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[レビュー]Abhoth – Abhoth (モンテネグロ/デスメタル)

[レビュー]Abhoth – Abhoth (モンテネグロ/デスメタル)

旧セルビア・モンテネグロ、現在のモンテネグロ出身のアトモスフェリック系デスメタルAbhothのデビューEP。2014年作品。ロシアのSatanath Recordsほか複数レーベルの共同リリースで、500枚限定とのこと。リリース元のSatanath RecordsからDiscogs経由でお取り寄せの一品。

関連情報

彼らの出身国であるモンテネグロは、旧ユーゴスラヴィアを構成していた地域の一つ。90年代の紛争によってユーゴスラヴィアが崩壊したのちは、セルビア・モンテネグロとして、現在のセルビアと国を1つにしていました。その後2006年に、モンテネグロとしてセルビアから独立、現在に至ります。

という事で歴史的にも地理的にも、また文化的にもユーゴスラヴィアあるいはセルビアとも近いのが、彼らの出身国であるモンテネグロ。なのですがメタルシーンに関しては、どうやら随分と事情が違う模様。

セルビアはほとんどバルカン地域のメタルシーンの中心地のひとつと言ってもよさそうな一方で、こちらモンテネグロはメタルバンドの数がかなり少ない。岡田早由さんの名著にして大著『東欧ブラックメタルガイド2』で紹介されてるのはわずか6バンド、Metal Archivesでの検索結果で15バンドが確認できるのみという状況です。

 

そんなシーンでも印象的な活動を行っているのが彼らAbhothとその構成メンバーの皆さん。

バンドの結成は2006年。Miloš Klikovac氏(ギター)、Srđan Mišović氏(ヴォーカル)、Branko Jugović氏(ベース、プログラミング)のトリオ編成で活動がスタートします。

同じ編成で2014年に、3曲入りの1stEPとなる本作、”Abhoth”をリリース。現時点での彼らの唯一のリリースになっています。ここではBranko氏はベースに加えて、作品のミックスとマスタリングも手掛けています。

この3人はAbhothでの活動ほか、Goblin Zeppelin, KK Street Bangers, Violent Drunks, Zaimus, Hostisといったバンドでも活動しています。グルーヴメタル系から、スラッシュメタル、果てはデス・ブラックメタルまで、かなり多彩ですね。あんまりカテゴリの枠にとらわれず活動するメタルガイ達、って事なのでしょうか。

カバーアートは、David Husić氏なる人物の手によるもの。うねうね触手のカバーアートは、ラブクラフト的なやつか?と思ったら、歌詞のテーマはやっぱりクトゥルー神話らしい。ブックレットに歌詞が載ってないので、詳細は不明ですが。。

重厚でミステリアス、そして神々しさの深淵のアトモスフィア。

そんな彼らがAbhothの音楽で提示してみせるのは、CDトレー部のMontenegrian Atomospheric Death Metalとの表記の通り、ミステリアスなシンセの音色が要所で轟く、濃密で重厚なアトモスフェリック・デスメタル。

個人的にはアトモスフェリックなデスメタルって、ちょっとピンと来なかったのですが・・・その音像は果たして??

 

全体的には、オールドスクール風味のギターリフがズ太く重厚に刻み、鳴り響く中、アトモスフェリック系特有のふわりと包み込むようなシンセの音色が折り重なってメロディーを紡いでいく感じ、でしょうか。

デスメタルと一口に言っても、ブルータルな攻撃性というよりは、屈強&勇壮な骨太感とマッチョ感が印象的です。曲の骨格を成すギター、ベース、ドラムスそれぞれについてそれは共通してますね。

一方で、ミステリアスでちょっと不穏、時に不気味でもあるシンセの装飾は、彼らの音楽の(たぶん)キモとなるメロディー感を彩っていて、独特の引っかかり感を生み出してます。

そんな重厚な鋼鉄感と、陰鬱なタッチで彩りを添えるシンセのコンビネーションが、彼らAbhoth流アトモスフェリック・デスメタルってことになるのでしょう。

 

冒頭のふわふわとしたシンセの音色に導かれて、スロー&重厚にギターリフがとどろき幕を開ける1曲目。Srđan Mišović氏によるヴォーカルは低音のグロウル系。その咆哮のウェットな質感がなんだか色っぽいかも。曲中盤からは少しテンポを上げて、ファンファーレを思わせるメロディというかフレーズのリフレインを伴ってドシドシ猛進。ミステリアスでいながら、どこかメロウで壮麗という独特の質感のシンセの装飾と、勇壮で屈強なデスメタル成分のコンビネーションが耳を引きます。

続く2曲目は個人的に本作で1番のお気に入り。前半部、跳ねるような3連のリフ&リズムに、暗雲立ち込める不穏さのシンセが折り重なって、まるで邪悪の軍勢が音もなく迫りくるかのような・・・。特にベースがゲコゲコ踊りまくってるのが超クール。曲中盤では、スロー&メランコリックなパートが登場。キーとなる叙情的なメロディ?フレーズが、ギター、シンセそれぞれで繰り返されて、アトモスフェリック感を演出。とりわけシンセの音色が、微妙にタッチを変えて繰り返されるそのセンスが絶妙。美しくありながら、どこかトラウマティックな気持ち悪さを孕んでいていい意味で不気味。

ラスト3曲目は頭打ちのドラムスのリズムがドカドカたたみ掛ける中、壮大なランドスケープ感?のギターのメロディが切り込むドラマティックな一品。中盤からのスロー&マッチョな肉厚感と、神秘的なメロディ&ミステリアスなシンセの音色がなかなかに神々しい。

 

・・という、デスメタルの重金属感に、壮麗で不穏な装飾を重ねた、ミステリアスな空気感漂う3曲約18分。

Montenegrian Atomospheric Death

アトモスフェリック系というか、雰囲気もの方面の作品って、酔えるとイイのだけど、それは平坦な退屈さと紙一重でもありそうですが、彼らAbhothはその辺の、退屈させない作り込みみたいなところが見事な気がします。

フックというかリズムが平坦にならないギターリフ使いの巧みさだったり、統一感を失わない中で、シンセの音色を変える絶妙な色使いだったり・・・小技が要所で効いてるっていうんでしょうか。。。

個人的にはこういう作風の音源にあまり触れた事がなかったのもあって、初めて本作に触れたときは、いい意味で予想を裏切る驚きというか新鮮味で、結構ドキっとしたのを覚えてます。

決してドカドカバシバシ炸裂したりしてる訳でもないし、露骨なアツさ全開って訳でもないのに、どこか水の底とか砂漠の地下とか閉ざされた山のさらに向こうでうごめく強大な何かを感じそうな、秘めたる膨大なエネルギー感。。。

その屈強な質感がにじみ出る強さと陰鬱な高揚感を伴うメロディーと相まって、不思議と耳から離れない、みたいな。

ミステリアスな異形の空気感を閉じ込めた、独特の風合いの1枚でしょう。フルアルバムでもぜひ聴きたくなる作品。

あ、あと、公式Facebookによると、現在1stフルアルバムの制作が進行中らしく、カバーアートが同ページで公開されています。確か記事は掲載から時間が経ってるので、お蔵入りにならずリリースされることを祈るばかりです。

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