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[レビュー]Rain Delay – As I Bequeath My Yesterday (セルビア/フィーメイル・ゴシック)

[レビュー]Rain Delay – As I Bequeath My Yesterday (セルビア/フィーメイル・ゴシック)

 

セルビア出身の女性ヴォーカル入りゴシックメタルRain Delayの1stフルアルバム。2005年作品。セルビアのActive Timeというレーベル(現在は閉鎖)からリリースのプロCD-R盤。Discogsで現地からお取り寄せの品。

関連情報

Metal Archivesによれば、バンドの結成は2003年。Dušan Pešić氏を中心に結成され、当初は3ピースのプロジェクトだった模様。

2005年には1stフルアルバムとなる本作”As I Bequeath My Yesterday”をリリース。その後もセルビア産バンドとしては比較的珍しくコンスタントに作品をリリースし続け、2008年には2ndフル”We Forget”、2011年には3rd”Slumber Recon”、2014には4thアルバム”Of Blood-Red and Gold”、2016年には5th”Selenophilia”、そして2020年に6thアルバムとなる”This Time Next Year”を発表しているというベテランぶり。

バンドの仕掛人であるDušan Pešić氏以外のメンバーは結構流動的のようですが、専任の女性ヴォーカルを据えての作品は1stから3rdアルバムまでで、以降はDušan氏がメインのヴォーカルを執っています。

 

ここでご紹介する彼らの1stフル”As I Bequeath My Yesterday”。編成はDušan Pešić氏(ヴォーカル・ギター)、Ana Pešić女氏(ヴォーカル)、Željko Zec氏(ギター)、Stefan Radojković氏(ベース)、Marko Mrčarica氏(ドラムス)という5人。

ギタリストのŽeljko Zec氏は同郷セルビアのデスメタルThe HellやゴシックメタルThe Father Of Serpentsでも活躍してる人物で、ドラムスのMarko Mrčarica氏は同じくThe HellやVoid Innでもその腕を振るってますね。

The Hellについては↓記事で紹介していますのでご参考に。

[レビュー]The Hell – Welcome to​.​.​. (セルビア/デスメタル)

耽美ゴシックから滲む錯乱の破壊音

全体を通して、ふわりとした淡い歌声のAna Pešić女氏の物憂げな雰囲気に、交錯するDušan Pešić氏のグロウルとノーマルヴォイスが、幽玄で内省的でありながら、時おりどこか狂気を滲ませるという、そんな印象の本作”As I Bequeath My Yesterday”。

楽器隊の演奏、というかギターパートは結構な割合をクリーントーンの音作りが占めていて、ポロポロとこちらも聴いてて非常に淡くてゴシックメタルらしいメランコリックさ。

結果全体的には、昔のThe Gatheringの感じに近そうな、淡くて物憂げな脱力感と切なさが全体を覆うフィーメイル・ゴシックということになるでしょうか。

一方で時々思い出したかのように瞬間的にブラストビートを全開でぶち込んでくる瞬間もあって、妙な散漫さも漂ってます。個人的にはその散らかりっぷりが好きですけども。

なのですが各パートの録音はあんまり良くなくて、クリアだけどどこか響きが刺々しいというかノイジー風というか・・・さらにミックスがややチグハグっぽくて聴いてて各パートのまとまりが今一つな点はちょっと残念。

 

幕開けを飾る1曲目、まずはAna Pešić女氏の淡く澄んだ歌声が全編をふわりと包み込みます。この曲に限りませんが、あんまり熱く歌わない脱力っぽい歌唱がゴシックメタルらしい色彩で酔えますね。Dušan Pešić氏のクリーンヴォーカルはそれを引き立てるように寄り添い、交錯する男女の歌声のコントラストが鮮明で美しい。楽曲は漂うようにメロウでどこか神秘的。

そんな淡いトーンで続き、曲後半ではどこかある種ダンサブルでもあるノリに変化もみせる2曲目。一方でどこか病的な閉塞感も漂ってるのが心地よい色彩感覚です。

アコースティックギターでふわふわと歌声の漂う3曲目。2分強の小品ですが、独特の存在感で素敵。とここまでは、本作中で静寂パートが大半を占めているのですが・・・

 

なんだかアルバム中盤以降、特に攻撃性の面で、内に秘めた狂気がにじみ出る瞬間が増えて、ゴシックメタルと言いながらずいぶん破壊衝動が目立ってきてますね。引き続き聴いてみましょう。

 

8分弱に及ぶ長尺の4曲目は、本作のハイライトの1つ。後半の男女ヴォーカルのデュエットが非常にロマンティック。クリーントーンのギターリフがシャラシャラ鳴ってるのから、曲が進行するにつれだんだんと歪みを増していき、ついには泣きのメロディ&ソロが登場するというドラマティックさ。そしてトドメ、凶器のグロウルに爆速ブラストビートの嵐という、ゴシックメタルを超越した破滅の美にドキドキします。彼らの後の作品にも言える気がしますが、こういうごった煮感というか何でもありな作風が彼ららしい点かも知れません。

続く5曲目は曲後半に再びデスヴォイスと爆速ブラストビート&トレモロリフの嵐。ここはどこかシューゲイズ系?ブラックゲイズ?みたいな狂暴性と恍惚とした美しさが同居する瞬間でもあります。

メタリックでメロウな歌心のギターリフと揺らぐようなグルーヴのリズムが、いかにもゴシックメタル風の幽玄さで響き渡る6曲目。かと思いきやまたトレモロリフにブラストビートが爆裂して驚き、そうして嵐が過ぎ去ったかと思えばどこか甘酸っぱい男女ヴォーカルのデュエットが聴こえてくるという、よく言えば非常にドラマティック、悪く言えばなんだか喜怒哀楽が崩壊してるかのような支離滅裂感。いやそれでもそういう風に壊れ気味なのって好きです筆者。

7曲目はほぼ全編にわたり、ディストーションギターのリフとデスヴォイスが楽曲を支配しています。中盤スタスタと打ち鳴らされるドラムスのリズムと、泣きのトレモロリフがほんのりメロウさを残していますが、本作中ではずいぶんゴシックデスに寄った感触の曲といえそう。

ラスト8曲目はしっかりと重くドゥーミーに作品の締めくくりを描いてみせる一品。作中でもある意味一番分かりやすい、典型的なフィーメイルゴシックの楽曲になってる気もします。引きずるような演奏に、地を這うディープな男性グロウル、ある種の救いかあるいは嘆きかという女性ヴォーカルの淡い歌声に、そのまま消えてしまいたくなる感触。

迷作という名作

ちょっと録音がアレだとか、全体的に楽曲内の構成要素のまとまりに欠けるような突拍子のなさで印象に残りづらい、とか弱点らしきものが散見されますが、聴いてるその一瞬一瞬は非常にフィーメイルゴシックの幽玄な心地よさに満たされてて、個人的にはかなり好きな作風のアルバムです。

粗削りだったり支離滅裂な感じも、良く言えばそういう錯乱気味の美と言い換えられるでしょうし、そもそもが仄暗いゴシックワールドだから、病的なことはここではある種の正義みたいなものです、きっと。

迷作という名の名作って事で愛したい一品。

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