[レビュー]Avenger – Feast of Anger / Joy of Despair (チェコ/ブラック・デスメタル)
- 2019.12.12
- チェコ
- Avenger, Black Metal, Death Metal, Review, Serbia, セルビア, チェコ
チェコ共和国出身のブラック・デスメタルAvengerの4thフルアルバム。2009年作品。Discogsから大量に購入したものの1つで、リリースはセルビアのGrom Recordsから。
ここかThe World Won’t Hold Your Handブログでは主にバルカンのメタルをご紹介していますが、何故チェコのバンドを紹介しているかというと・・・
Grom Recordsからのリリースという事からも分かるとおり、このAvenger、というか(おそらく)中心人物のHonza Kapák氏はセルビアのブラック・デスメタル界と非常に密接な関わりがあるのです。
事実上セルビアのメタル界の重要人物の1人と言っても過言ではないHonza氏関連のバンドになるので、ここで取り上げないわけにはいかない、というわけです。
セルビアメタル界の超重要人物Honza Kapák氏率いるブラック・デス
Honza Kapák氏とセルビアのメタル
まずはセルビアのブラック・デスメタルシーンとHonza氏の関わりについて見てみましょう。
筆者自身、彼が関わった全ての作品を網羅できているわけではないのですが、これまで本ブログでご紹介してきたいくつかの作品にも、彼が関わっています。しかも結構な大御所ぞろいで、ほとんどセルビアのシーンは氏の存在なしには語れないといっても過言ではないかもしれません。
本ブログで紹介した中で氏が関わっているバンドを挙げると、ブラックメタルのThe Stone、Khargashや、ブラック・デスのBane。
他のセルビア産バンドでは、現時点で未紹介あるいは未聴のものでデスメタルのInfest、ブラックメタルのOphidian CoilやMurderなどなど。気付けばあちこちに氏が関わっています。
セルビア産モノ以外でも、ドイツのNargarothやUSのKriegやJudas Iscariot(!!ライブですが。)まで。。いや全く凄まじい顔の広さではないでしょうか。しかも氏は本国チェコの重鎮Master’s Hammerの現メンバーでもあるという・・・。もはやセルビアだけにとどまらず、東欧ブラックメタルにとって欠くことの出来ない人物なのでは。。
ちょっとそのうち、彼の関連作品まとめて特集でもしたほうが良いんじゃないか?という程。
これまで紹介したHonza氏関連音源は↓などなど
[Review]The Stone – Teatar apsurda (セルビア/ブラックメタル)
[Review]Khargash – Pathway Through Illumination(セルビア/シンフォニック・ブラックメタル)
[Review]Bane – Esoteric Formulae(セルビア/メロディックブラック・デス)
Avenger関連情報
そんな恐るべきキャリアを持つHonza氏率いるこのAvengerの結成は1992年。Metal Archivesによると当時はAstarothと名乗っていたようです。
1993年にバンド名をAvengerに変えてから、2017年にさらにバンド名をBohemystへ変更するまでの間に、フルアルバムは6作リリースされていて、本作” Feast of Anger / Joy of Despair”は4作目になりますね。
結成時から在籍しているのはHonza氏(ギター・ヴォーカル)と、Master’s Hammerの現ベーシストPetr Rámus Mecák氏(ギター)の2人のようで、加えてSinneral氏(ベース)とVenca氏(ドラムス)が本作のレコーディングメンバーになります。
レコーディングはHonza氏が所有するHellsound Studioにて、自身のプロデュースによって行われていて、しかも本作の楽曲と歌詞の全てがHonza氏の手によるもの。・・・ということはこのHonza氏、ギター弾けて曲も書けて、Baneの作品などなどで聴ける鬼のようなドラミングも出来て、自分のスタジオ持ってて、Master’s Hammerのメンバーで、セルビアのメタル界の重要人物で・・・なんという恐るべき完璧超人><
これはいつか他の作品も聴かねばなりません。必ず。
重厚なるスウェディッシュ風?
・・・ということで、ほとんどブラックメタル界のスーパーエリートとも言えそうなHonza氏率いるこのAvenger。一体どんな音なのでしょうか?
全体的な音楽の質感やイメージは、個人的にはスウェーデンのデス/ブラック勢による作品のテイストに近い気がします。単音のリフやメロディーなんかが特に。そしてほのかに香る重厚なミステリアスさが東欧風な気がしなくもない、という印象でしょうか。
ブラストビートをはじめとした爆裂パートもちりばめられていますが、本作で印象に残るのは、ぐつぐつと何かが煮えたぎるようなスロー・ミドルパートのディープな重厚感です。そして時おり、前述したスウェディッシュ風のメロディーが時にアツく、時にメロウにアクセントをもたらします。
深淵を覗き込み、その奥で燃え上がる何かを目の当たりにするような冒頭部分を持つ1曲目。疾走パートをはさみつつも、主題となるのは深く堂々たるミドルテンポのリフで、恐るべき何かの到来を思い知らされます。・・・とはいえ例えばドゥーム方面ほどねっとりとはしていないので、なんというか、威風堂々としたたたずまい、という感じでしょうか。切り込んでくるアコースティックギターの音色がメロウなコントラストを生んでいます。
2曲目は冒頭のリフがArch Enemyの、確か”Burning Angel”にちょっと似てる、これもミドルテンポ主体の曲。どろどろと進行した後はちょっとモノトーン風のリフと高速ビートで疾走。このあたりはブラックメタル感が強く出ているような気がします。Honza氏のヴォーカルは中音絶叫系?だと思いますが、比較的普通?かな。
短いインストを挟んで4曲目。この曲は完全にスロー・ミドルテンポで重厚に聴かせる曲ですが、その分はっきりとした展開が分かりやすく、派手さは控えめながら案外ドラマティック。キメのメロディーが地味にアツい。
続くタイトルトラックの5曲目は、これもミドルパートが多めでディープに曲が響いてきますが、中盤の盛り上がりが格好良い。語弊を恐れずに言えば、ある種メロデス的とも言えそうな、あの感じです。裏打ちビートの疾走感に乗る力強いメロディー。その一方で曲の終わりに聴こえるのは、どことなく破滅の香り。
そしてなんだか押しつぶされそうな緊張感の漂う雰囲気の6曲目。これも再びミドルパートがメインで重低音の圧力が聴く者に襲い掛かります。やはりメロディー感に加えて、曲構成もスウェディッシュな気がしますが・・・一体何がそうさせているのかを表現するのは難しい。。。
6曲目のエンディングから続くインストの7曲目は、なんだかトラウマティック(?)にシームレスで8曲目へとつながっていきます。
その8曲目はちょっとこれまでの曲の中では最もドゥーミーなテイストかも知れません。ちょっとエコーがかった様なヴォーカルの叫び声が、まるで精神を破壊しに襲い掛かる様。ここでも、地獄の業火が燃え盛っています。
そしてラストの9曲目。これはたぶん本作の曲の中で最もアグレッシヴな曲になると思います。曲冒頭からブラストビート全開で、これまでふつふつとたぎらせていたモノを一気に開放させんばかりの勢い。それでも背後にはうっすらとブラック・デスらしいメロディもあって、ただブルータルなだけではない色合いが存在しています。最後にいったんのタメを作った後のブラストビートは、ほとんど無慈悲に荒れ狂う炎の嵐で、消し炭になりそう。曲がフェードアウトして、残るのはただただ焼け野原。
まさにHellsooundな逸品
そういえば音質について触れてませんでしたが、Honza氏所有のHellsound Studioで自身のプロデュース、という点ではまさに自家製なその音は・・・
ギターサウンドはちょっと輪郭をぼやかせた感じの音作りで、低音もデスメタルよろしく結構効いているので、音の壁がせり立つような雰囲気。そのへんが独特の屈強なイメージを生んでいるような気がします。
地獄の業火が燃え盛るような、云々といった雰囲気はたぶん、この音づくりによるところも大きいような。ちょっと違いますが、マッシヴな感触は少しだけポーランドのBehemothのそれに近いようなそうでないような。
本作を聴いてると、速くてアグレッシヴなだけがブラック・デスの方法論ではない事を見事に見せ付けてるような、そんな気もしてきます。重厚で、まさにHellsoundな味わいを持つ一品で、Honza氏の才能を見せ付けます。お見事です。