[レビュー]Númenor – Chronicles from the Realms Beyond (セルビア/メロディック・エピックメタル)
セルビアの首都ベオグラード出身のメロディック・エピックメタル、Númenorの3rdフルアルバム。2017年作品。本ブログでも紹介したClaymoreanやHorror Piknikの作品など、秀逸な作品のリリースが印象的なアメリカのStormspell Recordsからのリリース。
関連情報
バンドのバイオグラフィーについては前作、”Sword and Sorcery”アルバムの紹介記事に詳しいですが・・・
その前作では、シンフォニック・ブラックメタルとパワーメタルを融合させた様なスタイルが特徴的&印象的な作風で、Blackened Power Metalと称されることもあったんだとか。この特徴的な路線というのは概ね好意的だったそうで、各方面からは好意的に受け入れられたらしい。
そんな経緯もあって、バンドは本作”Chronicles from the Realms Beyond”では基本的にはそうしたスタイルを踏襲しつつも、よりヘヴィなパワーメタル要素を押し進めることになります。
加えて、そのBlind Guardian風パワーメタル風味というのは、本作よりソングライティングのほとんどを手掛けることとなったSrđan “Sirius” Branković氏の手腕によるところが大きいのかも。
Srđan氏はメロデスPsychoparadox、メロディックメタルAlogia等々のバンドでセルビアメタル界を牽引する超重要人物。このNúmenor加入後、作を重ねるにつれ、現在のBlackened Power Metalたるスタイルを確立するのに多大な貢献をしてるものと思われます。
本作の編成としては、そのSrđan “Sirius” Branković氏(ギター・ベース)、バンドの創始者でフロントマンDespot Marko Miranović氏(ヴォーカル)、現在はSrđan氏と共にAlogiaにも在籍するMladen Gošić氏(キーボード)の3人が前作から引き続いての参加。それから前作ではドラマーはクレジットされていなかったのですが、本作ではAlogiaつながり(?)というかSrđan氏つながり?で現AlogiaのMarko Milojević氏が参加しています。
それからゲストに、ロシアのブラックメタルThunderstorm(未聴)のSandra Plamenats女史がゲストVoで参加していますね。
前作は↓記事で紹介しています
ラプソかブラガか、それとも別の何かか
さて本作では、ブラックメタルとパワーメタルの要素のうち、よりメタリックで骨太感を感じるパワーメタル要素を強めてきた印象。
前作がRhapsody寄りのイタリアンな仰々しい壮麗さ?が色濃い一方で、本作はBlind Guardian寄りの、熱き漢のヘヴィメタルよろしく、みなぎるジャーマンパワー!な趣をより強く感じます。前作に比べてキーボードの装飾が控えめになり、ギターのメロディとリフが楽曲をけん引する割合が増えたのが、その要因になるでしょうか。
良い意味で微笑ましいイモっぽさを放つ、ヒロイックなメロディーで幕開けを飾る1曲目。ここではスピード感は控えめに、パワーメタルらしい無骨感と、キャッチーなフレーズが印象的。そしてアツい歌唱と冷徹なハスキー系デスヴォイスの掛け合いが彼らのたぶん真骨頂。
2曲目はリードギターのフレージングがやっぱりとってもBlind Guardian風な気がします。歌メロの感触はストーリーテリング感たっぷり。ファンタジックな物語がパワーメタルのリフ&リズムに乗って紡がれていきます。
裏打ちの疾走リズムと、マッチョなギターリフのコントラストが素敵な3曲目。これは本作中でも屈指のダーク方面寄りの色合いの曲でしょう。前作”Sword and Sorcery”での超お気に入りの曲と構成はほぼ同じなのですが、ほんのりメロウな響きを伴いながら風景が流れ去っていく感触が相変わらず超素敵でうっとりしそう。
続く4曲目は、ゲストの女性シンガーSandra Plamenats女史の歌唱がマジカルに響くのが印象的。浮遊感を伴いながらも、温かいような、でもどこか冷酷さも持ち合わせてるような、敵か?味方か?な感じが非常にミステリアスな歌声。中盤に切り込むギターソロの狂おしいフレーズも甘美で、曲全体を通してどこか幽玄に漂うイメージが満載です。
5曲目はミドルテンポで、シナリオ風に言えば長い旅路を淡々と行く様なパートみたいな雰囲気の一品。悪く言えば中だるみみたいなダルさも、なきにしもあらず、ですが・・・。まぁ物語にはそういう果て亡き荒野を行く、みたいな場面ってありますよね、みたいな瞬間です。
それから6曲目はなんとなくメロディーの感触がRhapsody風?同時に漂う雰囲気にはどこか緊張感を漂わせるところもあって、そういう陰りが彼らの持ち味であるブラックメタルの風味かも知れません。
オーケストレーションがコテコテのファンタジー風インスト7曲目をはさんで、勇壮なメロディーと疾走するリズム、情熱的な歌メロが劇的に交錯する8曲目。絵に描いたようなメロパワあるいはメロスピの世界が再び眼前に広がります。中盤のミステリアスなキーボードの音色とデス声の絡みでは不穏な空気を呼び込みつつも、サビのアツいメロディーが最後に邪悪を祓うという、そんな展開が結構ドラマティック。
ラスト9曲目はBlind Guardianの超名曲”Valhalla”のカヴァー。ここまでさんざんBlind Guardianっぽいスタイルを聴かせまくってたので、そのチョイスにはもはや全く驚きのない手堅いカヴァーともいえそうですが。。。まさかこのBlind Guardianリスペクトが次作、あんな形で再び現れることになろうとは。
・・・そのまさか、については次作の紹介記事でお伝えすることにしましょう。
まとめ。ビターな児童文学みたいな
彼らNúmenorの音楽を初めて聴いたのは前作が最初でしたが、初聴きの瞬間はそのあまりの初期RhapsodyのB級フォロワーぶりに戦慄を覚えました。そしてそんな感触というのは基本的には本作でも変わっていません。
しかしながら聴き進めるにつれ、聴き手の音楽に対する理解も深まってゆき(慣れた、ともいう)、あぁ確かに”Blackened Power Metal”だわ、とかなんとかもっともらしい評価というか印象で聴いてるこの頃。
前作同様、デスヴォイスの方はやや迫力というか深みに欠けるのですが・・・例えばLotRをある種の児童文学みたいに捉えるのなら、その凄みに欠ける感じは逆に怖すぎなくて良いのかも。書いてて自分で何言ってるのか分からなくなりそうですが、全年齢向け作品の悪役って、ドギツ過ぎない描かれ方になってる、その感じをイメージさせるのです。。。
そんな意味で、本作はパッと聴き、B級&ちょっとイモっぽいデス声入りクサメタル、みたいな感触な一方、それを凶悪過ぎない邪悪の描写とヒロイックなファンタジーの融合と捉えることも出来そうな一品になってます。
なんというかやっぱりそのそのあたりが、オトナも楽しめる児童文学を思わせる作品。彼ら自身音楽の題材にしてるLotRみたいな、そんな肌触りの作品です、個人的に。
セルビアメタル界の超重要人物Srđan “Sirius” Branković氏のメロディック・メタルプロジェクト↓
参考にしたインタビュー記事↓
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