[レビュー]Claymore – Lament of Victory(セルビア/フィーメイル・エピックメタル)
- 2021.01.10
- セルビア
- Claymore, Claymorean, Review, Serbia, セルビア, メロディック・メタル
セルビアのLazarevac出身、女性Vo入りエピック/メロディックパワーメタル、Claymore(後にClaymoreanに改名)の2ndフルアルバム。2013年作品。ロシアのSoundage Productionsというレーベルからのリリースです。中古で出てるのを発見しすかさずゲットの品。日本でも多少出回ってるっぽいのかな。
関連情報
彼らの1stアルバムがリリースされたのが、2003年。それから10年の時を経て、本作”Lament of Victory”がリリースされました。
バンドの中心人物になると思われるのが、Vlad Invictus氏ことVladimir Garčević氏(ギター・ヴォーカル)。それからVlad Invictus氏の兄弟(だったはず)のGoran Garčević氏(ソングライティング)がバンド結成当時から関わっています。
そして本作からは女性リードシンガーとして、Dejana “Betsa” Pavlović女史が加わっています。バンドの音楽をより高いレベルへと押し上げるのに、Dejana女史は多大な貢献を果たすことになります。
というのも、Dejana女史は本作以降、作を重ねるごとにより表現力を増していき、本記事執筆時点での最新作である4thアルバム”Sounds from a Dying World”では恐るべき力強さと迫力を見せつける事になるのです。詳述はその紹介記事に譲りたいと思いますが、その勇姿は屈強なヴァルキリーさながら、といったところでしょうか。
本作以後も活躍するVlad Invictus氏、Goran Garčević氏と、Dejana “Betsa” Pavlović女史の3人がバンドの原動力の中心ですが、本作の編成は他に、Filip “Fill T.” Todorčević氏(ベース・バックヴォーカル)、Marko “OceanLord” Dinić氏(キーボード)、Aleksandar “Alex Cane” Canković氏(ドラムス)が加わってより強力な布陣になっていますね。
Dejana女史が覚醒してみせた驚愕の4thアルバムは↓記事で紹介しています
[レビュー]Claymorean – Sounds From Dying World(セルビア/フィーメイル・エピック・パワーメタル)
勝利の嘆き
前作“The First Dawn Of Sorrow”はどこをどう切ってもショボさとマイナーなクサみが香りまくる、良くも悪くもアヤしさ満載のメロディックメタルという趣でしたが、前作から10年の時を経て、随分と垢抜けた印象になったな、というのが一聴しての印象です。その音像や果たして・・・
ファンタジー感満載のメロディとシンフォニックアレンジで開幕する1曲目。ミドルテンポでどちらかというと重厚でヒロイックな幕開けです。Dejana女史の歌唱は透明感のある可憐な響きで、最前線に立つ勇者の号令というよりは、フォークロアな語り部ってイメージでしょうか。。。
その歌声、やや線が細くて平坦と、特筆すべきところのない様にも思えますが、個人的にはそれが独特の味で結構好み。とりわけサビの澄み渡るロングトーンは、そのメロディとも相まってまるで抜けるような空模様。素敵です、というかいきなり本作で最も印象的な瞬間かもしれません。
続く2曲目は鋼鉄感満載のヘヴィリフで入るパワーメタル曲。叩きつけるようなドラムスのビート感も、筋肉モリモリです。こちらはVlad氏とDejana女史のデュエット曲ですが、やっぱりサビのキャッチーさが耳を引きます。なんというか楽器隊の音は硬質でそれがちょっとした雲行きの怪しいムードを生んでる一方、歌メロと歌唱の方は真っ当にポジティブで輝ける希望さえ見えそうな高揚感。
そしてテンポを落としてじっくり聴かせる3曲目。その雰囲気は、夜の帳が下りて、暖かな火を囲んで語られる伝承の、キャンプファイヤーソング。メロディは割と薄めに淡々としてて、サビではフォーク風のあの土っぽさ、というのが、見事なまろやかさを生み出してます。個人的にはある種の子守歌的な感触もあって、たっぷりとこの幻想に酔えます。素敵。
・・・と、ここまでの頭3曲の素晴らしさのあまり、以降は正直なところあんまり印象に残らないきらいもあるのですが。。そのへんがやぱりB級っぽいところなのかも知れませんね。耳を凝らして聴いてみると・・・
5曲目は再びクサメロ全開のメロディックメタル。疾走するドラムスのテンポに、ネオクラシカルなギターのメロディが乱舞、と絵に描いたようなメロディックメタル世界なのですが、その香りはB級クサメタルそのまんま。特にヴォーカルのカラー的にでしょうが、彼らにはこういうメロスピ方面よりも、淡々としたフォークロア的な雰囲気の方が似合ってる気がします。例えばRhapsody(オブなんとか)とかSonata Arctica(とか他なんでも)になるよりは、Battleloreみたいな感じの方がハマリそう、というか。
Vlad氏のヴォーカルによるアコースティックギターの弾き語りで哀愁漂う6曲目、Vlad氏とDejana女史のヴォーカルの掛け合いがコントラストを生む7曲目。いややっぱり、Dejana女史の歌声はこういう重厚な雰囲気を引っ張るのには合ってなくて、もっとふわりとしたミステリアス感が似合うはず。良し悪しではなくて、たぶんマッチングの話で。ただその重厚感の点では、後の4thアルバムでは、Dejana女史は覚醒したハイパー最強歌唱でバンドをグイグイ引っ張るようになるので、まったく心配はないのですが。
そして本編ラスト8曲目はちょっとプログレッシブというかエピックな構成を持つ8分の尺に及ぶ大曲。そう、こういうテイストの方がDejana女史の歌声がハマるんです。特に印象的なのは中盤の枯れたヴァイオリンソロから、デスメタル風のギターリフによるドロみが生む不穏さで一気に空気が暗黒に染まる瞬間。突如暗い雲が迫ってくるこの暗転具合がお見事。一方で曲の最後ではきっちり勝利の凱旋を思わせる力強いメロディも入れてきて、シメはばっちり?
9曲目はボーナスで、”アコースティックギターの弾き語りで哀愁漂う”と書いた6曲目の別バージョン。こちらはメタリックなパワーバラードになってますが、もともとあんまり響かない曲なので、文字通りおまけ程度な感じです、個人的には。
進化と深化の始まりを見る佳作
彼らClaymore(Claymorean)については、次作である3rd、あるいはその次の4thアルバムでの化けっぷりというか、堂々たる様があまりにも強烈な印象ですが、本作ではそこへ至る過渡期的な作品と捉えることができそうです。
まだ多少線の細いところや垢抜けなさを残しつつも、着実に説得力のあるファンタジー世界を描き出す術を見つけ出しつつあるというか。コテコテだけどイモっぽく聴こえないような味付けを見出しつつあるというか。
例えば、ディスクガイド的(?)に表現するなら、彼らのスタイルを確立した改名後の作品をまず聴いて、その世界観が気に入ったなら、バンドをより深く知るうえで本作を聴くといいかも。1stはほとんど熱烈な信者あるいはB級C級メロパワファン向けで、優先度低め。ってな感じになるでしょうか。
結局(?)本ブログでは彼らのフルアルバムを全部聴いてきましたが、個人的にはセルビア産バンド全体の中でも、かなり興味深い部類のバンドに入ってます。なんだかんだで魅了される作品たちです。
彼らの他作品たちは↓記事でも紹介しています
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