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[レビュー]Искон(Iskon) – Где круг вечни своj бескраj нуди (セルビア/ブラックメタル)

[レビュー]Искон(Iskon) – Где круг вечни своj бескраj нуди (セルビア/ブラックメタル)

 

セルビア北部の都市ノヴィ・サド出身、Valarhなる人物による一人アトモスフェリック・ブラックメタルИскон(Iskon)の3rdフルアルバム。2010年作品。仕掛け人であるValarh自身の運営するBlackness Productionからのリリース。

関連情報

いつもの様に、情報はかなり限られていて断片的なものばかりなのですが・・・活動のスタートは2004年、Valarh氏の一人ブラックプロジェクトとして始動しました。

これまでのところ3作のフルアルバムをリリースしていて、セルビアのアンダーグラウンドのバンドとしては結構な存在感な気がします。この3作全て、Valarh氏自身が運営するBlackness Productionからのリリースという事で、事実上のセルフリリースとも言えそうです。

 

その3作目になるのが本作、”Где круг вечни своj бескраj нуди”になります。アルファベット表記で、”Gde krug večni svoj beskraj nudi”、英訳で“Where the circle eternal brings its infinity”だそうですね。

セルビア産モノって結構チーブな代物が多い中、しっかりした作りの12ページのブックレットや、カバーアートを見るに、上記の”Circle Eternal”というのはおそらく四季を表してるものと思われます。実際収録曲は14~15分台の曲が4曲という構成で各曲が1つの季節っぽい雰囲気がうっすらと漂う作風。

 

楽曲のすべてを手掛けるのはValarh氏。ドラムス以外の全ての楽器も演奏しています。それからセッションドラマーとして、同郷のグラインドコアNominal Abuse(未聴)やブラックメタルSvartgren等のZoltan Šimon氏が参加しています。

春夏秋冬のアトモスフィア

前述のように、本作は14~15分台の曲が4曲という構成。この構成からしてまさにアトモスフェリック系って感じですね。そしてそれぞれが1つの季節を表しているものと思われます。

 

ちょっとささくれ立った響きのアルペジオから神秘的に幕を開ける1曲目。そこにドラムスが合流して、曲はゆったりと進行。アトモスフェリック系らしく、延々と繰り返されるリフがじわじわと心に染み入ってくる様です。この曲はおそらく春を表しているものと思われますが、ここまでの雰囲気はすいぶんもの憂げ。

7分が近づくあたりでリフの展開がやってきます。少しだけ色味やぬくもりが増してきます。このあたりの、空を見上げて物思いにふけるような感覚はウクライナのDrudkhの初期作品を思い起こさせます、個人的に。それを思うと春というよりは秋めいた色合いの様な気もしますが。。。

そんな風にまったりと陶酔感を味わってると、突如切り込んでくるブラストビートに驚かされつつ、曲の甘美さがピークを打ちます。ゲストのZoltan Šimon氏のドラムスは、音作りやグルーヴ感の良さもちゃんとあって、大曲でも退屈にならないよう、巧みに緩急のコントラストを発揮してますね。

Valarh氏のヴォーカルは”ぐうおぉぉえあぁ”てな感じの低めのくぐもった、うめき声系。森に潜む言霊がこだまします。

 

・・・とまぁ基本的に全4曲とも、繰り返されるリフに、ドラムスのゆったりしたリズムとブラストビートが行ったり来たりという作風で、各曲それぞれちょっとずつカラーが違うかな、という感じです。ある種アトモスフェリック系の典型、ともいえるでしょうか。

 

2曲目は全体的にスタスタとファストなリズムパートが多くを占める、たぶん夏の一品。1曲目の物憂げな雰囲気から、トレモロリフの響きがまるで刺すような夏の日差し、というとやや大げさでしょうか。後半ではメロウなギターソロも飛び出したり、要所できちんと耳を引くポイントがあるので、聴いてて案外曲の長さを感じない気がします。

 

そして季節はたぶん秋になる3曲目。これはややデプレ風の音外の平坦さと、薄っぺらなアルペジオが、なんだか頬杖ついてぐったりするのに似合いそう。中盤で奏でられるギターソロの枯れたメロウな響きも、セピア色の哀愁、ってところでしょうか。一方でブラストビートやツーバス連打がせわしなく打ち鳴らされたりする瞬間もあって、妙な焦燥感も漂ってたり。曲調からして、聴く人が退屈感を覚えそうなのはこの曲あたりかも、という沈み込むようなタッチの一品ですが、その辺がアトモスフェリック系らしいともいえそうな曲。

 

ブラックメタルの冬といえば吹雪。ノルウェーのImmortalだってBlizzard Beasts。ということで(?)いかにも寒々しいトレモロリフとブラストビートで極寒の吹雪を描いて聴かせる4曲目。とりわけ高音弦をキリキリかきむしるトレモロリフに凍てつきます。

よく聴けばギターリフはいくつかのパターンを持ってて、決して15分ずっと同じ音が鳴ってるというわけではないのですが、(あえて?)色味の少ないほとんどモノトーンの風合いのせいで、なんだかずっと吹雪いてて、光もほとんど差さない、どんどん気の滅入るまさに暗い冬。非常にブラックメタル的で素敵です。

そしてひとしきり吹雪いた後は、いったん曲がフェードアウト。それから1曲目のあのアルペジオが再び鳴り響き、再び春の訪れを告げて、季節はまた巡ります。その春のアルペジオ、実は1曲目と同じ様でいて、実はパターンが少し違うという小技が効いてます。同じ春という季節でも、同じ時が再び巡ることは二度とはないのです。。。

セルビアからの四季

・・・例えば四季のブラックメタル作品というと、個人的にはNargarothの”Jahreszeiten”アルバムが思い出されるのですが、それと比較すると、本作は各曲の色分けがややはっきりしない気もします。というか、Nargarothの方の、あの春の思わずスキップでもしそうなブラックメタルらしからぬメロディや、壮絶に過ぎる冬の嵐の血も涙もない荒れっぷり(最高に好き!)のコントラストがあまりにも秀逸なので、それと比較すると物足りないという話。

そんなNargarothと比較するのは少々酷かも知れませんが。。。

とはいえ15分もあるような曲を4曲も並べておいて、それほど退屈せずにたっぷりその雰囲気に甘美さを感じられるというのは、お見事といっても良いでしょう。

本編を紹介する文章が、必要以上に詩人気取りのクサイ表現満載になるほどには、楽しんだ作品。アトモスフェリック・ブラックの基本を押さえまくった、安定の全4曲約60分です。

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