[レビュー]Jenner – To Live Is to Suffer (セルビア/スラッシュメタル)
セルビアのベオグラード出身のガールズ・スラッシュメタルJennerの1stフルアルバム。2017年作品。フランスのInferno Recordsからのリリースで、1000枚限定らしい。2023年にはFighter Recordsからボーナストラック入りのリイシュー盤も出てますが、ここではInferno盤でご紹介です。
関連情報
彼女らJennerは2013年にセルビアの首都ベオグラードで結成。これまではデモ1作、ここで紹介するフルアルバム1作と、2020年のEP1作をリリースしています。
バンド名の由来は、天然痘ワクチンの生みの親Dr Edward Jennerからだそうです。ギタリストのAleksandra女氏が微生物学を学んでいたところこの名前を思いつき、ロゴのデザインも手掛けたんだそう。
当初からガールズバンドとして活動を始めていたそうですが、結成当時はハードロックバンドとしてのスタートだったようです。
何度かのメンバーチェンジを経る中で、音楽的にはハードロックから、より速くヘヴィなサウンドを志向するようになり、OverkillやExodus、Anthraxといったバンドをカヴァーするようになっていったんだそう。
そして2015年には2曲入りのデモをリリース。ここで収録された”On the Judgement Day”と”Hear the Thunder Roar”は後の1stフルアルバムでも収録されることになるのですが、ここで既に彼女らJenner流スラッシュメタルはほぼ確立されていたといってよさそうです。
当時の編成は・・・結成メンバーでもあるAleksandra Stamenković(ギター、ソングライティング)、Marija Stamenković(ドラムス。後婚姻によりDragićević姓に。)というStamenković姉妹に、Mina Petrović(ベース)、Anđelina Mitić(ヴォーカル)という4人。
そして2016年にはデビューアルバムとなる本作、”To Live Is To Suffer”のレコーディングを、セルビアの名門Citadela Sound Productionにて開始。レコーディングでは、ドラマーのMarija Stamenkovićが産休のためにバンドを離れており、代わりに同郷セルビアのガールズメロデスNemesisから、Selena Simićが参加しています。
様式美スラッシュメタルのセンス
全体に骨太でスリリングなスラッシュメタル。スピード感や攻撃性も十分ですが、爆裂感というよりはどちらかと言えばヘヴィメタルの王道を行く様な鋼鉄感だったりマッチョ感といったタッチをスラッシュメタルの勢いでまとめ上げたような印象です。
曲ごとの個性もよく練られていて、聴いてて飽きないアレンジもデビュー作とは思えないほど秀逸。そのあたりはメインコンポーザーであるAleksandra Stamenkovićのメタリックなセンスによるところが大きそうです。基本スラッシュメタル的な刻みと緊張感、時に正統派メタルのような鋼鉄の様式美、みたいなバランス感覚は、きっと彼女が影響を受けたと語るJudas PriestやAcceptからExodusあたりのスラッシュ勢のエッセンスという事なのでしょう。。
ベースのボヨンとしたイントロから、ダダンと幕を開ける本編1曲目。最初からスリリングなツカみとフックを持つスラッシュチューンの登場に、思わず笑みがこぼれそう。中盤以降ではエモーショナルなギターソロが楽曲をさらに盛り上げて、スラッシュメタルのみならず、正統派ヘヴィメタル的な格好良さも見せつけてきます。
一瞬デスメタルかと思うような粘り気の冒頭のリフにニヤリとしそうなタイトルトラック2曲目。コーラス部のギターリフや、”Hear the thunder roar!”の叫びが非常にキャッチーで、きっと1度聴いたらすぐ覚えて一緒に叫べそうでナイス。Anđelina MitićによるヴォーカルはどことなくSinergyのKimberly Gossを思わせるような歌声と歌唱ぶりですね。
不穏な響きのギターリフに、スタスタ刻まれるリズムがスリリングな3曲目。どこか押し殺したような、ちょっとニヒリスティックな雰囲気のヴォーカルパートと相まって、ヒリつくような感触を残します。
これぞスラッシュ/スピードメタルといったアツい疾走感で駆け抜ける4曲目。サビのパートの歌メロは非常にメロディアスかつキャッチーで、これも1度聴いたらすぐに印象に残りそうなインパクトがあって素敵です。正統派な格好良さの一品ですね。
彼女らJennerによるスラッシュ爆撃はなおも続き・・・ザクザク刻まれるリフが非常に心地よい5曲目。この刻み感とスタスタ打ち鳴らされるドラムスのリズムのスリリングさがまさにスラッシュメタルの醍醐味ってもんで、好きな人にはたまらん1曲になってると言えるでしょう。
6曲目は中盤以降でスローダウンしてから一転ドラマティックなギターソロになだれ込むあたりが素敵。ヘヴィメタルらしい様式美が光ってて、ここでも彼女らの楽曲センスに舌を巻きます。スラッシュ炸裂だけでなく、緩急のつけ方と流麗なギターソロ、そして楽曲構成の美学がお見事。
ここでもスタスタと疾走感と同時に緊迫感が漂う7曲目。ギターリフの端々が妙に気味悪げな音階を奏でててますが・・・どことなくTestamentのリフ使いのような感触も。
ラスト8曲目は本作でも屈指テンションで突撃型スラッシュを全開でキメてみせる一品。恐れずに言えばSlayerみたいな振り切りっぷりに近いかも知れません。高速で刻まれるリフとリズムは、ヘッドホンで聴いてると耳が幸せになること必至。そうして畳みかけるリフの嵐に、容赦なく切り込んでくるギターソロで息つく暇を与えない猛攻ぶりです。
超優等生・女流スラッシャーの痛快作
ということで、非常にクオリティの高いスラッシュメタルで聴く者を驚かせそうな全8曲37分。
セルビアって優良スラッシュメタルの宝庫だと勝手に認定していますが、彼女らJennerもその例にもれず、とてもセンス良くスラッシーな攻撃性と、メタリックな様式美っぽさをまとめあげてきてて舌を巻きます。
もはやガールズバンドであることは関係なしで、セルビアから世界にその名を轟かすことのできそうなポテンシャルを感じるバンドな気もしますね。良くも悪くももっとポンコツとか微妙バンドは山ほどいますから。。。
そして本作の後にはいよいよ、2ndフルアルバムのリリースが控えているので、どうかバンドがさらなる飛躍を遂げることを期待したい。さらに、本作のボーナストラック入りのリイシュー盤がFighter Recordsから発売されているので、それと合わせてみんなで聴きましょう。
Amazon様↓
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