[レビュー]Paimonia – Disease Named Humanity (セルビア/ブラックメタル)
セルビア北部の都市ノヴィ・サド(Novi Sad)出身のブラックメタルPaimoniaの1stフルアルバム。2013年作品。ゲットしたのはアメリカのHumanity’s Plague ProductionsというところからリリースのCD盤。他にカセット盤(版?)がExalted Woe Recordsなるところから出てるようです。
CDは1000枚、カセットは100本の限定みたいです。中古で出てるのを確保したんだっけ、確か。
関連情報-ノヴィ・サドのメタル人脈模様?
Metal Archivesによると、バンド名のPaimoniaはPaimonと同義語だそう。さらにWikipedeiaも見てみると、このPaimonというのは悪魔の名で、序列9番の地獄の王であり、ルシファーに対して他の王よりも忠実とされる、とのこと。
バンドは2011年に、(おそらく)中心人物と思われるB.V.氏によってスタートしています。B.V.氏は同時期に同じくブラックメタルの(我らが)Baneともベーシストとして関わっていますね。また氏は現在はYersinestisを名乗りZloslutにも在籍しています。こうして見ると、このB.V.氏もセルビアブラックメタル界の重要人物の一人に数えられるかも知れません。
バンドのスタートの後、翌2012年にはEP”Modern Way of Distraction”をリリース。このEPにはなんと(?)Khargash氏がヴォーカルとドラムプログラミング担当で加わっています。Khargash氏の同名バンド、Khargashの音源は本ブログでもすでに取り上げていますね。
そして驚きべきことに、レコーディングのエンジニアリングやミキシング等を手掛けたのはBaneのBranislav Panić氏!みんな出身地が近い、あるいは同じということなんでしょうが、この顔ぶれを見るとますますセルビアブラックの、というかノヴィサド・オールスターズな趣です。
・・・とデビュー作の時点で恐るべきポテンシャルを予感させる彼らですが、2013年には1stアルバムである本作”Disease Named Humanity”がリリースされます。本作のラインナップはB.V.氏(ギター・ベース・ヴォーカル)と、新加入のNikola Pacek-Vetnić氏(ドラムス・レコーディング)の2人。前作のEPに参加していたKhargash氏は不参加ですね。
ドラムスのNikola氏ですが、彼もセルビアメタル界における重要人物の一人に数えられるかもしれません。氏の参加作品を見ていくと、ブラックメタルではBaneの1st、Khargashの1st、比較的最近のでEndarkenの1stでドラムを叩いていたり、また自身のバンド(といってよいと思われる)Сварун(Svarun)ではシンフォニック・ゴシックの世界を探求していたり。さらには本ブログでも紹介済みのブルデスDefilementでもドラムスを担当していて・・・その記事中で当時の自分も「セルビアのHellhammerといっても過言ではないくらい??」とか書いてますね(笑)
その後2014年にはZloslut,Мржња(Mržnja、未チェック)とのスプリットが、翌2015年にはライブDVDがリリースされているようですが・・・どうやら流通してる数は少なそう。
彼らのデビューEP”Modern Way of Distraction”は↓記事で紹介しています
厭世とニヒリズムの大嵐
不協和音風のイントロが不穏に近づき、一気にブラストビートへなだれ込んで幕開けの1曲目。ここですでに、バンドの持ち味は余すことなく発揮されてそうです。音作りに派手さはありませんが、それが凝縮された一体感というかトーンになってて、冷笑的でありながらにじみ出る黒さを炸裂させてるような印象を放っています。
2曲目は個人的に本作中で最も印象的な一品。冒頭からの高速ブラストビートと厭世感満載のトレモロリフの嵐が壮絶。破滅と終末の音色の様。絶叫系のヴォーカルも抑えきれない衝動を吐きつくしてるかの凄まじさで、鬼気迫るものを感じます。そして中盤はテンポを落としてメロウでほろ苦いメロディとソロが切り込んでくるあたりで、張り詰めていた何かがぷっつりと切れて今にも崩れ落ちてしまいそうな、ある種の歪んだ甘美さを感じます。
厭世の嵐と雄叫びは3曲目でも続き・・・ブラストビートとかきむしる様なトレモロリフに、アクセントで添えられるアコースティックギターの物憂げなアルペジオ。
4曲目も引き続き変わらぬ爆走リフとブラストで幕を開けますが、この曲はところどころのリフ回しがモロDissectionなところがあって、ちょっとニヤリとしてしまいそう。さらには中盤、ゲストにAndrijana Rajićなる女性ヴァイオリニストが参加していて、幽玄で気だるいヴァイオリンソロを聴かせてくれます。やっぱりこういうちょっとしたところ、いい意味でヒネくれたアレンジというか構成が見事な気がします。
じゃじゃーん、とイントロを決めた後はもはやお約束とも言えそうな ブラストビートが続く5曲目。このバンドのギターリフ使いの特徴に、高音弦側も同時に引っ掻いて鳴らすようなのがあって、それが独特の、なんだか肌に爪を立てるかのようなささくれ立ち(?)を生んでるのに気付きます。その音色のある種の耳障りさが、しかめっ面で呪いたくなるこの世の不快さ、みたいな。
そんな高音弦のニヒルな響きがたぶん際立ってる6曲目。ドラムスはスタスタと高速2ビートで飛ばしてみたり、中盤ではやっぱりブラストをかましてみたり、ですが、ここではやはり例のジャラジャラ響くギターのトーンが印象的でしょうか。聴いてるとなんだかだんだん眩暈がしてきそう?あるいは心が暗い何かに押しつぶされて擦り切れていく様な。エンディングでポロポロと鳴る単音ロングトーンのギターを聴くと、あぁこれでこの苦悶から解放されるのかしら、なんて。
そして後に残るのはモノトーンの風吹く空虚な風景。ここラストのインスト7曲目ではアコースティックギターの枯れた音色に導かれれて、ギターソロが、ひょっとすると本作唯一のぬくもりとなって奏でられます。ここまでずっと壮絶に冷ややかな音世界が続いてましたが、最後になってようやく温度のあるエモーショナルさを聴くかの様。
・・・スタイル的にはDissection系統のメロディックブラック/デスであり、同郷のBaneとのつながりが(たぶん)深いことからも、基本的にはその音楽性はずいぶん似通ったものを感じます。
しかしながらBaneと比べてみると、Baneの方はどちらかといえばよりDissectionのスタイルに忠実で、かつ炎の燃え盛る様なマッシヴな攻撃性をダイレクトに叩きつけてくる感じな一方、こちらのPaimoniaは同じようにファスト&ブルータルさを携えてると同時に、そのメロディ感にはモノトーンな厭世観とニヒリスティックさがより強く漂ってる印象。
セルビア・ブラック傑作の1枚
・・・とずいぶんこの音楽の中に溶けて、虚無と厭世にまみれてあれこれ書いてきましたが・・・
たぶん全体としては、メロディックブラックと呼ぶのが一番近そうなスタイルですが、そのメロディの質感ははっきりと耳を引くものでありながら、甘ったるさがほとんどないのがお見事。そのビターさからくるニヒリスティックさや厭世風味こそがまさにブラックメタル的。それからそこに組み合わされる壮絶なヴォーカルと破壊の限りを尽くすブラストビート、こういうの大好きです、自分。
Dissection系統というくくりにしてしまうと、フォロワー勢としてハイレベル、という表現になってしまいそうですが、例えばそのDissectioonがちょっと甘口なんだよなぁ、あの感じでもうちょっとほろ苦いやつが欲しい、という向きにはぴったりの作品かも知れません。
例えばセルビア産ブラックメタル○○選、みたいな企画があるとしたら、その中には必ず入るであろう出来栄えの1枚。仕掛人のB.V.氏は今はZloslutにいるのでアレですが、このPaimoniaとしても是非続く作品を期待したい。
Paimonia / Disease Named Humanity
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