[レビュー]Ashes You Leave – Fire(クロアチア/フィーメイルゴシック・ドゥーム)
クロアチアのリエカ(Rijeka)出身のフィーメイルゴシック・ドゥームメタル、Ashes You Leaveの4thアルバム。2002年作品。
本ブログでは次作、Songs of the Lostアルバムに続いて2つ目のレビューになります。
[Review]Ashes You Leave – Songs Of The Lost(クロアチア/フィーメイルゴシック・ドゥーム)
周辺情報的なもの
Songs of the Lostアルバムの事を書いてた時は、案外分かったようで分かってない状態でしたが、これで2作品目という事で、バンド関連情報ももう少し見えてきた気がします。
2002年作品ということで、次作Songs of the Lostアルバムからはさかのぼること7年。その頃から在籍してるのは、ギター&男ヴォーカル担当で、一時Black Cultにも在籍することになるBerislav Poje氏と、ヴァイオリニストのMarta Batinić女氏。
次作以降から、同郷のブラックメタルであるBlack Cultとの人脈の結びつきも強くなっていくようですね。
Metal Archives見てる限りでは、他に特筆するようなバンドメンバーの関連はなさそうな感じでした。それから同じくMetal Archivesによると、本作Fireアルバムから、ゴシックメタル色が強まっているんだそうです。残念ながらこれ以前の作品は未聴です><
関連ブラックメタルのBlack Cultは↓でも取り上げています。ご参考に。
地味←よく言えば暗黒?
アルバム全体の印象は、さらっと聴く限りあんまりキャッチーじゃないので印象に残らない系?
よく言えばそれこそがある種の近づき難さであって、ゴシック・ドゥームの暗黒面とも言えそうなのですが。。。感触としては、耽美系というより文字通り暗黒系方面、になるでしょうか。そのあたりはSongs of the Lostアルバムとも共通していると思います。
録音時期あるいはメンバーによるのか、それほどテクニカルな要素はない(と思う)にも関わらず、ところどころ演奏がアヤしくて、違う意味でスリリングでもあり。。。
ただ聴いてもあまり耳を引かないけど、よく聴くと案外良いところもあるようなそうでないような。
音作り的には、ギターとドラムスが一番目立つバランスになってるように思います。専任キーボード奏者とヴァイオリン奏者が在籍していますが、キーボードが後ろの方でうっすらと鳴っていて、あまり目立たない感じ。
ヴァイオリンは要所で切り込んでメロウなメロディーで鳴り響いているのですが、音のトーンのせいか何故かこれもあまり目立たないのが残念。よく聴くと泣きのメロディーが乱舞してるのに、あまり入ってこないというか、あまり認識できないというか。
本作のみに参加の女性シンガーMarina Zrilić女氏の歌唱は結構多彩だと思います。地声からファルセットまで、時に力強く、時に繊細に、抑揚をつけながら聴かせてくれます。・・・がその表現を頑張る一方、技術的に追いつかないのか分かりませんが、全体的に安定感に欠けるような感じもちょっとあって残念な気もします。
でもでも、個人的には、その危うさがなんというかちょっとメンヘラっぽい狂気を匂わせてるようにも聴こえるので、その点ではゴシックメタルというジャンルにマッチしてるんではないか、とも思いますね。
有名フィーメイルものバンドのシンガー達、神懸かり的に巧いというか、奇跡的な美声の持ち主みたいだったりして、それはそれで磨き上げられた美しさを放って良いんですが、このMarina Zrilić女氏の歌にはそうではない、ある種の垢抜けさがあるんではないかと。
時折輝くも、やや散漫
各曲単位で聴いていった時に、本作収録曲のほとんど全てが、1曲全体を通してお気に入り認定できるのものが見当たらなくて・・・個人的に奇妙な現象でした。
曲の一部分というか、展開の一つ一つに印象的な所が時折現れるけれど、曲全体となるとどうも散漫な感じなのかもしれません。
ここではよくよく聴いて発見した、印象的だった曲というか瞬間を覗いてみましょう。
2曲目は変拍子を使うパートのドラムとギターが、多分合ってない、問題の曲。その瞬間はリズムが狂うので、なんだかめまいがしそう。でも曲後半はなかなかドラマティック。キーボードの音色が薄いのが残念ですが、その悲しげなメロディーと、ギターの刻みとヴァイオリンの掛け合いが、メロウに吹き抜けていく秋風のようです。
タイトルトラックでもある3曲目”Fire”は、本アルバムで最もキャッチーでストレートな構成の曲になるでしょう。アップテンポ気味で少し弾ける様なリズムと、割とポップ風な歌メロが聴ける、いわゆるフィーメイル・ゴシック系の王道的曲調。
どろどろとした、メロウでドゥームなタッチの4曲目に続いて、多分本作のハイライト曲といってもよさそうな泣きを持つ5曲目が続きます。メランコリックで物悲しく、しかも全く救いの無い慟哭の風景。これは悪夢というかトラウマ的というか、ジワジワと心に暗い影を落とすような雰囲気で素晴らしい。
6~7曲目と、ラストの8曲目の後半までは、またちょっととりとめのない感じで曲が進んで行きます。瞬間的に正統派っぽいパートもあったり、ある種アヴァンギャルド風っぽかったりしながら。
そして8曲目ラストのリフ、これだけは、ながら聴きでもはっと耳を引きました。ただ、この展開でいよいよバンドの本領発揮か?とわくわくする瞬間、曲が終わり、アルバムはエンディングを迎えるという・・・。なんだか盛り上がった瞬間にプツリと切れてしまう感じでした。なんだか残念。
言葉にならない○○
悪くないけど、これといって印象的なところはそれほど多くない―。
本作を印象を改めて一言で表現するなら、やはりこういう事になるでしょうか。なんだかやっぱり、華が無い感じというか。
そしてこういうのが一番、こんな風に文字にして表現しようとすると大変だったりします。
これ書くのに結構な回数繰り返して聴きましたが、何度聞いても、アルバム全体のぼんやりした印象が深まるばかりで、それぞれの曲のディティールが全然入ってこないというか。。。
じゃあつまり単純に取るに足らないやつってことでしょう、と言えばそれまでなんですが、たとえそうでも(実際そうかも)、ここではバルカン産メタルということで、微妙ならその微妙さを掘り下げたい。
自分に表現力がもっとあったらと悔やまずにいられませんが・・・やはりこれだけ聴いてあれこれ言葉を練っても全然形になってこないというのは、個人的にもなかなかレアというか。
その点では、自分史上最高レベルの、淡々と滑り落ちてくフィーメイルゴシックといえるかも知れません。印象に残らない美学?そんなものあるのか分かりませんが、ひたすら幽玄でつかみどころのない、でも言葉にならない魔力が、ちょっとだけ漂う、不思議な1枚になりました。
amazon様
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