説の助けで、本文でのエミナやガーデンの人たちの言葉の表すものを、より感じ取れるようになるのではないかとも思います。

紛争の傷跡と、そこからの再生が織り成す、光と影。現実はそんな生温いものでは全くありませんが、本書にはそう呼びたくなるコントラストが鮮明に表現されているように思えます。

 

↑印象的な写真のひとつ。自分が見たのと同じ、赤い屋根が並ぶサラエボの風景。

月並みですが、こんな美しい町がもう2度と失われることがありませんように。

 

<参考>サラエボに行ってきたお話は↓記事で紹介しています

[ 聖地巡礼??]セルビア&ボスニアひとり旅~サラエボ編part2[メタルツアーも]

 

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