[メタルレビュー]Enchanted Sword – Chapter 1: Hero Reborn(セルビア/エピックブラック・パワーメタル)
- 2022.12.02
- Metal Reviews
- Black Metal, Encanted Sword, Melodic Metal, Review, Serbia, セルビア
セルビア出身のエピックブラック/パワーメタルEnchanted Swordの5曲入りデビューEP。2022年作品。セルビアからのニューカマーで、BandcampからCD盤を取り寄せようとオーダーしたものの、現地の郵便の都合(?)で送れないそうなので、デジタル版での入手となりました。
関連情報
バンド名からしていかにも、といった感じでセルビアから突如彗星の如く(?)登場した彼らEncanted Swordは、ギタリストのIvan Radnić氏とヴォーカルのMladen Stanković氏という、2人のセルビアの若手によるメタルプロジェクトといった構成。
ギタリストのIvan Radnić氏はこれまでは、同郷セルビアのパワーメタルEternityや、隣国モンテネグロのブラックメタルMoranaといったで活動していた人物。どちらもバンドというよりはプロジェクトといった構成だったようですが、活動的なセルビアメタル界の若手と言えそうです。
そしてヴォーカルのMladen Stanković氏は、セルビアの一人ブラックメタルStrahor(Страхор)の中の人と言った方がもはやしっくりきそうな人物。様々なバンド/プロジェクトに携わっていますが、そのStrahorが結構な多作で存在感がすごいので。。
Encanted Swordで共に活動する以前から、この2人はすでに関わりがあったようで、Ivan氏はMladen氏によるStrahorの作品の一部でカバーアートやデザインを手掛けていた、という仲のようです。
そんな2人が新たに送るメロディック・エピックメタルがこのEnchanted Swordになります。これまでのこの2人の経歴からするとブラックメタル方面のイメージが強いですが、カバーアートからして絵に描いたようなファンタジー路線のメタルであることは想像に難くない気もしつつ・・・。
アルバムの”Chapter 1: Hero Reborn”というタイトルからして、壮大な物語の幕開けを飾る作品になりそうですね。
なんでもArcadiaという大陸の伝承に存在するという戦士たちの物語なんだそう。彼らは強力な武器と魔法を駆使して古の夜の魔物と戦い、王国を守護したといいます。果たしてその音像やいかに。
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↑Enchanted Sword公式Instagramより
戦士の旅路の物語
パッと聴きはRhapsody(of Fire)感満載のコテコテファンタジーメロスピwithブラックメタル風ヴォーカルみたいな印象。同郷セルビア産だとNumenorの初期作品と重なりそうなイメージでもあるような。
実はよく聴くとファンタジー感の中にも多彩な表現がちりばめられていて、Rhapsody(of Fire)あたりを筆頭とするエピックRPGメロスピみたいなクサ味は言わずもがな。加えて要所でEluveitie方面のドラマティックなフォーク風味とメロデス感もちりばめられていて、クサメロ満載のファンタジーメタル一辺倒という事には案外なってない気がします。
どこか物悲しいハープ(?)がぽろぽろと鳴り、壮大なオーケストレーションと共にArcadiaでの物語の幕開けを告げる1曲目。一気にブラストビートの嵐が吹き荒れ、悲壮感とメランコリー漂うギターのメロディーが、作品冒頭から聴く者の涙を誘います。そこからスリリングに展開していくメタリックな骨格に、Mladen Stanković氏による、Storahorその他でブイブイ言わせた(?)ディープなデスヴォイスが狂気を滲ませます。曲中盤では再びブラストビートと絡みあうメロディのエレガンスが胸をエグり、キラキラした静寂の後にソロパートへなだれ込む様式美。
圧巻の泣きメロチューンに恍惚とうっとりしたあとは、これぞ王道メロスピまっしぐらなRahpsody風味のクサ味とヒロイックさの2曲目で、一気にメタルウォーリア共の血を目覚めさせに来ますね。掲げられた剣の鋭さがキラリと輝く美しい緊迫感に、空を駆けるメロディーの乱舞。
3曲目は引き続きヒロイックなシンフォニックアレンジが印象的な一方で、ブラストビート&冷たく輝くトレモロリフで本作中最もブラックメタルを強く感じる一品。かと思いきや中盤では、ほんのりオリエンタルな切り返しから、フォーク風味のメロディがEluveitieを思わせる壮大でドラマティックなメロデス感。
続く4曲目は9分強に及ぶ大曲。曲前半はミドルテンポ主体で進行する戦士の行軍の様な雰囲気でしょうか。ロングトーンのギターメロディの使い方が、俯瞰っぽく引いたカメラワークの様に広大なファンタジー世界の奥行きと広がりを描いて見せます。そして後半はメロスピ風の疾走パートに突入して、ここでもヒロイックなメロディが乱舞してます。最後は再び重厚に、どこか悲壮感を漂わせながら、ナレーションと共にフェードアウト。
そしてエンディングとなる5曲目。ここまではMladen Stanković氏によるデスヴォイス歌唱がストーリーを語ってましたが、ここではデス声無で、パワーメタル直球という新たな一面を提示して見せます。男女クリーンヴォーカルのデュエットになってて、それを担うのはゲスト参加のDanny Kross氏と、同郷セルビアのシンフォニック・ゴシックDemistやAuriumで活躍するDragica Maletić女史の2人。このデュエットがなかなかにエモーショナル&ドラマティックで、持ち味のメロディーと相まって素敵なファンタジー感を演出してます。
物語の第1章の終焉を予感させる雰囲気でありながら、新たな幕開けのプロローグをも同時に連想させる高揚感の織り交ざった、なんとも不思議な感覚を残して、本作は幕を閉じます。
・・・少し聴いてて気になるのは、リズムギターの音がちょっと弱いというか、線が細い事。聴く人によってはリードギターやソロパートの音作りも改善の余地ありという印象を持たれるかも知れません。
逆にその分メロディーやシンフォニックアレンジの緻密さやきらびやかさは目立つのですが、メタリックなパンチがもう少し欲しくなる感じ。
収録曲それぞれがキャッチーで、素敵なメロディーとエピック&ファンタジックな装飾も満載で結構粒よりな出来上がりなだけに、ちょっとその辺が惜しまれます。聴くに耐えないという程では全くないのですが、ガリッと響く質感のギターリフがこれに組み合わさったらもっと強力になるはず。
彼らEnchanted Swordにとっても第1章。
ということで、よく聴けばメロパワからシンフォブラック、メロデス、フォークメタル風味まで、案外振り幅もあることに気づく本作。そしてそれをお約束のファンタジーワールドのタッチでまとめ上げる統一感で、安心して冒険に思いを馳せることが出来そうな仕上がりになってます。
個人的には本作に関しては、メロパワだのブラックだのという楽曲の構成要素よりは、それら牽引するメロディー使いが最も印象的な気がします。メタルのサブジャンルいろいろを消化したうえで、それらをエピック・ファンタジーの世界観で包み込んで表現したその手腕というかセンス、あるいはタッチ?筆致?が素敵。みたいな。
本作のタイトルでChapter 1と銘打ってるあたり、同じ世界観で続編を作る気満々と宣言してるようなモノ。そんな彼らですが、筆者は完結まで応援したくなるくらい結構気に入って聴いてます。今は2人組のプロジェクト的な編成ですが、例えばいつかはフル編成のバンドに進歩を遂げたりして、ぜひこの路線でもっとメタリックになって続編を聴きたいものです。
Amazon様↓
Enchanted Sword – Chapter 1: Hero reborn
[メタルニュース]セルビアのエピックパワー/ブラックメタルEnchanted Swordが、デビュー作”Chapter 1: Hero reborn”をリリース!