[レビュー]The Stone – Магла(The Fog)(セルビア/ブラックメタル)
セルビアの首都ベオグラード(Belgrade)出身のベテランブラックメタルバンド、The Stoneの4thアルバム。2006年作品。改名前のStone To Flesh時代の作品を除くと、3rdアルバムという事になります。
本ブログでは”Словенска крв(Slovenska Krv)”アルバムに続いて、2作品目のレビューになります。そのうち全ディスコグラフィーを網羅できるといいな、と。
↓こちらもよければ参考にどうぞ
[Review]The Stone – Словенска крв(Slovenska Krv)(セルビア/ブラックメタル)
関連情報いろいろ
キリル文字に馴染みのない、自分みたいな人間にとっては解読不能なアルバムタイトルは、セルビア語のアルファベット表記で、Magla。英語にすると、The Fogになります。またジャケ内には、Slavonic Order Of Hatredと書かれてます。
楽曲には、そこはかとなくペイガン風の香りも漂っているのですが、Slavonicと表現するあたり、やはりそういう要素も意図されてるんでしょうか。。
本作の全ての曲タイトルと歌詞はセルビア語なのですが、アルバム背ジャケには、タイトルの英訳が表記されていて、
1. The Fog
2. Testament Of Father Ariy
3. The Law Of Force, The Triumph Of Death
4. As The Destruction Of Inevitable Is Coming Forth
5. The Plague / Silent Melody Of The Choir Of The Dead
6. Moon’s Ray
という感じの全6曲になってます。
ただ彼ら自身は、こういう翻訳にはやや否定的な立場をとっている様です。インタビュー記事によると、彼らは英訳がなされることでリスナーを引き込むことが出来ればいいとしつつも、それはほとんど不可能だと。
というのは、セルビア語の歌詞を元の意味を保ったまま英訳するのは難しいからなんだそう。とりわけ詩的な表現になるとなおさら、ということで、残念ながらセルビア語を理解できない人にとっては歌詞の意味することを理解できず、またそれは避けられない、としています。意味取り違えてなければ。。。
バンドメンバーについては、中心人物でありメインのソングライターのKozeljnik氏と、件の歌詞を手がけるヴォーカルのNefas氏、この2人に加えて、新たにセカンドギタリスト(レコーディングではベースも一部担当)のDemontras氏が加入。彼は同郷のブラックメタルSamrtや、Kozeljnik氏の別バンドでもあるMay Resultにも関わっているようです。
また本作では同時にキーボード担当(兼ライブベーシスト)としてUrok氏も加入し、過去作品に比べて強力なバンド編成になったといえるでしょう。・・・彼もMay Resultつながりですね。
ドラマティックな進化を遂げたThe Stoneサウンド
ということで、より充実した編成のもとに生み出された本作、一体どんなブラックメタルを聴かせてくれるのでしょう。
鳥のさえずりが聴こえ、一瞬平和でのどかな空気に包まれたかと思いきや、すぐに霧立ちこめる闇の森へ足を踏み入れ、徐々にその魔性があらわになる、そんなドラマを感じる1曲目。中盤以降の、跳ねるようなリズムで勇壮に展開するあたりが個人的にツボ。
2曲目は、なんというかちょっと人を食ったような、語弊を恐れずに言えばちょっと妖しくてコミカルなリフ・メロディーが印象的な曲。また中盤の、うっすらとしたキーボードのサウンド+トレモロリフの組み合わせが神秘的です。ダークでミステリアスで、美しい。
続く3曲目はドカドカとしたブラストビートから始まり、呪術的な?リフで目がくらむようです。でもやっぱり中盤にはちょっとヒネリの効いた展開がまっていて、ここではなかなかメロウなメロディーが聴けます。
4・5曲目も同様に、アグレッシブだったりメロディアスだったりいろいろ展開しながら進んでいくのですが、このあたりでちょっと中だるみ気味になってくる感じで・・・悪くはないのですがコレといって印象に残るパートも少なくて、本作が地味に思える理由があるとしたら、それはこのへんが原因かもしれません。
そしてラストは10分の長尺曲。イントロのメロディアスなリフはやっぱり怪しい雰囲気がたっぷりで、そこからぐるぐると、魔の迷宮に翻弄されます。ちょうど折り返しの5分過ぎからは、きっとエンディングに向けた展開になっているんでしょう、重苦しくダークなリフが繰り返され、徐々にフェードアウト。最後に残って聴こえるのはほわんとした質感の淡いキーボードのヴェール。暗闇の饗宴が過ぎ去り、また霧が辺りを覆って、幕を閉じます。
全6曲と、トラック数は少ないのですが、各曲それぞれ6分から、長いもので10分と大作ぞろいなのが、本作の特徴的なところ。その中にいくつかの展開を設けて緩急織り交ぜてドラマティックに曲が進んでいきます。
曲が長いというと、プログレ的なものを想像するかもしれませんが、そういう難解さはあんまりないと思います。ややキャッチーさに欠けるような気もしなくもないですが、基本はオールドスクール由来のリフだったりリズムだったりで構成されていて、そういったパートの組み合わせで曲が長くなってるだけ、というか・・・。
The Stoneの独自性を確立した名盤(?)
聴いてて気付くのは、(Slovenska Krvアルバム比で)ずいぶんと音質に厚みが増し、クリアさも向上した点。まだ音の輪郭みたいなあたりは不鮮明で、もこもこした感じもあるのですが、もう何やってるか分らないなんて事はない音質になっていますね。
逆にクリアすぎてブラックメタルらしい怪しさが失われる、みたいな事にもなっていないので、個人的にはちょうどいい仕上がりの音だと思います。実際よく思い起こしてみても、似た音の例えが思いつかない感じで、その意味では、彼らは本作から独自の音世界を見出した、といっても良いのかも知れません。
また全編を通して、独特の妖しげな雰囲気が統一して聴かれるのも、ポイントのひとつといえるでしょう。文字にするのは非常に難しいのですが、やはり東欧らしい影のある雰囲気だったり、あんまりストレートじゃないメロディ感だったり曲構成だったり。ええと、evilというよりはstrangeとかmysterious、satanic ritualというよりはforest of curse、みたいなイメージ???
つまり悪く言うとあんまりキャッチーじゃなくて、”つまらない”とか、”地味”と紙一重な気もするのですが、でもやはり独特のセンスが随所に感じられていて、個人的にはそれこそが東欧感というか・・・辺境らしさなんではないかと捉えてます。
そしてそれこそがThe Stoneの独自性だったり個性だったり・・・を生み出す要素なのでしょう。本作はそのThe Stone節みたいなものをよりはっきりした形で確立・表現してみせた、強力な1枚だと思います。
参考にしたインタビュー記事↓
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