[バルカンの音レビュー]Divanhana – Zukva(ボスニア・ヘルツェゴビナ/フォーク・トラディショナル)
ボスニア・ヘルツェゴビナのフォーク・トラディショナルグループ、Divanhanaの3rdアルバム。2015年作品。幸運な事に中古で数百円でゲットできたコレは、バルカン地域向け盤だそうで、ワールドワイド向けには、ジャケ違いのものが流通してるようです。微妙に収録曲も違うのかな。
実はこのバンドというかバルカンのフォーク・トラディショナル音楽については、ほとんど予備知識も無い状態なので、あれこれ調べながらご紹介できたらと思います。
ボスニアのフォーク -Sevdah/Sevdalinka-
バンドの公式HPの言葉を借りると、彼らの音楽はジャズやポップスなどの要素を盛り込んだトラディショナル・フォーク。バルカン地域、特にボスニア・ヘルツェゴビナでは特定のスタイルのフォーク音楽をSevdahあるいはSevdalinkaと呼ぶらしく、彼ら自身自らを、”Sevdah Band”と名乗っています。Sevdah/Sevdalinkaはカタカナ表記にすると、セヴダー/セヴダリンカという感じになるでしょうか。
Sevhahについては、その起源や歴史、作曲者やはっきりと分かっていないことが多いようです。ざっくりと捉えようとするなら、おそらく中世に起源を持つ、オスマン帝国と西ヨーロッパ双方の影響を受けた伝統的音楽群、と表現できるかもしれません。
メランコリックでありながら時に情熱的なメロディーに乗せて、悲しい恋や愛の歌が歌われる、というのが典型的なスタイルのようです。実際何度か、ボスニアやセルビアの英会話講師とSevdahについて話してみたのですが、概ねそんな説明だったように記憶しています。
それから曲については、伝統的に歌い継がれ現存してるものに対して、SevdahあるいはSevdalinkaの呼称が使われているっぽくて、本アルバムに収録されている曲にオリジナルのものは無いようです。つまり、Sevdahの曲たちというのは、彼らDivanhanaをはじめ、様々なグループやシンガーたちに、いろいろなアレンジで歌い継がれている、という事になりますね。
実際、アルバム収録曲名をYoutubeなんかに打ち込んでみると、いろんなミュージシャン達が様々なアレンジで演奏しているのを聴くことが出来ます。そうやってちょっとした違いを見つけるのも面白い。
Divanhana
・・・と、Sevdah/Sevdalinkaについて少し理解したところで、次はグループについて見てみましょう。
公式HPによるとグループの結成は2009年。2011年に1stアルバム“Dert”をリリース。このアルバムに収録された楽曲のうちいくつかは、それまで音源として収録された事がなかったものだったという点が、リリースの強力な後押しになったという経緯もあるんだとか。
スウェーデン、ドイツ、チェコ、トルコなどでライブを行う一方、楽曲製作も精力的に行われていたようで、2013年には2ndアルバム“Bilješke iz šestice”をリリース。この作品に伴うコンサートは13カ国、70回に及んだそう。
そして2015年には本作“Zukva”のレコーディングが行われ、同年にリリース。本作は旧ユーゴスラヴィア地域だけでなく、全世界に向けたリリースとなりました。
本作のリリースに至るまでのバンドの歴史はざっくりとこんな感じ。その後本記事執筆の2019年までに彼らはライブ盤と、続くスタジオアルバムをリリースしています。
さらりとした質感に閉じ込めたバルカンの香り
あれこれとボスニアのSevhalinkaのこと、Divanhanaのことを書いてきました。ようやくですが、本作“Zukva”を聴いてみましょう。
全体の印象は、とにかく聴きやすいという事。トラディショナル・フォークというと、そのトラディショナル具合が強くなればなるほど、聴き慣れないアクの強さを感じてしまうように思いますが、本作はそのあたりの加減が見事。自分みたいな、ほとんど初聴きなSevdah初心者にはぴったり。
それはきっと、全体のアレンジが聴いているんでしょう。いわゆるワールドミュージック的というか、昔流行ったImagineシリーズ的というか・・・ポップ・ジャズ時々ボサノヴァ(?)風なアレンジや楽器の編成で、さらりと涼しげな質感で彼らの音楽を聴かせます。
そしてそのうえで、クドくなり過ぎない絶妙な加減で、しかしはっきりとSevdahのメロディやバルカンのスパイシーさが香るという・・・。トラディショナル・フォークの現代風アレンジ、といっても良いのかもしれません。
全編を通じて、とりわけボスニア風というかバルカン風な風合いを感じるのはメロディーにおいて、という事になるでしょうか。例えば女性ヴォーカルのそれらしい歌いまわしだったり、アコーディオンやヴァイオリンのエキゾチックな音階だったり。
そう、メインシンガーはLeila Ćatićという女性によるのですが、その歌声にもきっと非常に聴きやすいバランスがある気がします。基本的には柔らかく澄んだやさしい歌声ですが、情熱的なパートでは十分に力強く、それでいて繊細さを失わないという見事さです。
個人的には、静かにしっとりとメロディーを聴かせる曲達も捨てがたいですが、本作の聴きどころはやはりアップテンポな曲だと思います。
(メタルが主食の自分としては・・・汗)裏打ちのリズムがどうしても耳を引くのと同時に、ダンサブルで情熱的で、オスマン風の(?)スパイシーなメロディーがスリリングで、ちょっとコミカルで時々メランコリック、みたいなブレンドが素晴らしい。
非常に聴きやすくキャッチーでありながら、バルカンあるいはボスニアの、そしてSevdahの要素をきっちりと伝えてくれる素敵な作品で、とても楽しめました。
Amazon様↓
メタル的余談
以前に本ブログでは、ボスニアのメロディックブラック・デスのSilent Kingdomを紹介しているのですが、彼らはメロブラ・デスにSevdahの要素を組み合わせたスタイルをやってます。
実はなかなか彼らのSevdahの要素ってのが理解できずにいたのですが、Divanhanaの作品がSevdahの感じを理解するのに大いに役立ちました。さらにはおかげでSilent Kingdomの作品中にちりばめられてる独特のメロディーが確かにSevdah的なものであると気づくことができました。
実際、最初はなんかよく分からないメロディーがうにょうにょ言ってるメロブラ・デスだなあという印象だったのが、あぁこれは確かにSevdahメロデスだなぁ、と。
だから何、というのは特にありませんが、ご興味のある方はそのあわせてチェックするとより理解が深まるかも知れません。
[Review]Silent Kingdom – Bloodless (ボスニア・ヘルツェゴビナ/メロディック・ブラック・デス)
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