[レビュー]May Result – Gorgeous Symphonies of Evil (セルビア/シンフォニック・ブラックメタル)
- 2019.10.14
- セルビア
- Black Metal, May Result, Review, Serbia, セルビア, ブラックメタル
セルビアのベオグラード出身のシンフォニック・ブラックメタルMay Resultの1stフルアルバム。2000年作品。オーストリアのレーベルのCCP Recordsというところから出てます。彼らの2ndアルバムも同じレーベルからリリースされています。
関連情報
彼らの略歴みたいなものは、2ndアルバム”Tmina”の記事でも少し触れていて、重複しますが改めてみてみましょう。
バンドの結成は1995年。Kozeljnik氏(ギター・バックヴォーカル)、Ilija氏(ドラムス)、Rastko氏(ベース)の3人が中心となっていたようです。1996年にはデモをレコーディングし、翌97年にはそのデモのリリースと、1stアルバム”Gorgeous Symphonies of Evil”をレコーディングが行われました。
しかし、当初彼らが契約していたレーベルの金銭的問題によってリリースは白紙となってしまいます。1999年末にオーストリアのCCP Recordsと契約を交わし、翌2000年にようやく1stアルバムがリリースされました。
97年当時の本作のレコーディングメンバーは、Kozeljnik氏(ギター・バックヴォーカル)、Ilija氏(ドラムス)、Rastko氏(ベース)、Dušan氏(ギター)、Predrag氏(キーボード)、Srđan氏(ヴォーカル)の6人。そしてなんと女性ヴォーカルのパートにKristina女氏という人物がゲスト参加しています。
そういえば、本作のアルバムタイトルや曲名は全て英語なのですが・・・次作以降、徐々にセルビア語の割合が増していっていて、こういうケースはちょっと珍しい気がします。逆に母国語から英語に切り替わっていくのは割とよくあると思うのですが。
バンドの中心人物であるKozeljnik氏関連で言うと、The Stoneも同じ流れで、最近の作品でもほぼセルビア語だったはず。余談です。
彼らの2ndアルバム、Tminaのレビューと関連情報は↓記事で紹介しています。
[Review]May Result – Tmina (セルビア/シンフォニック・ブラックメタル)
タイトルに恥じぬ、ゴージャスな邪悪シンフォニー
ヴォーカルレスの1曲目と、続く2曲目は同じ雰囲気でシームレスにつながる、ミドルテンポ主体の曲。トラックは分かれていますが、個人的には壮大な1曲として聴くのが良いんではないかという印象。
曲調はブラックメタルらしい不穏さを残しつつも、どちらかというとキーボードの音色による耽美的な雰囲気を強調した感じ。バンドの演奏ぶりには意外と様式美が香り、ある種の正統派っぽいドラマ性も感じさせます。
そしてそこに中音の爬虫類系(?)ヴォーカルが乗ります。ウォゴエァァ、みたいな。MayhemのChimeraアルバムで聴いたManiac氏の声にちょっと似てる?かも。
イントロのピアノの音色の反響がきらきらと美しい4曲目。このあたりからブラックメタルらしい凶暴性が現れてきます。キーボードソロも挿入されていて、この曲に限りませんが前面で活躍してます。その音色は時にパイプオルガン風だったり、ハモンドオルガン風だったりと、結構多彩。そして曲後半にはゲストの女性シンガーによる、ソプラノ歌唱も切り込んできて驚かされます。
再びキーボードによる、荘厳なパイプオルガンの音色がイントロを飾る5曲目。その荘厳な雰囲気から一転して、曲の本編はスラッシーなアグレッシヴさで疾走します。中盤ではドカドカとブラストビートも登場。やはり中心となってメロディーをつむいでいくのはキーボードです。キメのキーボードとギターのユニゾンメロディが印象的。
キーボードによるファンタジックなインストの6曲目を挟んで、冒頭の疾走と女性ヴォーカルのソプラノ歌唱が一瞬メロパワかと思ってしまいそうな7曲目。でもその歌声がちょっと魔女風な響きなのと、ギターのサウンド強力な歪みで、暗黒風味をキープしています。暗い夜空にミステリアスでほんのりロマンティックさが香る、素敵なトーンの1曲。いやでもやっぱり、音質がブラックメタルな作りでなければメロパワと紙一重かも。
そして本作で一番切なさが炸裂する8曲目。キーボードの音色もメロディーも聴きようによってはかなり貧相なのに、それが逆に(?)儚げなメロウさを際立たせているように感じます。そしてここでも堂々たる歌いっぷりの女性ヴォーカルが入ってきて、その歌声とメロディーが胸を打ちます。ギターやドラムスもここぞとばかり、ガリガリバカスカとアグレッシブに飛ばし、邪悪で強大なブラックメタルを演出。本作のハイライトのひとつ。
9曲目はインパクトはそれほどでもない気もしますが、後半の女性ゲストによる語りがのる爆走パートは昔のCradle of Filth風で、そういうの大好きな自分はドキっとします。
ラストの10曲目はキーボードの色使いが、彼らの次作の雰囲気への布石になってそうな気を起こさせる曲。それほど派手ではないのですが、ちょっと淡めなシースルー感?に押さえたトーンの音色で、ヴェールに包まれたようなミステリアスさとメロウさが印象的。そしてその点こそが、次作での彼らの音楽のキーポイントになるのです(と自分は思ってます)。
曲最後のギターソロも見事キマリました。この曲に限らず、ギターソロの音はプープー系でチープですが・・・。
その音質は90年代後半の録音と思うと十分クリアだと思うのですが、技術的な問題なのか、各楽器のバランスがちょっとばらばら?というか一体感に欠けるというか・・・。分離ははっきりしてるけど、一方でそれぞれが全然リンクせず鳴ってるみたいな。特にギターは、なんだかやたら近くて耳元でガリガリ鳴ってます(笑)
ところどころチープに聴こえるのは、まぁ時代を考えると不思議ではないのかも。
荒削りなロマンティシズム
全10曲44分の本作ですが、全体的にこの頃はまだ、彼ら独自の東欧産らしいミステリアスな雰囲気はそれほど確立されておらず、おそらく90年代当時の北欧シンフォブラック勢を下敷きにしてそうな作風。漂う耽美性はなんとなく初期Dimmu Borgirを思わせたりします。
切り込んでくる女性ヴォーカル&ナレーションの取り入れ方はかつてのCradle Of Filthの手法に倣ってるんでしょうか。
同時にギターリフなどは案外ストレートなメタルっぽい感じもあり、彼らの後の作品や、関連のStone to Flesh(The Stoneも)とはちょっと隔たりがありますね。
そうした作品を聴いた後だと、この頃の彼らの作品にはまだ、独自の作風や雰囲気は表れていなくて、未成熟気味?だったり、ややアイデアを消化しきれてない様な感じも見受けられます。
一方で、そんな荒削りな中に、主に派手めなキーボードの演出によるロマンティシズムが光るのも事実で、実際瞬間的にその見事さにクラクラさせられるようなパートも確かに存在しています。
作品全体の出来で言えば、たぶん普通、ということになりそうです。とはいえ次作で一気に(個人的に)超名盤級の作品を仕上げてみせる彼らの、在りし日の姿を知らせてくれる興味深い1枚。
amazon様↓
May Result – Gorgeous Symphonies of Evil
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