[レビュー]Númenor – Colossal Darkness (セルビア/シンフォブラック・エピックメタル)
- 2021.11.07
- セルビア
- Black Metal, Numenor, Review, Serbia, ブラックメタル, メロディック・メタル
セルビア出身の、今ではデス声入りパワーメタルみたいなNúmenorの1stフルアルバム。オリジナルは2013年作品で、当時はシンフォブラック+ほんのりメロパワみたいな音楽をやってます。
ゲットしたのは2021年にイタリアのElevate Recordsからリリースの、ボーナストラック2曲入り再発盤。セルビア産音源では珍しく、日本のAmazonに普通に売ってました。
関連情報
Númenorとしてのスタートは2009年。前身バンドEsgarothが改名する形での始動という事のようです。
1stアルバムとなる本作”Colossal Darkness”までに、EP3作とシングル3作(かな)がリリースされています。
Esgaroth時代から現在まで、バンドのブレインとしてその活動をけん引しているのが、Despot Marko Miranović氏。氏はセルビアのメタル情報サイト、Metal Sound Magazineも運営しているようです。
それからこのバンドのキーとなるもう1人の人物が、2010年より加入の、本ブログではおそらくもはやおなじみBranković兄弟のSrđan “Sirius” Branković氏。セルビアメタル界の黎明期からシーンの勃興を担っている超重要人物で、そのキャリアはメロデスのPhychoparadox、セルビア産メロディックメタル筆頭のAlogiaなどなど、数えきれないほど。
・・・と、2ndアルバム”Sword and Sorcery”の紹介記事が割と良く書けてると思われるので、ここで抜粋しておきます。
さて、上記の2人が中心的な役割を担い、2013年にリリースされたのが本記事で紹介する1stアルバム”Colossal Darkness”です。
バンドの編成はDespot Marko Miranović氏(ヴォーカル)、Srđan “Sirius” Branković氏(ギター、ベース、ドラムス)、Vladimir Đedović氏(キーボード)という3人。Vladimir Đedović氏はメロディックメタルAlogiaなどなどで、Srđan氏と一緒に様々な作品に関わってる人物ですね。
それから、要所で楽曲に入ってるクリーンヴォーカルは、ゲスト参加のGordan Lazinica氏とのことです。
今回紹介するのは、その1stフルアルバムの再発盤。新しいカバーアートで装いも新たに生まれ変わってます。ボーナストラックとして、新録でIron Maidenの”Flash of the Blade”と、Rainbowの”Stargazer”のカバーを追加収録しています。
聴いたところ、ボートラ除くアルバム本編の内容は録音含め、2013年のリリースと同一内容ですね。
本作の後にリリースされた2015年の2nd”Sword and Sorcery”では昔のRhapsody風に、そして2017年の”Chronicles from the Realms Beyond”以降の作品ではBlind Guardian風に接近していく彼ら。作を重ねるごとにメロパワ味が増していく彼らNúmenor、その記念すべき(?)1stフルは果たしてどのような作風なのでしょうか。
メロパワ成分を増し始める2ndアルバム”Sword and Sorcery”↓。
ファンタジック・シンフォブラ
全体的にはシンフォニック・ブラックメタルの系統、という事になるでしょうか。
ただブラックメタルとはいえ、邪悪さは控えめ。キーボードによる装飾の質感とメロディーはファンタジックで、そのあたりはメロデスか、メロパワ系統のクサみです。例えばイタリアのStormlordとか英国のBal-Sagothあたりの感触に多少近いのかもしれません。
絵に描いたような典型的中世ファンタジー感満載のイントロ1曲目。どことなく陰りがある気がするのが、彼らのブラックメタルの出自を表してる、ということになるでしょうか。
そこからシームレスに続く2曲目。やや押し殺した様なトーンで進行しますが、それでいてミステリアスなファンタジックさも十分。暗い雲のかかる風景に、怨念渦巻くMarko氏によるハスキー系の邪悪デスヴォイスがダークなタッチを添えていきます。そして切り込んでくるクリーンヴォーカルのヒロイックなメロディーは、メロパワ直球系のクサさ。
アルバムの中でも1番メロパワ寄りかも知れません。実際この曲の構成をメロパワ方面に拡大させていくので、後の彼らのスタイルの原型のひとつがここに表れてるのかも。
3曲目は、跳ねるような勇壮なリズムと、剣と剣の重なる音が交じり合う、戦場での一幕。鼓舞するような壮麗な響きのキーボードサウンドが素敵。
ファンファーレの様に響き渡るキーボードの音色と共に、裏打ちビートでバシバシと疾走する4曲目。ここではそのキーボードがいい仕事をしてて、ふわりと楽曲を包み込んでる怪しげな質感も素敵。ブラックメタル感、という点では本作のハイライトがここになりそうです。
続く5曲目も激しい疾走と乱舞するキーボードのメロディが強力な一品。そのキーボードの響きと、タイトなギターリフの絡み合いは、どことなくCradle of Filthを思わせる瞬間も。本作でも屈指の派手さで炸裂してます。
ここまでの疾走感とキーボードの美麗な装飾から、続く6、7曲目では少し抑え目?でミステリアス&やや不穏な雰囲気で楽曲は続いていきます。一方ファンタジック、というか幻想的な透明感漂うドラマティックさもあって、ゆっくり聴くと結構酔えそう。
本編ラスト8曲目は、キーボードのオーケストレーションと、ギターのメロディ、そしてデス声での語りで紡がれる壮大なエンディング。メタル楽曲というよりは、ほとんどインストによるアウトロに近い構成で、ヒロイックなファンタジー感満載で、Númenorワールドは幕を閉じます。
以降は前述の通りボーナストラック。
9曲目はIron Maidenの”Flash of the Blade”のカバー。こちらは全編Marko氏によるデス声歌唱によるのですが・・・歌メロがないので、正直なところ原曲ってどんなだっけ?みたいな印象。新録の音作りはたぶん凝ってて、特徴的なベースのブンブンガラガラした目立ちっぷりはきちんと再現されてます。
そして10曲目はRainbowの”Stargazer”のカバーです。ここで歌ってるのはゲストのBoris Jekicなる人物。氏については詳細不明なのですが、楽曲の雰囲気に負けず情感たっぷりの歌唱です。全体的に、さすが現代の録音だけあって、とても重厚でドラマティック。かなり久しぶりにこの曲に触れましたが、曲が持つうねるような妖しさもやっぱり素敵。
ブラック成分←→パワーメタル成分 その狭間。
という事で、Númenorのフルアルバムの中では最もブラックメタル路線の濃い作品ですね。
とはいえブラックメタルにしてはあんまり害のない感じというか、牙をむく感じは控えめ。どちらかと言えばデス声以外メロパワ?みたいな感じはやっぱりこの頃からの感触なのです。
児童書で描かれる悪役の姿の様な健全さ?みたいな印象なのですが、個人的にはこの頃の作風が個人的には好み。
前述のとおり、以降の作品は徐々にパワーメタル成分が増していくので、シンフォブラックメタル方面の嗜好をお持ちの皆さんは、本作がお好みに近いかも。反対にパワーメタルがお好きな皆様は3rd、4thアルバムがマッチしそうです。
そしてその色合いの違いは決してクオリティの良し悪しではなく、純粋にスタイルというかさじ加減?味付け?の違いなので、お好みでどうぞ、な感じでしょうか。本作の再発に先立ってリリースされた4thアルバム“Draconian Age”と聴き比べてみるのも面白いですね。
Numenor / Colossal Darkness Reissue 輸入盤
紹介してる過去作品一覧↓
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