[レビュー]Scaffold – The Other Side Of Reality (セルビア/デスメタル)
セルビアの首都ベオグラード出身のデスメタル、Scaffoldの1stフルアルバム。1994年作品。Discogsでセルビアのセラーからゲットしたこちらは、セルビアのTaurunum Recordsというところから2015年に再発されたCD盤。オリジナルはカセットのみのリリースだったみたいです。
関連情報
Metal Archivesによるとバンドの結成は1992年ということなので、セルビアの、というか当時のユーゴスラビアのエクストリームメタル方面では最古参のバンドの1つと思われます。同時期に活動していたデスメタルバンドでは、中央セルビアの都市クラグイェヴァツ(Kragujevac)出身のDead Jokerがいますね。
Metal Archivesには情報が載っていないのですが、彼らは93年にデモをリリースしているようで、そのデモ音源2曲は本作にボーナストラックとして収録されています。なんともありがたい限りです。
そして本作、”The Other Side Of Reality”は94年にリリースされています。当時の編成は、Ivica Dujić氏(ギター・ヴォーカル)、Milorad Pavlović氏(ドラムス)、Nenad Bojković(ギター)、Dalibor Pesterac(ベース)という4人。
本作リリースの後バンドは一度解散していて、2008年にバンドの創設者であるIvica Dujić氏によって再結成し、ライブ盤やEPなどをいくつかリリースしています。どうやらIvica氏以外のメンバーは総交代しているみたいです。
現在も活動を続けていて、クロアチアのMetal Jacket Magazineというウェブメディアのインタビューによると、新作の曲作りも行っているようなので、生けるレジェンドの今後にも期待、といったところでしょうか。
セルビア古参デスのひとつ、上記のDead Jokerについては↓記事で紹介しています
バルカン・オールドスクール
さて、そんなセルビアのエクストリームメタルのパイオニアとも言えそうな彼ら、Scaffoldですが、本作”The Other Side Of Reality”ではやはり当時の空気感を感じさせる、オールドスクールなデスメタルを演っています。
雰囲気としては、どことなくRotting Christあたりのギリシャ勢に近い感じでしょうか。地域的なものなのかどうかわかりませんが、例えばUSのフロリダあるいはNY勢や、スウェーデン勢とも違ってて、やっぱり大陸ヨーロッパ勢のちょっとウェットな感じというか・・・。
音質は90年代という時代らしい、ちょっともこもことした感じが良い具合のどろどろ加減を生んでる、オールドスクールならではの音。何やってるか不鮮明なところまではつぶれていないので、ちょうど良いさじ加減だと思います。
The Other Side Of Reality
ちょっとメランコリック風なギターとキーボードによるイントロが1曲目。キーボードについてはブックレットにも特別クレジットされていないのですが、本作のあちこちに登場します。
そしてそのイントロから一転、スラッシーでアグレッシブな2曲目になだれ込んでいきます。爆走パートのドラムスのリズムはスタスタと2ビートで飛ばしていくあたり、その雰囲気はやっぱり予想と期待を裏切らないオールドスクール感。中盤のどろどろしたリフや、うねうねしたギターとキーボードのユニゾンのメロディが飛び出すあたり、案外ヒネリも効いています。
曲間にほとんど間が無いので、同曲で展開変わっただけなのかと思う始まりの3曲目。この曲はミドルテンポ主体で、中盤のスローでやや陰鬱なパートにキーボードが絡むあたりが神秘的でミステリアス。そして終盤で一気に凶暴になる様子がなかなかスリリング。
4曲目には、Taurunumというタイトルがつけられていますが、これは前述の本作CD盤のリリース元レーベルと同名で・・・何か関連あるんでしょうか。曲の方は冒頭からザクザクとした刻みのリフで疾走、からの単音トレモロリフ+冷たいキーボードのコンビネーションは、ちょっとメロデスのような、メロブラのような趣?やっぱり不思議な神秘性が漂います。
続く5曲目は、本作中でも少し独特の、ストレートで割とライトなタッチを持つ曲。なんと表現したらいいやら、デスメタルというよりは、もっとオーセンティックなヘヴィメタルにダミ声を乗せた様な感じです。ギターソロも結構正統派メタル風のメロディアスさで、歌心たっぷり。
昔のRotting Christってこんなじゃなかったっけ?と感じるのが6曲目。ミドルテンポ主体で、ギターリフは比較的シンプル、ところどころミステリアスで霧のような音色のキーボードがほわんと鳴る、派手さは無いけれど独特の味のある一品。この曲に限りませんが、やっぱりミドルテンポでごにょごにょやってるパートの雰囲気が、どうも昔のギリシャ勢に重なるのです。思い込みかな。。
じゃんじゃん!と叩きつける様な、ピアノによるインストの7曲目を挟んでの8曲目。曲冒頭とエンディングは正教会のチャント、でしょうか。曲終盤の疾走パート、ギターソロに続けて単音トレモロリフに絡む冷やりとしたキーボードが畳み掛けるのが非常にスリリングでゾクっとします。
デモ音源
10曲目と11曲目はデモ音源からの曲。流して聴いてると全然その区切りが分からないくらいですが、音質はアルバム本編と比べると、ややこもり気味でしょうか。薄いフィルターを1枚通して聴いてるような感じです。
デモ音源の方はキーボードがほとんど使われていないので、その分よりオールドスクール・デスな感じが強く出てるかも知れません。曲構成やリフの雰囲気はアルバム本編収録曲と大差なく、ファストパート~スローパートと緩急つけながらうにょうにょやってるデスメタル、といった感じ。
それを思うと、このデモの時点で基本的に彼らの音楽性は固まってたのかな、と考えることも出来そうです。
バルカン・デスの影
こうして聴いてみると、血みどろスプラッター&バイオレンスとか、怒りの炎爆裂系といったアツさよりも、なんとなく陰りのあるミステリアスさが特徴的な気がします。そしてそのあたりが東欧産というかバルカン風の色合いという事でしょうか。Rotting ChristやVarathronのいるギリシャもバルカンの国ですし。。
ってそういったギリシャ勢と一緒くたにして語るのが正しいのかは不明ですが、やっぱりどことなく近い雰囲気が漂ってる気がしてなりません。
また、そうではないとしても、少なくともセルビアのメタル界で、その黎明期から活動を続ける稀有な存在であることはきっと確かでしょう。その意味では、セルビアあるいは旧ユーゴスラビア地域の重要作の一つといえると思います。
それにしてもあれこれ聴いて書いてると、どうもセルビア産音源について何度も「独特のミステリアスさ」みたいな表現ばっかりしてる気がするのですが・・・やっぱりそういう地域性なのでしょうか。それはある種のマイナー臭って事かもしれませんが、それとなく香る一筋縄ではいかない感じというのが不思議です。
本作も例に漏れずそんな雰囲気が漂っていて、バルカン地域のメタルの重要盤というだけでなく、東欧デスメタル独特の風合いを持つ1枚と呼びたいと思います。
-
前の記事
[レビュー]Psychoparadox – Through the Labyrinths of Sleeping Galaxy (セルビア/メロディック・デスメタル) 2020.05.25
-
次の記事
[レビュー]Krvolok – Šakali (セルビア/ブラックメタル) 2020.05.29