[レビュー]Dickless Tracy – Halls of Sickness (スロヴェニア/グラインドコア・デスメタル)
- 2021.12.07
- スロヴェニア
- Death Metal, Dickless Tracy, Grindcore, Review, Slovenia, グラインドコア, スロヴェニア, デスメタル
スロヴェニア出身のグラインドコア/デスメタル、Dickless Tracyの3rdフルアルバム。2009年作品。スロヴェニアの音源リリースの多くを手掛けるOn Parole Productionからのリリース。
関連情報
Metal Archivesによれば、バンドの結成は1997年とあるので、結構長いキャリアを持つ彼ら。
Tomi “Tzeppo” Cepanec氏と、Ivan “Tegla” Cepanec氏という同姓を持つ2人(おそらく兄弟?)がバンドの中心となり結成されたものと思われます。結成当初から現在までこの2人はずっと在籍、バンドの原動力の役割を担い続けていますね。
バンドの始動後は数多くの、というかほとんど数えきれない程の数のスプリット盤をこれまでにリリースしている傍らで、1999年には1stフル、”The New Domination”を、2001年には2nd”Of Light and Darkness”をリリースしています。
2004年から2005年にかけてはスロヴェニア国内のフェスに出演したり、Necrophagia, The Crown, Benediction, Groinchurnといったバンドのサポートも務めてたらしい。他にも近隣のバルカン諸国でも演奏してるベテランということになります。
そして2009年にリリースされたのが3rdアルバムとなる本作”Halls of Sickness”。当時の編成は前述のTomi Cepanec氏(ギター・ヴォーカル)とIvan Cepanec氏(ドラムス)という2人と、Luka Vrbančić氏(ベース)というトリオ編成。どうやらベーシストは結構流動的に入れ替わってる様です。
このアルバムの後は、2014年に4thフル”Paroxysm of Disgust”を、2021年には5thアルバム”Grave New World”をリリース。コンスタントに活動を続けていて、もはやスロヴェニアの大ベテランのグラインド/デスと言って良さそうです。
放ち、飛び散る湿り気と粘り気の。
さて、そんな彼らDickless Tracy。筆者は本作が初聴き作品という事になるのですが、全体的にはオールドスクール系デスメタルを下敷きに、Carcassあたりのグラインド感というかドロみで仕上げたデス/グラインドみたいな印象。
例えばNapalm Deathみたいな爆裂グラインドコア感というよりは、水っぽい湿り気と粘っこさみたいな質感がCarcass的に聴こえます。個人的にはそういうジメジメ系のデスメタル聴いてる印象の方が濃いめかも知れません。
音作りはクリアでいながら、ギターやドラムス共に、どこか引きずるような感触があって、そのあたりが上記のドロみや湿り気を生みだしてそう。とりわけドラムス、というかスネアのバシバシ感は音のキレよりも響きのファットさが強調されてて、ブラストビートやロールの時等々、連打した時の重層感?がヘヴィです。
楽曲はファストなリズムあるいはブラストビートを交えて炸裂するパートと、ドロドロ&クルーヴィなスローパートが行ったり来たりの、ストップ&ゴー型(?)。そのあたりの突拍子のなさはグラインドコア的なのかな、とも思ってみたり。
ドシドシ打ち鳴らされる重ったるいブラストビートと、ジメジメしたギターリフのうごめきが印象的な冒頭1曲目。中盤では一瞬ハードコアっぽい疾走を聴かせたりもして、キャッチーさにも配慮されてるのかな。ヴォーカルはウェットな低音グロウルで、ドロみ成分ちょっと高めなバンドサウンドに貢献してます。
2曲目はトレモロリフのハモリがどことなくCannibal Corpseみたいな病んだ哀愁。ドカドカと疾走するパートを配置しつつも、全体を覆うのは不穏で閉塞感たっぷりの地下臭というか、怪しい密室の香り。
ファストなビートで畳み掛ける炸裂感を発揮する3曲目は、いい意味でもっさりしたスローパートとのコントラストが際立つ一品。なんだか炸裂&疾走してる割に、速度感が薄いのは、彼ら特有?の重くるしい音作りによるのか・・・重くてどろどろしたものが、ねばねば異様な動きで徘徊して回ってるみたい。
そんなドロみのコアっぽいリフを中心に、あれこれ展開を設けて進んでいく4曲目に、ブラスト爆発とグルーヴィなスローパートがいい感じの緊迫感で繋がる5曲目。
作中で個人的に1番のお気に入りなのが7曲目。低音のトレモロリフや、ゲコゲコ鳴るギターリフのうねりが心地よくジトジトと迫り、続けざまに再びファストに畳み掛ける怒涛の展開が作中でも屈指の狂暴性を放ちます。
こんな具合のファスト&スローが行ったり来たりの楽曲が、どろりとした何かをまき散らしながら襲い掛かかります・・・
やや地味ながら香しいデス/グラインド
聴いてるとやっぱり基本はどろどろ方面のデスメタルの質感が濃厚でしょうか。そこにグラインドコアの刹那的&衝動的炸裂感をプラスしたみたいな。
なのでブラストビートに載せて爆走してる瞬間なんかが特に、不快で粘っこいモノが方々に飛び散ってる感触がスゴイ。ほら、濡れたタオルを振り回すと雫が飛ぶでしょう。。。そんな風にまるで打ち出された不快があちこちにぶちまけられてるような感触というか耳触り。
そんなデス/グラインド方面的な「いい香り」の一方で、実は聴いてて全体的に地味っぽいのも否定できないのが玉にキズ。
雰囲気はとてもいい感じなのに、ここだ!って強烈に刺さる瞬間に欠けるのが少々残念でもあります。
総じて、いい雰囲気のデス/グラインドで、集中して聴き込むというよりは、BGMに流すのがマッチしそうです。そうするとほら、その空間に素敵な、かび臭い地下臭と湿り気が立ち込めるという、香ばしい全10曲です。
-
前の記事
[2021/12/05放送分 Radio WWHYH ]バルカン産ブラックメタル特集プレイリスト&録音音源[Undergrand Radio] 2021.12.07
-
次の記事
[レビュー]Svartgren – Prazan grob (セルビア/ブラックメタル) 2021.12.17