[レビュー]Vokodlok – Mass Murder Genesis (ルーマニア/ブラックメタル)
ルーマニアの西部トランシルヴァニア地域の都市、ティミショアラ(Timișoara)出身のブラックメタルVokodlokの1stフルアルバム。2003年作品。この音源も、Discogsでセルビアから大量に購入したものの1つになります。
リリースは同じティミショアラのBeauty of Painというレーベルからで、Metal Archivesによると限定500枚だそうです。最近あまり見かけなくなった気がするスリップケース付で、このテの作品にしては豪華仕様かも。
彼らはルーマニア西部の出身という事で、地理的にはセルビア北東部の国境にほど近い位置関係になりますね。そしてまさにトランシルヴァニアの出身ということで、それらしい要素が感じられるかも、注目(耳?)です。
Discogsで大量注文したお話は↓をよければご参考にどうぞ。
[海外通販記]初挑戦のDiscogsでセルビアのセラーに大量注文・編[第3弾]
関連情報
Metal Archivesによるとバンドの結成は2000年。同年にデモをリリースしていて、(おそらく)同音源は翌2001年リリースのスプリット盤にも収録されています。
バンドメンバーについては不明な点も多いのですが、本作のレコーディングメンバーは、Gardrak氏(ギター)、Blestemat氏(ベース)、Strigoi氏(ヴォーカル)、Freak氏(ドラムス)の4人。クレジット名が違うのですがおそらくデモ音源も、この編成と同じと思われます。
それからMetal Archivesには、バンド名のVokodlokというのは、スラヴ語でウェアウルフ(Werewolf)を意味する”vukodlak”という語から来ているそうです。そしてこの”vukodlak”はトランシルヴァニアの伝説上の生き物なんだそう。
折り目正しいブラックメタル
音質はちょっとチリチリした感じで、地下ブラックメタルではよくありそうな音。よくも悪くも普通というか、不鮮明すぎずクリアすぎずという、これもブラックメタルにありがちな感じ。
全体的なイメージとしては、程よくRawでプリミティブというかオールドスクールな感じのスタイルで、個人的には90年代半ばから後半くらいのMardukのそれに近いような印象です。それにうっすらと東欧っぽい妖しさが加わってるような気がします。
ヴォーカルは中音わめき系で、ドラムスがブラストビートでバカスカ飛ばしつつギターのトレモロリフがザラザラ響く瞬間なんかは、なかなかの騒々しさです。
イントロに相当する1曲目は、ギターのどんよりしたリフでその後続く本編を導きます。その2曲目は冒頭からブラストビートとガリガリしたトレモロリフで飛ばしていきます。ブラストビートといっても本作の場合は、隙間を感じる速さので、そのあたりが90年代のMarduk風を思い起こさせます。
3曲目前半のリフはちょっと病的な響きの単音リフで、ドラムスの変拍子に乗せて気味悪く進行。そして曲後半からはふたたびトレモロリフ+ブラストビートも交えて凶暴化。ちょっとハイピッチになるヴォーカルの叫びもあって、このあたりがなかなかノイジーです。
4曲目に登場する単音トレモロリフは案外メロディアス??といってもメロブラ的な甘みというかドラマ性ではなくて、ペイガン風というか土臭いメロディー感というか。中盤のちょっとスローにジメジメした(?)展開はオカルティックな響きをともないつつ、一瞬デスメタル的なリフを挟んだりと、予想以上に多彩なことに気付きます。
ダン・ダン・ダンのキメがちょっと印象的な5曲目。この曲はザクザクとスラッシーなリフを交えつつ、時にペイガン風に、時にトレモロリフがガリガリ騒々しく爆走したりしてます。本作の中では最も凶暴性が印象に残る1曲かも知れません。運指の細かなリフはちょっとテクニカル風で、(良い意味で)小細工もばっちり。
クリーントーンのギターによるインタールード風な小品の6曲目に続き、彼らの辺境出身ぶりが聴いて取れる7曲目。この曲は不穏なペイガニズムの香りが最も濃い一品といえるでしょう。ちょっとセルビアのThe Stoneの持つ薄気味悪さに通じる気もします。中盤のブラスト疾走も、攻撃性というよりは、その不気味な空気をぶちまけるのに主眼を置いたような。。
そして8・9曲目ではブラストビートでの爆走と怪しげなスロー・ミドルパートを行ったり来たり。ここでもやはり印象に残るのは騒々しい炸裂パートのイメージです。
アルバム全体を通して、よく聴けば案外細かいところでいろんなことをやってるのですが、爆走パートの方につい意識が行ってしまい、小さな展開があまり印象に残らないのは自分の聴き癖なのか、あるいは実際に曲にフックがいまいち足りないのか・・・。
うっすらトランシルヴァニア?
これ書くのに結構聴きましたが、実のところ総じて決して悪くはないのだけれど、とりわけ強力なポイントもあんまり見当たらず・・・。ブラックメタルの流儀みたいなものに忠実にならってるスタイルなので、その分印象に残りづらいというか。
逆に言えばしっかりとブラックメタルとして手堅くまとまってる安心盤とも言えるのですが、あえてこの作品を聴かなければならない理由となると、そこまでではないのかも知れません。
しかしながらよく聴くと、前述のような90年代のMarduk風の凶暴なバカスカ感の一方、東欧産ならではの妖しさやほの暗さ、ペイガニズム風味(?)といった特有のトーンを感じるのも事実。
それらはそれ程あからさまではないにしろ、もしかするとそれこそがルーマニア産というかトランシルヴァニア産っぽさなのかも。
ルーマニア産といえば自分は、以前にNegra Bungetをちょい聴きして、当時その独特さについていけなかったクチで、他にはほとんど聴いたことがない、というレベル。トランシルヴァニアの何たるかを語るには全然及びませんが、本作の香りというかイメージをヒントのひとつにして、今後もそのディープな(?)ルーマニア産モノを発掘できたらと思います。
きっとそれらしい何かが音楽の中に隠されてると思うと、なんだかやっぱりやめられない止まらない、辺境地下ブラックメタルです。
なんとなくこのへんの↓Mardukを思い出すのです、個人的に。
Marduk マーダック / Heaven Shall Burn …
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