[レビュー]Paimonia – Modern Way of Distraction (セルビア/ブラックメタル)
セルビア北部の都市ノヴィ・サド(Novi Sad)出身のブラックメタルPaimoniaの4曲入りデビューEP。2012年作品。セルビアのブラックメタルZloslutのHunter氏が運営してた(今は無き)Silent Scream RecordsからのリリースのプロCD-R仕様です。
筆者はDIscogsでセルビアから取り寄せましたが、Metal ArchivesによるとCD盤は50枚限定だそうで、なかなか貴重な音源っぽいです。
関連情報
本ブログでは本EP”Modern Way of Distraction”に続く1stフル、”Disease Named Humanity”をご紹介していますが、その記事内でも本EPについて触れているので、ここではまずそのあたりを引用して、見てみましょう。
バンドは2011年に、(おそらく)中心人物と思われるB.V.氏によってスタートしています。B.V.氏は同時期に同じくブラックメタルの(我らが)Baneともベーシストとして関わっていますね。また氏は現在はYersinestisを名乗りZloslutにも在籍しています。こうして見ると、このB.V.氏もセルビアブラックメタル界の重要人物の一人に数えられるかも知れません。
バンドのスタートの後、翌2012年にはEP”Modern Way of Distraction”をリリース。このEPにはなんと(?)Khargash氏がヴォーカルとドラムプログラミング担当で加わっています。Khargash氏の同名バンド、Khargashの音源は本ブログでもすでに取り上げていますね。
そして驚きべきことに、レコーディングのエンジニアリングやミキシング等を手掛けたのはBaneのBranislav Panić氏!みんな出身地が近い、あるいは同じということなんでしょうが、この顔ぶれを見るとますますセルビアブラックの、というかノヴィサド・オールスターズな趣です。
改めて本作の編成を見てみると、後にZloslutに加入することになるB.V.氏(ギター・ベース。ブックレットではBojanとクレジットされてます)、Khargash氏(ヴォーカル・ドラムプログラミング)の2人構成。Metal Archivesによると以上のようなのですが、ブックレットを見ると、載せた画像の様に、Nikola氏、Tony氏(バンドロゴは氏の手によるものみたい)なる人物がクレジットされてます。しかしながら詳細は書かれていません。謎です。
あとエンジニアリングはBaneのBranislav氏が手掛けてて、もう顔ぶれ想像するだけで恐れ入ってしまいそう。
↓彼らPaimoniaの1stフルの紹介記事はこちら
模倣の中の萌芽?
収録曲は全4曲。うち2曲がオリジナル、1曲がDissectionの”Frozen”のカバー。そしてアウトロ、という構成になっています。
先に聴いてた彼らの1stアルバムの方は、Dissection流のメロディック・ブラック/デスを下敷きに、独自の壮絶な厭世観で色付けした雰囲気に仕上がってましたが、本作はその原型、たぶん崇拝のあまりほとんどクローン級ともいえる程Dissectionをトレースした内容。
いやもう、「あえて言おう、まんまDissectionであると」ってなもんです。。。一応オリジナル曲ではありますが。
不穏なトレモロリフとブラストビートに導かれてスタートする1曲目。Baneの作品でも、彼らPaimoniaのフルアルバムでももはやお約束の、要所で高音弦に引っ掛けて”じゃらーん”って響かせるギターリフもDissection狙いそのまま、でしょう。中盤のメロディーの雰囲気もやっぱりDiss(以下略)。
なんだか書いてて、どこをどう聴いても、あれもこれもDissection風って、事実かもだけど、自身の表現力の無さに辟易しそうです><
Khargash氏のヴォーカルは結構振り幅も広くて、Khargashアルバム(ややこしい!)の方で聴けるようなハイピッチの叫びから、デスメタル寄りの低音グロウルまで使い分けてますが、メインは中高音のメロブラ叫びになるでしょうか。
そして2曲目。中盤のメロディと、スローダウンしてタメを作る展開美こそ、本家の神曲”Night’s Blood”ど真ん中ですが、それらに組み合わせて配置されてる薄気味悪くちょっと病的なトレモロリフの感じは、後に続く1stアルバムの厭世観やニヒリスティックさの萌芽、とも取れそうな一品。そんな雰囲気がブラストビートと共にまき散らされるから、聴いててなかなかに壮絶なモノがあるようなないような。
・・・というオリジナル2曲に続き、3曲目は”Frozen”のカバー。原曲は“The Somberlain”アルバムに入ってますね。こちらの方がキーが低くなってる様な気がしますが、基本的に忠実にコピーしてると思われます。というかこうしてオリジナルとカバーが並んでてもあんまり違和感ないのが、よく言えば高いレベルでこのスタイルを消化して練り上げてるって事なのでしょうが、悪く言えばオリジナリティの欠如という。。。
4曲目はアウトロになるインスト曲。もの寂しげにアコースティックギターがぽろぽろと鳴ってます。
あとは気になる(?)Branislav氏が手掛けたという音質ですが・・・一番気になったのは録音レベルの小ささ。普通の音源と比べて半分くらい?の小ささなので、油断してそのままの音量で他の音源鳴らすとびっくりすることになります(汗
昔は結構音の小さい音源に出くわしたりした気がしますが、最近では珍しくて、なんだか妙なノスタルジーを感じます。
音質そのものは、どちらかというと、アンダーグラウンドなデモ音源風の質感でしょうか。分離は割とはっきりしていて聴きやすいですが、どことなく色味?の少な目なトーンでまとめられているあたりが、そのデモっぽさの原因かも知れません。とはいえ、ブラックメタルとしては十分でしょう。
貴重な原石
ということで。総じて、セルビアのDissection大好きっ子達が集結して、見事にそのスタイルを再現して見せた、みたいな音楽になってます。
と同時に、セルビアのブラックメタル界、というか当時のノヴィ・サドのブラックメタルシーンの、初期の胎動を封じ込めたかのような顔ぶれが垣間見える、恐るべき音源。
Baneがいて、Khargashがいて、Zloslutがいて、そしてこのPaimonia。それぞれが後に少しずつ独自のタッチを身に付けていく、その原石のありようをここで聴くことができるという点でたいへん興味深い作品、と言って良いのかもしれませんね。
↓に関連バンドの紹介記事を貼っておきますので、これらも参考にしていただくと、もっと理解が深まると思いますので、良ければあわせてどうぞ。
Khargash氏のKhargashと、
[レビュー]Khargash – Pathway Through Illumination(セルビア/シンフォニック・ブラックメタル)
Branislav Panić氏の(我らが)Bane。
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