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[レビュー]Scaffold – Codex Gigas(セルビア/デスメタル)

[レビュー]Scaffold – Codex Gigas(セルビア/デスメタル)

セルビア出身の老舗デスメタル、レジェンドScaffoldの超待望の2ndフルアルバム。2021年作品。ロシアのSatanath RecordsとオランダのThe Ritual Productionsによる共同リリース。500枚限定でミニポスター付き仕様。

リリース元のSatanath RecordsよりDiscogs経由でお取り寄せです。というかコレ買うために一緒にあれこれ注文したという。。。

関連情報

バンドのバイオグラフィー的なものは、1994年リリースの1st、”The Other Side Of Reality”の紹介記事でも触れていますが・・・本作のブックレットに同封されてるミニポスター裏にバンドの経歴がまとめられているので、それを読みながらバンドについておさらいしてみましょう。

[レビュー]Scaffold – The Other Side Of Reality (セルビア/デスメタル)

バンドの結成は1992年にさかのぼります。92年と言えばセルビアを含むユーゴスラヴィア(当時)が紛争状態の最中にあった時期です。そんな状況の中、1993年にはデモ”The Truth Is Buried”をリリース。精力的にライブも行っていた模様。

しかしながら、ユーゴ紛争によって基本的な日常生活さえままならなくなる中、セルビアのメタルシーンも同様に崩壊。1996年にバンドは解散することになります。解散前にバンドが残したある種遺作とも言えるのが、1994年の1stフルアルバム”The other Side of Reality”でした。

2008年、バンドの中心人物であるIvica Dujić氏はバンドの再結成に乗り出します。この時期にはバルカンの国々で数多くのライブを行ってたらしい。一方でIvica Dujić氏以外のバンドのメンバーは安定せず、2ndアルバムの制作に入るのは困難な状況だったようです。

ようやく2010年になって、5曲入りEP”Like Devil in the Church”がリリース。2015年にはCannibal Corpseのセルビア公演のサポートを務めたり、同国のロックフェスEXITでNapalm Deathと共演したりしています。2017年にはシングル”Years of Decadence”をリリースし、Ivica Dujić氏は着実にバンドを次のステップへと前進させていきます。

そして2020年に待望の2ndフルアルバムとなる本作、”Codex Gigas”のレコーディングを開始。翌2021年、ついにリリースとなりました。戦火の中のリリースとなった1stアルバムから数えて27年、バンドの再始動から数えても13年と、非常に長い道のりを、その炎を絶やさずにここまでやってきた事になります。

 

そんな本作の編成を見ると、フロントマンでブレインのIvica Dujić氏(ギター、ヴォーカル)を筆頭に、Antonio Ismailović氏(ギター)、Aleksandar Mušicki氏(ドラムス)、Milan Dobrosavljević氏(ベース)という4人。ベーシストのMilan氏は同郷のブルデスSacramental Bloodの現メンバーも務めてますね。

それからゲスト陣も豪華で、有名どころを見るとセルビアのベテランメロディックメタルAlogia等々でシーンを牽引するSrđan Branković氏が、自身の運営するParadox Studioでのレコーディング全般とギターソロを提供してます。さらには隣国ボスニア・ヘルツェゴビナ出身のギター名手Emir Hot氏もギターソロで参加。

強力なバンドラインナップに、長年シーンに携わった経験、そして多彩なゲスト陣の参加を思うと、音の方もとても気になってきます。長い時を経て投下されたセルビアン・デスのレジェンドScaffoldの2nd、その響きやいかに??

変わらぬミステリアス系オールドスクール・デス

さて、そんな風についにリリースとなった本作”Codex Gigas”ですが、長い時を経ても失われぬ彼らの持ち味がたっぷりと封じ込められた作品になってます。

 

アルバムの幕開けを飾る1曲目は、どこか幽玄なメロディーの冒頭部に導かれ、その後はガツガツと畳み掛けるダイレクトなアグレッシブさを放ちます。Ivica Dujić氏のハスキー系デス声は1stアルバムの頃とも変わらず、長い時を経ても衰えを知らぬ咆哮。セルビアのデスメタルレジェンド、その帰還をここで高らかに宣言してみせます。

2曲目では、平べったい音階ながら妙な引っ掛かりを生むトレモロリフによる疾走と、グルーヴィな刻みのミドルテンポのパートが交錯する構成。パッと聴きなんだか地味めな気もしながら、でもなんだかんだ本作中でも最も印象的な曲の1つ。

3曲目はスローに入り、重厚なリフが織りなす閉塞感とスラッシーな疾走が織り交ざった一品。とりわけ後半で切り込む、ゲストEmir Hot氏による狂気のギターソロがエグい。Emir Hot氏はソロ作品を紹介してますが、そこではどちらかというとメロディアス方面の人物みたいな印象だったのですが・・・ここで火を噴きまくるキレキレギターソロは、結構な驚きです。

[レビュー]Emir Hot – Sevdah Metal(ボスニア・ヘルツェゴビナ/メロディックメタル・ギタリスト)

5曲目は独特の、ある種の爽やかさや高揚感の香るギターリフも登場する一品。一方で呪術的なフレーズというかメロディーも配置されてて、なんとも不思議な感触を伴っています。曲後半のスローパートで奏でられるギターソロは非常にエモーショナルで哀愁たっぷり。かと思いきやトドメにドカドカと疾走&不穏な音階のリフを盛り込んできたりと、起伏に富みまくった構成が印象的。

そして冒頭の中近東風のリフが、たぶんバルカン産ならではの風合いを生んでる6曲目。単音リフとスタスタと疾走するドラムスがどことなく荒涼とした雰囲気だったり、スタッカート(?)のリズムのリフがなんだかひねくれた感じだったり。そして個人的にドキッとしたのが、同郷のブラックメタルMay Resultを連想させるミラクルなベール感のキーボードサウンド。曲の背景でほわんと鳴ってる響きが、まるで不穏で冷たい夜空の様。

この曲に限りませんが、要所要所でふわりと楽曲を覆うキーボードの音色もそうした感触を引き立てますね。

そしてこうした5、6曲目のあたりのなんとも言えない、ちょっと不思議感というかヒネリ具合?聴きなれない引っ掛かり感は、彼らの1stアルバムの頃からの特徴と言えるかも知れません。攻撃性だけでない、特有のミステリアスさというか音楽的感性の表れというか。。。

7曲目はBloodbathのカバーという事で、どのBloodbathかなと思って確認したところ、どうやら同郷セルビア出身で90年代前半に活動してたスラッシュ/デスのバンドでした。未聴なので原曲との比較はできないのですが、キーボードをふんだんに使った仕上がりで、邪悪に壮麗、キラキラしない程度の装飾の具合がナイス。曲の方はスラッシーな刻みと疾走に、オールドスクール・デスらしい?怪しいトレモロリフなど、そのテのスタイルど真ん中な感じです。・・・というかBloodbath、時代的にも黎明期のバンドなので、頑張って音源探さなきゃ。

ラスト8曲目は雨音とアコースティックギターによるアウトロ。つまはじく弦の音がぽろぽろと、物悲しい感じに、しとしとと雨音が重なって、作品は終わりを迎えます。

貫禄と円熟の1枚

全体的には1stアルバムでの、ちょっとミステリアスというか不思議系っぽい質感もあるScaffold節もきちんと今に継承された、オールドスクール・デスメタルな感じ。その点では時の隔たりによる別人化をあまり感じず、「あのScaffoldが帰ってきた!」と素直に喜べそうな安心感と感動。

音質はクリアでタイトなスッキリ系。厚みも十分で、セルビアのスタジオParadoxでの録音と、名人Srđan Branković氏のプロデュースが見事に新生Scaffoldの音作りに貢献してるものと思われます。

 

実を言うと、全体的に流して聴くときにはやや地味に聴こえるというか、ここだ!というハイライト感に欠ける感じがするもの否定できないのですが・・・よく聴くと曲構成やアレンジが結構いい具合に練られてたり、ゲスト陣含むギターソロの数々はなかなか味わい深いものだったりと、聴きどころは多いはず。

なんというか、長年の熟成が生んだ深みと豊潤さというか、ベテランの醸す匠のワザ感と完成度。

セルビアのデスメタル史のレジェンドが、その歴史に新たな1ページを加える逸品でしょう。

参考にしたインタビュー記事↓

Interview: Ivica Dujić Dujke (Scaffold)

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