[レビュー]Svartgren – Prazan grob (セルビア/ブラックメタル)
セルビアの首都ベオグラード出身のブラックメタルSvartgrenの1stフルアルバム。2015年作品。なんと(?)日本のHidden Marly Productionからのリリースで、CDには帯までついてます。1000枚限定ということのようですね。
関連情報
Svartgrenとしての始動は2005年。その前年にあたる2004年からЛапот(Lapot)名義で活動していた彼らですが、05年に現在のSvartgrenに改名して活動がスタートした、という事になります。
前身バンドであるЛапотとしては3本のデモを残しているようです。
Svartgrenに改名してからは、2006年にEPとデモをそれぞれ1作、2010年にEPをリリースしています。そして2015年に、満を持してリリースされたのが1stフルアルバムである本作”Prazan grob”になります。バンドの始動からはおよそ10年、1stアルバムでありながら既になかなかの経験の持ち主のデビュー盤、という事になりそうですね。
その後2019年には、ついにバンドとしてフルラインナップを完成させての2ndアルバム”Divlja vatra”をリリース。セルビアのブラックメタルシーンの中でも、存在感あるバンドの1つとしてその暗黒世界を担っています。
さて、本作のバンド編成を見ると、Лапот時代からの創設メンバーであるAleksandar Stefanović氏(ギター・ヴォーカル)、Vuk氏(ギター)という2人が正式メンバーという事になっています。このVuk氏は同郷セルビアのヘヴィメタルSeljačka Bunaでギタリストを務めている人物ですね。
加えてゲスト/セッションメンバーとして、Marko ”Tihi” Danilović氏(ドラムス)、Luka Matković氏(ベース)の2人が参加していますね。この2人はスラッシュメタルQuasarbornやSpace Eater等で活躍してる人物という事で、バンドのサウンドをがっちりと固める役割に貢献してるものと思われます。
・・・とここまでほとんどMetal Archives情報頼りなのですが、本作は日本のレーベルからのリリースで邦題付き。題して「虚ろの霊屋」。「地獄の深淵を通じて導く原始的で不快な死の崇拝」というコピーが帯に書かれてます。
「虚ろの霊屋」にて
白黒でイラスト風に描かれる墓地&浮遊する幽霊のジャケ、そのタッチはなんとなくブラック/スラッシュ系の音を連想させるのですが、聴いてみると結構以外にも、伝統的でオールドスクールなプリミティブ系のブラックメタルが飛び出します。
質感としてはセルビア産に多い気がする、北欧とりわけフィンランド勢の荒涼とした雰囲気を踏襲するスタイルといえそうです。
ずっしり重厚に、堂々たる佇まいでスローに入る1曲目。音質も軽すぎず、いい具合にタメが効いた演奏ぶりで、威厳たっぷりな曲前半。そして後半からは一気にブラックメタルの吹雪になだれ込みます。この寒さはまさにブラックメタルの伝統芸そのもので、好きな人にとっては甘美さと安心感をもたらすに違いありませんね、自分みたいに。
そして木枯らしの吹くような、ほんのりメロウなトレモロリフが印象的な2曲目へ。スタスタ疾走するドラムスとかき鳴らされるブリザードリフが素敵。中盤では重苦しく不穏なうねりを孕んだリフがグリグリと攻め立てて、前述のメロウさと邪悪さのコントラストを描いてみせます。
3曲目はどちらかというとドゥミーさの香るスローパートが耳を引く一品。爆走する瞬間も配置されてますが、ここではそのスローパートの塞ぎ込むような暗さと哀愁のメロディ感が胸に染みます。かといって甘くなりすぎず、ほんのりメロディ感がある、ってタッチがナイス。あくまで色遣いはモノトーン調なのです。
続く4曲目は本作中でも屈指の直球メランコリアの爆発ってな具合で、枯れた切ないメロディーと激情の高速ビートが炸裂してます。例えるならフィンランドのSatanic Warmasterとかあのあたりに近いのかな。・・・と思ったら実際CD帯にもStaniac Warmasterのファンに推奨って書いてある。。。
スローに進行して、静かに拳を握り締めてる様な秘めたる熱さと、ヴォーカルの悲鳴に狂気が滲む5曲目に、冷たく殺伐とした景色で響き渡る呪詛みたいな6曲目。アルバム冒頭から相変わらず、オールドスクールファンにとっては安心感と陶酔感たっぷりのブラックメタルが続きます。
7曲目は重くるしさと深淵のうごめきの暗さがジワジワ迫って胸を締め付けるかの様。曲ラストの、金の音色みたいなアルペジオが刺さります。浄化の鐘?とでもいうのか、あぁこのまま消えてしまいたい、そんな願いを聞き届ける介錯の音色。
ラスト9曲目ではエンディングにして必殺級のメロディの冴えを見せつけます。冷たいトレモロリフのメロディーが、聴く者の胸を熱くする、そんな矛盾をはらんだ奇跡がここに存在してるかの様な。。。いやもう素直にかっこいいし、同じリフでリズムを切り替えることでまた響き方が違ってくる、その仕掛けもお見事。曲ラストはどことなく昔のBurzumみたいなもの寂しさと余韻で終焉を迎えます。
黒金属を抱いて。
・・・実際このラスト9曲目が素敵すぎて、筆者が選曲してるラジオ番組のブラックメタル特集でも取り上げて流した程の、本作”Prazan grob”。
全体的には邪悪さよりは荒涼感やメロウさが強めながら、要所で重厚だったり不穏だったり邪悪だったりというアクセントも聴いていて素敵。北欧系オールドスクールブラックど真ん中で、目新しさは無い分、個人的には恐るべき安心感で陶酔できた作品です。
・・・余談ですがコレ書いてる今まさにこの瞬間、ちょっと精神的に不調気味なのですが、そんなときに寒々と寄り添って心に染みる、それこそブラックメタルの安心感と甘美さ、みたいな。そしてここから生きるも死ぬも自分次第。その荒涼の音階から生命力を得るか、はたまた死のBGMにしてこの世を去る決意をするか、ブラックメタルはどちらも肯定も否定もしない、たぶん。。。
ってなんだか変な方向に行ってしまいましたが、総じて、彼らの長いキャリアからくる安定感もたっぷりに、ブラックメタルの伝統を巧みに踏襲したプリミティブ/オールドスクール系の優良盤。