[レビュー]Шакал (Šakal) – Jav, Prav, Nav(セルビア/ブラックメタル)
セルビア出身の5人組ペイガン・ブラックメタルШакал (Šakal)のデビュー作となる1stフルアルバム。2022年作品。デジタル版と、CD盤がポーランドのWerewolf Promotionよりリリースされています。
本作のレビューにあたっては、バンド側よりご提供いただいたデジタル音源で聴かせて頂きました。
また、作品のリリース当初からバンド側からコンタクトを頂いており、先行してメンバーとのインタビュー(しかも世界初の独占!)も快諾頂きました。大変な光栄&名誉にあずかりこの場で再度感謝申し上げたいですホント。
関連情報
前述のとおり、今回はバンドに直接インタビューする機会に恵まれたので、彼ら自身の言葉も交えて、バンドと作品についてまとめてみましょう。
バンドは2021年の後半に、セルビア北部の都市ノヴィ・サドで結成されました。なんでも友人たちで集まって曲作り、リハーサルと活動し、そしてアルバムの制作に至ったという事だそう。
バンドメンバー個人それぞれの詳細はインタビューでも不明のままだったのですが・・・Š氏(ベース)、A氏(ギター)、K氏(ヴォーカル)、A氏(ギター)に、インタビューに答えてくれたL氏(ドラムス)という5人。Aなるギタリストが2人いますが誤記ではなく実際に2名在籍してます。
インタビューによればメンバーは皆20年に渡って演奏してきた人物なのですが、具体的にどんなバンドでどんな音楽をやっていたのかはやはり不明。しかしながら音楽的にはベテランと自称する皆さんです。
バンド名のШакал (Šakal)はジャッカルを意味していて、メンバー内で自然発生的に浮かんだものらしいのですが、皆気に入ったんで採用という由来。これもインタビュー中で明かして下さいました。
音楽や歌詞はスラヴ神話がテーマになっていて、本作のタイトル”Jav, Prav, Nav”もそれにちなんだタイトルになっています。翻訳は難しいのですが、どうやらスラヴ神話における宇宙観の3つの次元とか要素、ということらしい。
熱く強靭なペイガンブラック絵巻
全体的には、デビュー作とは思えぬ安定感が目を見張るブラックメタル。トラディショナルなブラックメタルのスタイルを踏襲しながら、クドくなりすぎないペイガン風味がいい具合に勇壮。このへんは自身が音楽的にはベテランであると語る通りの実力の持ち主である証拠とも言えそう。
音作りは非常にクリアでダイナミック。ギターリフの粒立ち感と微妙なコード感もうまく収めつつ、耳障りなザラつきもないので非常に聴きやすく、こうした音作りもデビュー作とは思えぬ安定感につながってるのでしょう。
冒頭1曲目はミドルテンポながら、不穏な炎が燃え上がるような熱さを滲ませて非常に格好良い。そんな中曲後半のリフ&メロディはほんのり泣きの要素も香って、邪悪なだけでない彼らの美的センスも現れてます。いい具合に湿っぽい中音絶叫ヴォーカルは噛みつかんばかりの発声で鬼気迫るものがあります。
ブラストビート&ツーバスドコドコのスピード感と、これぞブラックメタルといった響きのトレモロリフの緊迫感が秀逸な2曲目。中盤のスタスタ2ビートの押せ押せなノリはいい意味での軽快さでナイスです。一方、対照的な曲後半の、おーおーおーのコーラスがいかにもペイガン風の土臭さと男らしさでこれも素敵です。緩急織り交ぜながら、熱く血をたぎらせるようなペイガンブラック。
3曲目はスローテンポで薄気味悪い導入部から、ミドルテンポのツービートが骨太な硬質感。グリグリと押し迫るような緊張感も漂いつつ、曲のラストでは呪術的なギターソロも飛び出します。
ブラストビートと勇壮な歌心のギターリフが、これぞペイガンブラックといった雰囲気の4曲目。屈強な異教徒の進軍を思わせるような力強さで、聴いててなんだか勇気も湧いてきそうです。曲中盤はミドルテンポで堂々と進行しますが、見事に表現された魂のアツさ?が素敵で耳を惹きっぱなし。一方のクリーントーンのアルペジオによる静寂パートは、澄み渡る静寂に星が瞬く夜空?のようでもあり、内なる炎の激しさとのコントラストが見事に浮き上がります。
5曲目はどこか荒涼とした雰囲気を漂わすインスト。スタスタと刻まれるリズムと寒々しいトレモロリフがモノトーン風で、これまたブラックメタルの教科書通りの安心感と陶酔感。作中ではやや地味に聴こえる1曲ですが、
そして個人的に本作で一番のお気に入り、必殺級の激情をまき散らす6曲目。アツさとメロウさと激しさが織り交ざるギターリフとブラストビートの嵐が胸を打ちます。中盤のトレモロのメロディーは悲哀に満ちて、もう聴く者を泣かせに来てます完全に。メタリックな高揚感と哀愁が入り混じる珠玉の一品。どことなく、フィンランドあたりの薄メロブラック勢を思い起こさせるような質感でしょうか。Satanic WarmasterとかHornaとか。。。
ラスト7曲目は再びミドルテンポでじっくりと鋼鉄感を響き渡らせる一品。前曲の壮絶さから一転ここでは、どこかブルージーな安心感さえ感じそうな重厚な落ち着きを聴かせます。曲最後のキーンという残響が、1曲目の冒頭のノイズとシンクロしてて、リピートすると7曲目→1曲目がシームレスにループするように出来てるのは計算づくなのかな?その残響の余韻から再び熱きペイガンブラック絵巻が幕を開けるという。。。
セルビアからのブラックメタル新星
・・・強いて難点を挙げるとするなら、セオリー通りの安定感と品質感故か、やや新鮮味に欠けるという事でしょうか。メロディーやリフ、リズムなどなど、構成要素は割と多彩と言えますが、自然に調和してる分、聴く人によっては地味に聴こえてしまいそうな気も。。。
しかしながら、デビュー作でありながら、かなりのブラックメタル巧者であることが容易にうかがい知れる実力を見せつけてきた彼らШакал (Šakal) によるJav, Prav, Nav。
総じて、教科書通りというかお手本に忠実なブラックメタルを高品質で打ち出して、そこにクドくならないさじ加減でペイガン風味のエッセンスを加えてるという、そんなバランスが良くできてる作品でしょう。
ある意味実際に(?)、ブラックメタル界においても辺境ともいえるセルビアの地から、まさにスラブのペイガン魂をハイクオリティで見せつけに登場して見せた1枚。その実力はきっと本物なので、息の長い活動・活躍を期待したいものです。
[Exclusive Interview]Serbian Black Metal Šakal send their first words to us!!
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