[レビュー]Mud Factory – The Sins of Our Fathers(セルビア/グルーヴデス・メタルコア)
- 2022.12.08
- Metal Reviews
- Death Metal, Groove Metal, Metalcore, Mud Factory, Review, Serbia, セルビア
セルビア出身のグルーヴ・デスメタル/メタルコアMud Factoryの1stフルアルバム。2020年作品。WormHoleDeathからのリリースで、同レーベルの日本支部WormHoleDeath Japanから国内盤もリリースされていますね。入手してのは公式Bandcampから取り寄せたデジパック盤。
関連情報
バンドの結成は2012年とのことなので、結構長いキャリアの持ち主である彼らMud Factory。翌2013年にはデビューEPとなる”Born for Doom”をリリースしています。
また、同年2013年には彼らの出身国であるセルビアで最も歴史ある音楽フェスGitarijada(ギタリヤダと読むと良いと思われます)で優勝していて、この頃からバンドのパフォーマンスは結構注目されていた模様。このGitarijadaは1960年代から開催されていて、同国セルビアだけでなく、当時のユーゴスラヴィアや東ヨーロッパ圏のバンドの登竜門的な役割を果たしていたそうです。
そして彼らは2015年には2枚目のEPとなる”Project Extinction”を現地セルビアのNoctune Mediaからリリース。このNoctune Mediaは、セルビア唯一のメタル雑誌Noctune Magazine(現在は廃刊)のメディア部門。
そういえば、セルビアの英会話講師のお姉さんの兄弟がそのNoctune Magazineでライターをやってたらしく、雑誌の現物を見せてもらったことがあります。セルビア語なので読めないけどなんか羨ましい。
そして2020年には待望の1stフルアルバムとなる本作”The Sins of Our Fathers”が、WormHoleDeathからリリースされました。前述のとおり、その日本支部であるWormHoleDeath Japanからは日本盤も出てますね。
本作のレコーディングはセルビア国内で行われていますが、注目はミックス&マスタリング。セルビア産では珍しく、その作業がスウェーデンの名門Fredman Studioで、Fredrik Nordström氏の手によって行われています。Fredrik氏の携わった作品はもはや枚挙に暇がないほどで、メタラーの皆さんはきっとどこかでその名を耳にしてることでしょう。Arch EnemyとかSoilworkとかDimmu Borgirとか、北欧、とりわけあのスウェディッシュメタルサウンドといえばココ、みたいな。。
Fredman Studioでのミックス&マスタリング作業には、Wacken Foundationなる制度の助けもあって実現している模様。Wackenの文字通りあのWackenによる、メタルミュージシャンの活動にかかわる資金援助の制度があったんですね。
本作の編成は、バンド結成当初から在籍している3人、Stefan Milanović氏(ヴォーカル)、Milan Stefanović氏(ギター)、Nemanja Stanković氏(ベース)に、Vanja Seneši氏(ドラムス)という4人。ベーシストのNemanja氏はMud Factoryに加入する前には、メロディックメタルのÆterniaに在籍していましたね。
血の通った狂気のメタルコア
さて、そんなMud Factoryですが、本作で聴けるのは骨太マッチョな熱きメタルコア/グルーヴメタル。そっち方面はあんまり詳しくないですが、メロデス寄りのメタルコアというよりは、Lamb of Godみたいな土臭い感じというか、甘さ控えめでメランコリー成分なしの重金属グリグリ系な気がします。
音作りの方も、Fredman Studioでのミックス&マスタリングが効いてるのか、クリアな音の中にいい具合の歪みと重厚なドロみのスウェディッシュ味でデスメタル風の感触が濃厚。ソリッドに洗練された切れ味のメロデスというよりは、古き良き時代のスウェデスの香りを現代に残した漢らしい味付けかも知れません。
イギャアァァみたいな絶叫と病的なメロディライン&刺々しいブラストビートで幕を開ける本編1曲目。血でも吐きながら叫んでるのかという勢いのStefan Milanović氏のウェットなデスヴォイスに狂気が滲み・・・そして中盤のうぉぉおーおーおーって濁ったシンガロングがマッチョなアツさを燃え滾らせる、恐るべきメタルコア・アンセムが炸裂。例えば社畜デスマーチで死にそうな出勤時に、血ヘド吐きそうな思いでゾンビみたいなカラダ引きずってる時に超染みそうな、「それでも全力前進、死んでても起き上がって動け」みたいなドロドロの行進曲ってとこでしょうか。
2曲目も独特の不穏さが揺らぐメロディーというか歌心があって、グリグリと迫る重苦しいリフと打ち付けるリズム、ディープなヴォーカルが一体となって襲い掛かってきます。ここでもなんだか「うん、おなか痛くても体調悪くても全然働けるよね?」ってキツい時に自分で自分に鞭打って立ち続けて、残ってるのはもはやある種の狂気だけみたいな情景。。そしてそんな中で一瞬魂抜けそうになってるみたいな薄気味悪いクリーンヴォーカル。もうどうでもいいや、ってぷっつりと切れてしまいそうになりながらも、ヘヴィなグルーヴを耳に流し込んで我に帰る、そんな泥沼。
そんな狂気と吐瀉物まみれの行軍はなおも続き・・・
そろそろ精神もだいぶ病んできて、気づけばいっつも肌に爪を立ててるひっかき音みたいな冒頭ギターリフを持つ4曲目。一方でどことなくメロウなリフの響きと、一瞬の静寂パートも配置されていて、ボロ雑巾みたいになってても少しは呼吸を整える時間にもなってそうな一品。曲後半では再び「やったるよ畜生コノヤロー」みたいな炸裂。
5曲目は曲中盤で一瞬飛び出すブラストビートが印象的な1曲。一方であくまで主体はブ厚いバンドサウンドを叩きつける重厚感とそのうねりでもあって、跳ねるようなリズムと吐き出されるヴォーカルが憎しみまみれで素晴らしい。湿っぽいグロウルから、ハイピッチのギャァァァ絶叫まで振り幅も広くて、鬼気迫るとはきっとまさにこの事でしょう。
そして作中の最高速を曲冒頭でマークしてるであろう7曲目。スリリングなギターリフと裏打ちのリズムに載るグロウルの姿はもはやデスメタルのそれ。ここまで聴いてると、もはや彼らに速さという切れ味は求めなくなってるであろう瞬間に、この爆発力は結構ドキッとします。そして曲後半はほんのりとエモーショナルに展開してて素敵。
ラスト8曲目は一転してスローで、ある種ダウナーあるいはドゥーミーでさえあると言えそうな一品。同時にマシナリーな冷ややかさも漂っていて、アツいメタルコア行軍から、何となく突き放されたような殺伐感。
メタルコアというと、個人的にはメロデス風の思わせぶりなクサ味か、あるいはもっと無機質で殺風景な破壊音の連続のイメージでしたが、彼らMud Factoryが聴かせるのは、全体的にもっと血の通ったアツさと人間臭さな気がします。
死の行軍マーチのあとに
実は筆者、メタルコアとかグルーヴメタル方面ってそんなに好みでもなかったりするのですが、上述の音作りのおかげか、案外すんなり聴いて楽しめて、それ自体が意外な驚きでした。
思わせぶりなクリーンヴォーカルやメロディー成分が皆無なのがよかったのかも。その存在を否定するわけではありませんが、狂気を滲ませながら、たぎる怒りや憎しみをメタリックに叩きつける様が素敵なのです。あとはおなじみのFredmanサウンドの効果かしら。
・・・なんというか、個人的には怒りや憎しみ、嫌悪感や破壊衝動みたいなネガティブな感情の音楽的表現って、ブルデスやファストブラックみたいな爆速ブラストビートの超連打に、ゴリゴリあるいはザラザラの発狂ギターリフが非常に馴染む人間でして・・・
というわけで、彼らMud Factoryが本作でしてみせた、重厚な鈍器によるグルーヴィなうねりで描かれる狂気や憎悪の表現が味わい深いのは筆者にとっては結構な新たな発見というか、新たな目覚めというか・・・メタルコア方面の愛聴盤のひとつになりそうです。
そして何より国内盤が出てるってことが何よりのお墨付きって事でよいのでしょう。売れてるのかは不明ですけど、見かけたらみんなで買いましょう。。
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