メタルヘッドと読む『サニー ボスニア・ヘルツェゴビナへ―続々・地雷ではなく花をください』
気がつけばシリーズ化(?)してる「メタルヘッドと読むバルカン本」記事ですが、今回ご紹介するのはこれ。
絵・葉祥明 文・柳瀬房子(1998)『サニー ボスニア・ヘルツェゴビナへ―続々・地雷ではなく花をください』自由国民社。
タイトルの通り、1990年代のボスニア紛争で埋設された地雷についての絵本で、地雷撤去キャンペーンの本として、この本の収益は世界の地雷除去活動に役立てられているんだそう。
また、サニーちゃんの本はシリーズになっていて、このボスニア編は第3弾。他にはカンボジアなどが取り上げられています。
本のおはなし
出版社である自由国民社HPから紹介文をお借りすると、
世界では64カ国に計1億1千万個以上もの地雷が埋設されているといわれています。
その大部分が対人地雷です。
対人地雷は兵士と一般人(子ども・女性・老人等)の見境なく、戦争が終わって平和な世界になっても、半永久的に被害をもたらす非人道的な武器です。取り除くのにもたくさんの時間と労力と費用がかかります。
平和な世界をみんなでめざそうと、うさぎのサニーちゃんが、「地雷」について教えてくれます。
この絵本1冊で、10平方メートルの地雷原がクリアな土地になります。全・英訳付。
という内容の絵本です。
舞台はバルカンの国ボスニア・ヘルツェゴビナ。多くの命が失われたボスニア紛争は終わりました。でも紛争の傷跡は町並みや人々の心に残ったまま。地雷も同じで、数え切れないほどの地雷が、地面に残されたまま。戦いが終わっても、不安な毎日は続きます。
うさぎのサニーちゃんはそんな紛争後のボスニアで、人々の悲しみと不安に寄り添いながら、地雷除去のお手伝い。地雷が取れたら、代わりにお花を―。
というのがだいたいのお話でしょうか。紛争そのものの凄惨さを伝えるというよりは、その後残された地雷の恐ろしさと、被害の悲しみに焦点が当てられていて、その癒える事のない悲しみの再生への祈り、平和への願いが表現されているという印象です。
印象的な場面
ひとつひとつの絵は、淡いタッチで描かれていて、悲しい物語でも優しさと温もりに包んで伝えてくれるような印象。
一方で、特に複数の人やモノが描かれている絵などは特に、妙にがらんとしてるのが目立つというか、人やモノに対して空間がかなり広大に描かれていて、やさしい絵なのに、どこか空虚な感じが漂ってる気がします。
そう感じるのは自分だけでしょうか。。。
文章もなんとなく、紛争が終わり平和な毎日に向けた安堵感と、深く爪あとを残し続けるように牙をむく地雷の恐ろしさが入り混じった雰囲気。
そして文章は、英訳文も併記されているので、双方のニュアンスや表現方法の違いを楽しむのも、面白いかもしれません。絵本の文章なので、それほど難解ではないと思います。
巻末には、ユーゴスラヴィアの歴史と、ボスニア紛争が起こった経緯についての概要が解説されていて、それらの大まかな理解を得るのにとても役立つ構成になっています。自分自身それほど詳細に理解しているわけではないのですが、ボスニア紛争のきっかけについてのエッセンスを得るのに、とても分かりやすくまとめられているのではないでしょうか。
また、同じく巻末には、各種地雷を解説した図表が載せられていて、これも非常に参考になります。それぞれに異なった機能や製造国、それぞれの簡単な仕様など、その数の多さに思わず見入ってしまいます。
こんな感じですね。こうして見ていると、なんだか人の持つ破壊的な想像力の強大さに、ちょっと背筋が寒くなる思いがします。時代は違いますが、セルビア旅行中ベオグラードで見た中世の拷問博物館の展示も、マイナス方向の破壊的想像力が大爆発してる様に思えてならなかったですし・・・。
人は世界を変える発明の数々を生み出すクリエイティブさを持つ一方で、それがひとたび反対に振れれば、恐ろしく破壊的なものも同時に生み出しうる。そんな事実を目の当たりにさせられます。
ただの傍観者?
本書と同時に、ボスニア紛争関連の絵本をいくつか入手しているのですが、個人的には、どれも読むたびその悲惨さに空恐ろしくなります。そしてその一方で、これほど人にもモノにも深い傷跡を残した出来事を、やすやすと眺めてて良いものか、なんだかいたたまれない気持ちにもなるのが正直なところ。
いくらそれを知ったところで、当事者の本当の胸の内を知ることなど出来ないし、そもそも共感を許されるほどの理解すら簡単ではない。それを思うと、結局自分なんて単なる傍観者でしかない訳で・・・
ただそうだとしても、そうして関心を示すことこそが敬意を表す態度や方法であると信じたいですが。
なんだか変に暗い結びになってしまいそうですが、そのあたりがブラックメタルが主食の”メタルヘッドと読む”シリーズのトーンと思えば、それほど矛盾はしないでしょうか。
ボスニア紛争の悲しみ、地雷が残した不安と恐怖、明るく平和な未来への祈りと希望、そして決意が込められた素敵な絵本といえるのではないかと思います。ボスニア紛争について学ぶ最初の1冊として、こういう絵本をチョイスするのも、良いかも知れませんね。
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