[レビュー]Sangre Eterna – Asphyxia(セルビア/メロディック・デスメタル)
- 2020.10.17
- セルビア
- Melodic Death Metal, Review, Sangre Eterna, Serbia, セルビア, メロデス
セルビアのノヴィ・サド(Novi Sad)出身のメロディック・デスメタル、Sangre Eternaの2ndフルアルバム。2012年作品。リリースはカナダのMaple Metal Recordsというところから。確か中古で数百円でゲットできてしまったという品です。
関連情報
バンドの結成は2005年。2008年には1stアルバム”Amor Vincit Omnia”がリリースされました。この1stアルバムについては、本ブログで簡単なバイオグラフィーと共に紹介しています。
[レビュー]Sangre Eterna – Amor Vincit Omnia(セルビア/シンフォニック・ブラックメタル)
そして2012年にリリースされた2ndアルバムが本作”Asphyxia”。レコーディング時のラインナップを見ると、前作から引き続き参加しているのがIlija Stevanović氏(キーボード・ヴォーカル)と、Bora Jovanović氏(ギター)の2人。その他のパートは交代があったようで、Miloš Armuš氏(ドラムス)、Kovács Zoltán氏(ギター)、Davor Menzildžic氏(ベース)という顔ぶれになっています。
このうちMiloš氏とKovács氏は一時Senshiにも参加していたようです。また、Davor氏は本作以前にはフィーメイル・ゴシック/ドゥームのTales of Dark…で活動していた人物ですね。そのTales of Dark…つながりということでしょうか、ゲストヴォーカルで、同国セルビアのフィーメイルゴシック・ドゥームTales of Dark…のシンガーJovana Karajanov女史が参加しています。
加えて本作では、フィンランドのメロデス界からゲストヴォーカルを複数迎えているのが注目どころ。当時のNortherからAleksi Sihvonen氏、元FintrollのTapio Wilska氏、Eternal Tears Of SorrowからJarmo Kylmänen氏とJuha Kylmänen氏の2人。バンド名を見るとなかなかの顔ぶれ?になるでしょうか。自分は彼らゲスト陣それぞれに思い入れを持つほどメロデスに通じているわけではないのですが・・・。一体どういうつながりだったのか気になるところですが、情報は見つからず。。。
セルビアのフィンランド??
さて、そんな彼らの2作目にフルアルバムですが・・・
前作のレビュー書いてる時点から、続く本作ではメロデス化してるというのは何となく知ってはいたのですが、実際聴いて驚きの大変貌。
聴いて一発目の印象は一言で、完全なる北欧メロデス化。もうそれ以上でも以下でもなく、文字通りそのスタイルから連想されるものそのまま、です。前作でもメロデス的な要素は結構ありましたが、特にギターリフとリズムのキレ、キーボードの透明感あふれる味付け(ってことは全部?)が一気にそちら方面に洗練されてます。一体彼らに何があったのか。。。
ゲスト勢の参加と直接関係があるのかは定かではありませんが、きっと何かが起こってたに違いない。
前作比で一気に現代の北欧メロデスそのまんまなスタイルに変貌を遂げて、ほとんど面食らってしまうかの様な1曲目。語弊を恐れずに言えば、前作の良くも悪くも垢抜けないイモっぽさから、一足飛びに北欧メタルのトレンドのド真ん中みたいな洗練された(?)スタイルと音に大変身してます。曲後半でメロウに炸裂するトレモロリフとファストなビートが畳み掛ける瞬間は、結構胸が熱くなりますね。
透明感あふれるひんやりとしたキーボードの音色、ダダン・ダダンと迫る弦楽器隊の重厚さが、まさに北欧メロデスな感じの2曲目。最近のバンドがどんな事になってるのかはよく分りませんが、なんだか典型的な北欧勢のスタイルで間違いなさそう。この曲ではゲストで、NortherのAleksi Sihvonen氏がヴォーカルを担当してますが、曲の感じもたぶんまさにその系統。硬質な演奏に、ちょっとヒロイックなメロディ、きらびやかなキーボードの装飾ってやっぱり絵に描いたような北欧感です。・・・がそのAleksi Sihvonen氏のヴォーカル、元々Northerは昔ちょっとしか聴いてないのもあって、違いが全然分からない>< 少しシャウト気味な感じが混ざってるのかな。。
続く3曲目もスタスタと疾走しながら進行するメロデスチューンですが、ここではゲストヴォーカルで元FintrollのTapio Wilska氏が参加です。これも普通に聴いてるとヴォーカルが違うって事に全然気づかなかったのですが、よく聴いてみると確かに、“Nattfödd”アルバムで聴いた低いグロウルのトロール声かも。
5曲目はメロデスならではのキラキラ感と甘美なクサみが炸裂する、本作でもハイライトになるであろう1曲。サビ(?)のパートではクリーンヴォーカルが飛び出したりして、お約束ながらデスヴォイスとの対比にちょっとハッとさせられます。そんなちょっとぬめっとしたクリーンヴォーカルが”I’m your angel”とか歌ってるもんだから、もう甘々でメロメロ。気分によっては苦笑するしかないという(笑
そして6曲目はややスローテンポからやがて疾走へと展開するセンチメンタル風な一品。ここではサビというかキメのパートでTales of Dark…のシンガーJovana Karajanov女史がゲスト参加しています。その歌声はなんというかゆるふわ系な感じでしょうか。こういうはっきりしたコントラストはやっぱり耳を引きますね。
ちょっと中近東風の香りのするインスト7曲目に導かれてシームレスに始まる8曲目。曲の終盤のキーボードの透明感をまといつつ、ブラストビートに乗せて疾走する様子が素敵。メロウな風が吹き抜けます。
アルバム本編のラスト10曲目は、これまたメランコリックなピアノのイントロがポロポロと曲を導き、一気にブラストビートで悲哀が大爆発。メロデスお得意の血の涙を流さんばかりの激情です。中盤でもキーボードは印象的な仕事をしていて、アグレッシブでありながら触れば崩れてしまいそうな繊細さも同居した音世界が広がってます。
そして11曲目はボーナストラックで、5曲目の”Seventh Angel”の別バージョン。ここでは全編クリーンヴォーカルによる、北欧ゴシックメタルみたいなアレンジになってます。ここで歌ってるのがゲストのEternal Tears Of Sorrow組、Jarmo Kylmänen氏とJuha Kylmänen氏。ひんやりしつつちょっとウェットな感触はどことなくTo/Die/ForとかSentencedあたりのイメージ、なのかな。ヴォーカルの歌声はちょっと違いますが、とろりと耳に残るみたいな質感がなんとなく。オリジナルに負けず劣らず、甘美さが満載。
大変貌の意欲作
前作のメランコリックなメロデス/ブラックみたいな作風から比べると、驚くほど質感が変わり北欧メロデススタイルそのものに変貌を遂げた本作。もうほとんどフィンランドかスウェーデン産と言われても疑われないレベルでの一致ぶりなので・・・個人的にはなんだかちょっと、当時はそういうスタイルの方が売れるって事で狙ったのかなとか、あまり褒められない勘繰りをしてしまいそうなほど。。。それほどザ・北欧って感じなのです。
例えば、Children Of BodomでもいいしNortherでもいいし、Eternal Tears Of SorrowでもKalmahでも、あと何がいたっけ・・・ですが、そんなとにかく北欧というかフィンランドのメロデス勢で連想されるものを想像してもらうと、ほぼ間違いない音楽になってると思います。
ブックレットのバンド写真も、メンバーの皆さん黒シャツに黒ネクタイみたいな出で立ちで写ってて、個人的には、そこまで歩み寄らなくてもいいんじゃないかという気もしてくる位ですが・・・やっぱり前作比、だいぶ垢抜けたもんです。
ひとつのメロデス作品としてはたぶん結構ハイクオリティな1枚。余計な事を考えずに聴くと、メロデス的アツさとメロディの応酬にたっぷり心惹かれる作品でしょう。
それから本作の後には、同年2012年と2016年にシングルがリリースされています。今この記事をまとめてて気付きましたが、2012年のシングル”Through the Waves of Agony”は、東日本大震災による津波の犠牲者に向けて届けられた品。感謝と同時に、なんだか今まで気付かずにいたのが申し訳ない気持ちになってきます。。。
YouTubeリンクを記事下に貼っておきますので、セルビアからの気持ちを皆で受け取りましょう。
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