[レビュー]Evolucija – Igra počinje(セルビア/フィーメイル・ゴシックメタル)
- 2022.11.17
- Metal Reviews
- Evolucija, Gothic Metal, Review, Serbia, セルビア, メロディック・メタル
セルビア出身のフィーメイル・ゴシックメタルEvolucijaの2ndフルアルバム。2016年作品。前作に続きセルビアのTake It or Leave It Recordsからのリリース。Discogsで現地セルビアのセラーからお取り寄せの品。
関連情報
バンドの結成は2007年。ベーシストでバンドの中心人物となるDragiša Marinjes氏とその2人の息子さんたちと共に結成。当初はスイスが活動の拠点だったそうです。
同年には1stフルアルバムとなる”Baklja slobode”をリリース。本ブログでも紹介していますが、EvanescenceやWithin Temptationあたりを下敷きにしたシンフォニック・ゴシックを目指した作品でした。・・・が実は(?)結構な問題作かも、という逸品で、気になる詳細はぜひアルバムの紹介記事をご参照ください。
この1stアルバムの後、2012年にはバンドは活動の拠点をスイスからセルビアに移しています。セルビアに拠点を移すのに伴って、仕掛け人のDragiša Marinjes氏以外のメンバーはすべて交代しています。
ある種の再結成・再始動とも言えそうな新生Evolucijaとしての作品が、本記事でご紹介する2016年の2ndアルバム“Igra Pocinje” (“the game begins”)です。
バンドの編成は仕掛け人のDragiša Marinjes氏(ベース)に、氏の奥様であるIlana Marinjes女史(ヴォーカル)、Branimir Kojadinović(ギター)、Stevan Miletić(ギター)、Marko Marković(ドラムス)という5人。
アルバムブックレットによると、レコーディングは2014年から2015年にかけて、セルビア中部の都市Kragujevac(クラグイェバツ)で行われたそうです。・・・が全部セルビア語表記なので解読が難しい。
デビュー作となる前作”Baklja slobode”は前述の通りかなりの問題作と言わざるを得ない作品でしたが、やがて10年の時を経て新生した彼らEvolucija、この待望の2ndアルバム“Igra Pocinje” では一気に垢抜けて再び我々の前に現れることになりました。その音像は果たして。
本編 清涼感とほんのり神秘ゴシック味
長い時を経て我々の前に姿を現した彼らEvolucijaの2ndフル、“Igra Pocinje” 。ここで聴けるのは前作と比較しても相当一気に洗練度を増した、フィーメイル・シンフォニック・ゴシックメタル。
ゴシックメタルとは書きつつも、ゴシック風な陰鬱さやメロウさはかなり薄め。アルバム全体を覆う色合いはほとんどメロディアス・ハード的な風合いで、曲それぞれのキャッチーさやある種のポップさが印象的な仕上がりです。
バンドサウンドは、クリアでなかなかタイト。分離も良いのでスッキリしたヘヴィさが心地よい響きです。一気に現代の水準のメタルサウンドに仕上がってきました。。そんな中で要所に配置されてるシンフォニックアレンジの透明感もクド過ぎず、前述のキャッチー&ポップさにほんのりゴシック風味の壮麗さを加えてます。
アルバム冒頭からダイナミックなバンドサウンドとシンフォニックアレンジでぐいぐいと聴く者を引っ張る1曲目。跳ねるようなアップテンポ感で一気に掴みにきますね。歌メロには滑らかさの中に何かを予感させるようなワクワク感みたいなものもあって、結構ドラマティック。
2曲目は硬質なメタリック感のギターリフと、澄んだヴォーカルとのコントラストが素敵。爽やかな青空でも見てるようなみずみずしさで、ゴシックメタル的メロウさよりもメロディアス・ハードみたいなポップさが印象的、と書いてるのはこういうところに顕著です。
続く3曲目はリードギターのフレーズがいかにもヘヴィメタル的な熱さを滲ませるパワーバラード風。
壮麗なシンフォニックアレンジと分厚いバンドサウンド、しっとりと歌い上げるヴォーカルのコンピネーションがドラマティックな4曲目。これは本作中でもゴシックメタル寄りの雰囲気でしょうか。陰鬱さというよりは神秘性が光る質感なのがたぶん彼らEvolucijaらしいところでしょう。
そして再びアップテンポに聴かせる5曲目。ギターリフの端々は正統派メタルっぽい筋肉感を感じつつ、曲全体のドライブ感はパワーメタル的な勇ましさ。でも汗臭くならないのはIlana Marinjes女史のヴォーカルの透明感&清涼感があるからで、爽やかに疾走する一品になってます。
6曲目はどこかほんのり中近東風なアレンジがどことなくミステリアス。神話世界みたいな幽玄さとも言えそうですが、この辺が再びゴシックメタルっぽさを感じさせる瞬間になってます。
そして個人的に本作で間違いなく1番好きな7曲目。これは本作中最もメロディアス・ハード方面に振った曲といえそうですが、そのキャッチーさが最高。ギターリフ&リズムのドライブ感に、重厚なベースラインに乗るさわやかヴォーカルが超素敵。書いててここだけテンションが変かも知れませんが、通しで聴いててこの曲になるとやはり体がピクリと反応するのは避けられず。。思わず笑みがこぼれそうな一品。好きすぎるので記事下にリンク貼っておきます。
続く8曲目はセンチメンタルなピアノの音色にハッとするような一品。これはストレートにいつかのオランダ勢みたいな(?)フィーメイルゴシックの王道なスタイルでしょうか。切り込んでくるギターソロもエモーショナルで心地よい。
9曲目は本作でたぶん一番のスピードチューン。メロスピとまではいきませんが、リフがどことなくIron Maidenを思わせる気がするようなしないような。ここでもヴォーカルとアレンジの質感が相まって、まるで空を駆けるような高揚感が素敵です。
そしてエンディングを飾る10曲目は、ヘヴィにうねるバンドサウンドと透明なヴォーカルのコントラストが再び光ります。特にサビの歌メロとコーラスの層を成すシンフォニック感がかなり美しい。歌声でこのを表現してるのが白眉です。何かを夢中で訴えかけるようなそのメロディとコーラスにドキドキしそう。透明な無垢感。
強いて難点(?)を挙げるとするなら、聴き手によってはヴォーカルが一本調子に聴こえそうなことでしょうか。個人的には柔和で淡い感じの歌声の響きで結構好きなのですが、逆にそれが単調というか表情に欠ける印象になるかも知れません。
キャッチーかつ精緻な好盤
通しでざっと聴く感じ、清涼感たっぷりのメロディアスな女性ヴォーカルモノのメタルみたいな印象でしたが、改めて聴くと要所でハッとさせられる瞬間がたくさんあって、驚きと共に作品の魅力を再確認しました。
キャッチーでコンパクトな楽曲がそろってるのでBGMにピッタリ系と思いきや、じっくり鑑賞にも耐えうる精緻なクオリティも持ち合わせてる作品と言ってもよいでしょう。
もはや前作は黒歴史すぎるので闇にでも葬った方がよさそうな程、全てにおいて真っ当な作品になっています。
完全にマニア向けだった前作の音作りのチープさが嘘みたいで、本作でようやく作品を世に問うても恥ずかしくないアルバムになりました。
本記事書いてるのは2022年ですが、どうやら翌2023年には彼らの新作も出る模様。期待です。
↓筆者超お気に入りの一品。初聴きの時から作中でもひときわ印象的でした。
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